012 銅級冒険者1位

「ロキよ、久しぶりのゴブリンダンジョンだが、大丈夫か?」


 サラが尋ねる。


「大丈夫だよ。丘の修行、滝打行、谷落とし、人間大砲、数え切れないくらいの特訓をしたんだからね」


 更に宣言した通り、全く問題なく5階層まで駆け抜けた。


「ところで、なんでダンジョンでは他の冒険者に出会わないんだろう?」


「ダンジョン内は一緒に入った者以外には出会わないものとされている。自分専用ダンジョンと思えばいい」


「そっか、喧嘩にならなくていいね」


 ボス部屋に入る。特訓のおかげでゴブリンキングは全く脅威にはなり得なかった。


 3日間連続でゴブリンダンジョンを攻略した結果


「おめでとうございます。ついに同級冒険者1位ですね!」


 ベリンダさんが冒険者プレートを返してくれる。


 名前:ロキ

 スキル:死んだふり

 級位:銅

 ランキング:1位(48397位→1位)


 ついに銅級冒険者1位になった。


 ベリンダさんと喜び合っていると、酒場の方にいた冒険者が怒鳴りだした。


「銅級1位だとぅ!?こんなガキが??」


 ドタドタとこちらに近づいてくる。


「こんなガキが銅級1位なら俺のランキングはもっと上のはずだろうが!」


 酒に酔っているせいか男の怒りがエスカレートしていく。


「これ、どうしたらいいですか?」


 ベリンダさんに尋ねる。


「銅級153位のロイヤーさん、やめたほうがいいですよ。負けますから。どうしても喧嘩するなら外でしてください」


 ベリンダさんは火に油を注いだ。


「いいだろう!ガキ、外に出ろ!」


「はぁ……分かりましたよ」


 ロキとロイヤーと野次馬達が外に出た。


「こんなガキが1位な訳がねぇ!どうせ親に頼んで代わりにやってもらったんだろ?親もロクデナシだな!」


 ロイヤーは野次馬達に聞こえるように騒いだ。


 ロイヤーは気づいていなかった。ロキの雰囲気が変わったことに。


「お前、今なんて言った?」


 ロイヤーは答えた。


「お前の親はロクデナシだって言ったんだよ!」


 次の瞬間、ロキはロイヤーの懐に入り、【死んだふり】を纏った右拳でアッパーした。


 顎を打ち抜かれたロイヤーは【死んだふり】の反発力も加わり4メートルほど吹っ飛んだ。


「「……」」


 野次馬達は誰も声を出す事が出来なかった。


「人間とはなんと愚かな生き物か……」


 サラが独り言を呟いた。


 ロキがその場を立ち去ろうとした時


「止まれ」


 目の前に同い年くらいの男が立ちはだかった。


 金髪、青い目、美少年だ。豪華な装備をしている。貴族だろうか?


「俺はウィリアム・エヴァンス。銀級冒険者だ。そこで倒れている男は知り合いなんだが、お前がやったのか?」


「だったとしたら、どうする?」


「少しお仕置きをしなきゃいけないな」


 ウィリアムと名乗った男は綺麗な剣を抜き構える。すると刀身が光り輝く。


「お、おい!あれはまさか聖剣じゃないか!?」


 野次馬が騒ぎ始める。


 聖剣を初めて見たロキは怒りが収まり、冷静になると同時に聖剣に興味を持った。


「ゆくぞ!」


 ウィリアムが一足飛びで懐に入ろうとする。ロキはバックステップで下がりつつ間合いを開けようとした。


「無駄だ!【聖斬セイントスラッシュ】!」


 ウィリアムが叫ぶと光の斬撃が飛んできた。


 だが、ロキは驚かなかった。その技は師匠の得意技だったからだ。


「【死んだふり】」


 ロキは斬撃を受けたが全くの無傷だった。


「無傷だと!?」


 ウィリアムは無傷のロキを見て動揺してしまった。


 ロキはすかさず間合いを詰め、首に剣を突きつけた。


「ぐ、俺の負けだ」


 ウィリアムは剣から手を離した。


「…………」


 ロキは何も言わずに今度こそ立ち去った。

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