003 イーストコースト村

 ロキはもう15歳、成人である。


 本来なら家を出て独り立ちするべきなのだが、祝福の儀であんな事故に巻き込まれた為、ずっと家族と一緒だった。


 イーストコースト村に住むことも決まったので、ロキはそろそろ家を出ようと思っていた。


「父さん、母さん、そろそろ家を出ようと思うんだけど」


「うーむ、だが、王様の返事がまだ来ていないから正式に住む権利が貰えたわけじゃないんだぞ」


「そうよ、まだこの家に居なさい」


 ロキは元々冒険者になろうとしていた。祝福の儀でウルトラスーパーカッコイイ無敵のスキルを貰って、冒険者として活動したいと思っていたのだ。


「でも、冒険者になりたいんだ!」


「じゃあ、この家から通えばいいじゃないの」


 ちなみに、この家は村長ギッティさんから無料で借りている物件である。


「分かった、そうする。じゃあ、冒険者ギルドに行ってくるよ!」


 こうなった母さんには何を言っても無駄だ。


 早速、冒険者ギルドに行くことにした。


 狭い村なので、すぐに冒険者ギルドを見つけることが出来た。


 冒険者ギルドに入ると、閑散とした様子だった。人口も少ない港町ではこんなものなのかもしれない。


 受付のカウンターは無人だ。受付に行き、声をかける。


「どなたか居ませんかー!?」


「はいはい、ちょっと待っとくれよ!」


 若い受付嬢を想像していたが、奥から出てきたのは老齢のおばあさんだった。


「ハァハァ、よいしょっと。冒険者ギルドに何か用かのう?」


「冒険者になりたいんです」


「え?あたしゃ耳が遠くてのう」


「冒険者になりたいんです!」


「ああ〜、冒険者登録ね。この羊皮紙に名前と、スキルを書いておくれ」


「あ、はい」


 ロキは貧乏な家で育った為、学校に行ったり家庭教師を雇って字を勉強する機会がなかった。


 だが、幸いなことに教会の司祭様が無償で教えてくれたのでロキは字を書くことが出来る。


 名前:ロキ

 スキル:死んだふり


「はい、書きました」


「どれどれ、ちゃんと字は書けるようだね。スキルは死んだふり?聞いたことないねぇ」


 何か言われるかと思いドキドキした。


 だが、特に何もなく冒険者登録を進めてくれたようだ。


「ほい、これが冒険者証ね」


 銅のプレートを渡される。


 名前:ロキ

 スキル:死んだふり

 級位:銅

 ランキング:745426位


「ランキング?」


「ランキングはそれぞれの級位での順位じゃ」


「じゃあ僕は今銅級の中で745426位ってこと?」


「最下位じゃな」


「ええーー!」


「今登録したばかりなんじゃから当たり前じゃろ。悔しかったら依頼をこなして順位を上げるんじゃな。ヒャッヒャッヒャ!」


 ロキはムッとしたが、出かかった言葉を飲み込んで依頼掲示板に向かう。


 銅級の依頼はどんな感じかな?


【畑の害獣駆除】

 畑に出るモグラを退治してほしい。

 達成条件:モグラを5匹以上退治

 報酬:1匹当たり銅貨10枚


【寄合所の掃除】

 寄合所の掃除をしてほしい。

 達成条件:村長の確認

 報酬:村長宅で夕食


「な、何の冒険もない……」


 ガックリとうなだれたまま家に帰った。


「あんな事をする為に冒険者になったわけじゃないのになぁ」


 夢に破れたロキは涙で枕を濡らすのだった。




 翌朝、母さんの声で目を覚ます。


「ロキ!起きなさい!お客様が来るのよ!」


 いつもより大きな声だ。これはすぐに起きないと怒られる時の声だ。


「はい!起きました!」


 慌てて着替えてリビングに行った。


「今日は王様の使者が来るのよ。早くご飯を食べて準備するわよ」


「そんなの初耳なんだけど!」


「ロキは昨日何も聞かずに寝ちゃったじゃないの」


 たしかに寝てしまったので何も言えない。



 準備をして1時間後、使者が訪れた。


「俺、いや、私はフティア王国の国王イーリアス・フティア!……の使者である」


「何か変な区切り方しますね」


「ギクッ」


 ロキが思わずツッコミを入れる。


「ロキ!失礼な事を言わないの!息子がすみません!」


「よい、国王は心の広い御方だ。お前達がこの国に住むことも許可するとのことだ!」


「「ありがとうございます!」」


 両親が頭を下げたので遅れて頭を下げる。


「ところで、そこの君、ロキ君と言ったか、珍しいスキルを持っていると聞いたのだがどんなスキルなんだい?」


「はい、死んだふりと言いまして、スキル使用中はある程度のダメージを無効化してくれるようなんです」


「実際に見せてくれないか?」


「はい、いいですよ。死んだふり!」


 30秒後に起きるようにセットして死んだふりを発動し、意識を失った。



 目を開けると、そこは家から50メートル離れた場所に倒れていた。


「なんでこんなところに移動したんだろう?死んだふりの間に何が?」


「ロキー!」


「何してんだアンタ!」


 両親の声が家の方から聞こえる。


 急いで家に戻ると、玄関があった場所は大きく壊れていた。


 家の中では父さんが使者の胸ぐらを掴んでおり、母さんがそれを止めようとしていた。


「僕なら大丈夫だよ!それより何があったの!?」


「こいつが突然剣を抜いてロキに斬りかかったんだ!」


「ご両親!ロキ君!本当にすまなかった!」


 使者は深く頭を下げる。


 しばらくして落ち着いた父さんは、使者から離れる。


「何故、あんなことを?」


 父ケパロスが使者に聞くと


「俺の後継者となる可能性のある者を見つけるとつい試したくなってしまってな!本当に申し訳ない!」


「なんか口調変わってない?このおじさん。それに後継者って?」


 すると、外が騒がしいことに気がついた。


「陛下ーー!!どこですかーー!?本当にもうあの人はすぐにどこかに行ってしまうんだから……」


 使者が少し気まずい顔をして


「チッ、もう追いついて来やがったか」


 数十秒後、ロキ達の家に声の主がやってきた。


「陛下!もう逃しませんよ!さっさと王都に戻って仕事をしてください!」


「ヴィクトール騎士団長か、ちょっと休憩がてら王都を離れただけだろう?王の仕事は俺の性に合わねぇんだよ」


「お、王様!?」


「ええーー!?」


 先程胸ぐらを掴んでしまった父さんは土下座した。母さんも同じく土下座した。


 僕はどうするべきかもよく分からず立ったまま固まってしまった。


「陛下、この者達に何したんですか?」


 半壊した家と土下座させている状況を見てヴィクトールが尋ねる。


「お、俺は悪くないぞ!いや、半分、4分の3くらいは悪いかもしれないが……。さあ、ご両親も頭を上げてくれ」


「ほとんど陛下のせいじゃないですか!どうするんですか?」


「む……おお、良い事を思いついたぞ!家を壊したお詫びに王都に新しい家を用意してやろう!」


「(陛下の思いつきの行動がまた始まったよ)」


 ヴィクトールは小声で愚痴をこぼすと溜息を吐いた。


「そうと決まれば、早速王都に向けて出発だ!村長には後で使いを出しておくから問題ない!」


 王様の勢いに押されてロキ一家は誰も反論できず、王都に移住することが決まった。

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