遊び仲間を増やす
一番簡単で確実な手を取ることにした。結局は一番丸く収まるだろう。とまで考えてから、軽くしゃがみつつ捻挫しないよう手を掌の形にし、走り込んできた坊やの横隔膜へ突き出す。
「こっ!? の、カヒュ……」
驚愕の表情が直ぐに真っ青となり、手で腹を押さえてうずくまる。どうも初めての痛みらしい。お腹を守るという意思さえ感じなかった。
―――私が同じ年頃の頃は、漫画の影響で喧嘩の時は皆腹ばかり狙って来たし、此処を殴られると呼吸が出来なくて動けなくなると体で学んだものだが。まぁ、漫画の影響はない方が良い。ヒコウを突く真似をしてコメカミを本気で殴り間違って殺してしまわないで済む。
等と思い出に浸りつつヨナスは男の子の色を確認する。濃いオレンジ。まだこちらへの敵意か何かを抱いてるらしい。ならしゃーない。
「リオネラ、声を出さずじっとしてて。坊や。お前もだ」
リオネラがこくこくと頷いた。怖がっている様子で少し顔色が悪い。後で話そうと決める。で、少年は。
「うぅ。俺はフューラーだ。お前なんかにっグゥっ!!!」
大きな怪我をさせないよう、だが呼吸は出来なくなるよう慎重に狙いを定めて腹を蹴り上げしばらく待つ。
この六歳児は俺がフューラー、つまり親分であると言った。何処からそんな単語を学んだのだろう。とまで考えてどうでもいいと思い直し、様子を見ると声が出せそうだったので再び言いつける。
「声を出さない。動かない。私がいいと言うまで。フューラーでもなんでも、だ」
「い―――やだ」との返答。ならば「ぼギュっ」
足で蹴った時は少し狙いを外した気がしたので拳にする。そして確認。白くなっていた。そろそろ良さそうだ。
「声を出さない。動かない。私がいいと言うまで。可哀想だけども、一度手を出されたら、二度としないようになるまでやるべきと思ってる。早めに私の言う通りにした方が良いよ」
「ううっ。もう……やめてよぉ。俺がわるガっ!!!」
「声を。出さない」
表情筋を動かさずヨナスは驚いた。脳裏の少年の色が青い。今まで見た記憶の無い色。どういう差でこの色になっているかは―――その内でいいやと思う。それより気にかかる事が一つ。
自分の落ち着きようだ。日本に居た頃なら暴力を振るう機会が滅多に無いのもあり、人を殴れば呼吸が荒れるくらい動揺した。後々面倒が起こらない様にするのに必要だからといって、今みたいに出来たとは思えない。これはあの方が与えてくれると言った知恵の影響なのかな? と、まで物思いに耽り、坊やが両手で口を押え、涙と泥に汚れた顔をこちらに向けているのに気づく。
「よろしい。フューラー。君はリオネラと遊びたいんだよね?」
口を手で押さえ、いやいやをするように必死な様子で顔をふっている。それを確認しつつ、少年の服をめくって腹を見、軽く触って変に痛がったりしないか確かめる。―――よしよし腹に痣などは無い。後で告げ口されても証拠は無し。三歳ちょいが六歳をボコったなど誰も信じまい。
「嘘は、だめだよ。さっきまで私を殴ってでもリオネラと遊ぼうとしてたろ? ああ、もう声を出していいよ。でも小さな声で」
「う、うん。遊びたい。でも駄目なら遊ばないし、フューラーもアニキでいい。いう事これからはちゃんと聞くから許して」
「アニキ? 私がか? 何でそう呼ぶの」
「だ、だって―――アニキは怖いって皆言ってるし」
微妙に質問に答えてないが、呼び方くらい好きにさせようと決めて、
「お願いをしたら聞いて欲しいとは思うが―――。少し待ってフューラー。リオネラ」
呼びかけても返事が無いので見ると、涙目のリオネラが両手で口を押えていた。
「―――リオネラも喋って良いよ。このフューラーが混ざったら嫌かい?」
「う、ううん。ヨナスにぃの言う通りにあたちはする」
リオネラの怯えを見て子供に見せない方が良かったな。と少しヨナスは反省する。しかし結果としては良い。これで三人目である。
「有難うリオネラ。じゃあフューラー、一緒に
******
ヨナスの生きる大陸で人に最も使われている家畜は牛そっくりのやつだ。農耕、そして重い荷物を運ぶ荷車を引かせている。馬は居ない。代わりにダチョウのような鳥を
高位貴族になるとヨナスが住むような少数の辺境で飼育調教される竜を持つのがステータス。
この走竜、とてつもなく貴重な家畜である。爬虫類らしくなつきにくく荒々しい性格で戦場の乗り物に向いているのだが、人工繁殖はまだ成功しておらず手に入れようと思えば深森の境い目近くまで行き、恐ろしい親を何とかして赤ん坊の走竜か卵を手に入れなければ調教出来ないのだ。
これだけでも難事なのに、其処まで深く森へ入ると通常人が出会う動物で最も恐ろしい動物、ヨナスが一度狩られた物を見てでかいヴェラキララプトルだ。と、思った群竜と呼ばれている奴らに襲われる可能性まで出てくる。
よってどんな戦士も憧れる走竜の供給は、腕利きの狩人が集団で稀に行う食べてよし防具としてよしと、骨まで使われる大きな草食竜狩りのついでに見つかった場合が基本であった。
そのようなこの大陸の常識を学びつつヨナスは五歳となった。
今のヨナスは自分の居る国が、村を騎士爵を与えられた者が治め、その上に男爵、子爵、伯爵、公爵の居るピラミッド型の封建社会で、自分の住む土地を治めるのがラウメン子爵である事を知っている。
最もそんなのはどーでも良かった。確かに大型爬虫類は夢で浪漫で野望だから、将来的には不足気味の肉を自給自足できる上に竜を観察出来そうな狩人になりたいと思うが、目下ヨナスにとって大事なのは孤児院の中でサッカー改め
ほぼ毎日
一時期孤児院だけでは二十二人揃わないと悩みもしたが、遊ぶ声で子供を釣るのを思いつき、最も人の多い領主の城館周りの町の近くで
そして今日もヨナスは
見つめる視線があるのに気づかず。
飛んできた球を胸で受け止め相手の居ない方に落として走り出しながら、脳裏に浮かんでる点で渡せそうな仲間を探す。
ヨナスの脳裏に見えるミニマップらしきものはミニマップらしきものな事に、何かに集中していると見えなくなってしまう。例えば必死になってボールを蹴りつつ走っている今がそうだ。
しかし人の可能性は無限大とはよく言った物で、この一年でヨナスはボールを持った状態でもかなり自分の新しい感覚を確認できるようになっていた。
「アニキを止めろ二人付け!」
ゴールキーパー(守護者と名付けた)が叫ぶ。うむ、指示だし大事。皆上手くなってきてるな。とヨナスは思う。しかし二人こっちに来る事で出来た隙間に、一人走り込むのが脳裏に見えた。その速さを計算し、走る速度を落とさないで済むよう前に落とす感じでボールを蹴る。
めっちゃずれた。
「あっ! ご、ごめーんアニキ。遅れた」
「うんにゃ私が悪い。ずれちゃったごめん」
ヨナスは頭を抱えてしゃがみ込み、外に出た球は守護者が取りに行く。
妙だ。どうして声を出して呼ばないのだろう? とりあえずそちらへ向かい適当な奴と交代して、
「どうしたの? 何か声を出したらまずい事でも?」
「アニキ、あそこでこっち見てる子、見た事無いよ。もしかしたら偶に来る外のお貴族様かも。どうしよう? って、痛い、痛いよアニキ」
とりあえずその子に向けてるであろう指を掴んで降ろさせ、決してそちらを見ない様に言い含める。
子供たちの表情には怯えが見えた。それもそのはずで、療養などで偶に来る貴族等のお金持ちは大金を落としてくれるが、稀に大きな災いとなるのだ。此処の子供たちも数人はその影響を受けて飛び切り痛い目にあっている。
親は子供たちへ知らない立派な服を着た人には、失礼をしない。近づかない。見ない。の三無いを言いつけるのがこの子爵領の常識である。
院長先生の話では王の貴族への目は厳しく、貴族の横暴は昔に比べ本当に減っていて、問題が起こっても子爵家が間に入れば収まる。との事だが、同時に平民程度をどうした所で大した問題にならないという当然の話も聞いているため、ヨナスも出来るだけ敬して遠ざけたいと考えていた。
だが興味を持たれた時点で全ては向こうの意志次第。ならば少しでも早く対策する為に相手と話すべきだろう。但し相手の身分等の詮索は無し。知らなかった。という言い訳を無くすのは不味い。等と決めてから、何も考えてない子供な感じになるよう軽やかに、かつ顔を見て警戒させないよう首から下に視界を固定して歩き出す。
が、近づくにつれはっきり見えた物があまりに不吉で、ヨナスの足取りは重くなり、背中に嫌な汗まで出始めた。
最初に確認した靴からして職人が丁寧に作った物だと分かる品格があった。凶である。
服はヨナスが初めて見る艶やかな光沢のある布地に、金糸銀糸の刺繍までされた品の良いワンピース的な物。此処の領主一家でさえ普段着は上等の麻なのにだ。大凶である。
その服の背中に揺れる長い髪は緑、但しこの領地にも数人いる草色ではなく輝くエメラルドと金の二色で、日の光を浴びて後光の如く有難い光を放っている。普通が一つもないじゃねーか皆既日食より縁起が悪いわと心で愚痴る。
そしてヨナスは顔を見た。
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