第25話 ケリュネイアの雌鹿 12
一方、カグヤたちと別れたジュンは、砦の中央付近に向かっていた。
昨日襲ってきた二人のうち、カントウとかいう名の陰陽師もどきの男のほうが、あの杖を持っている可能性が高い。
しかも昨日の様子を見る限り、戦闘はかなり不得手のようだった。
それに、彼らは、結界がどうのこうのと言っていた。
カントウは、結界術士なのかもしれない。
だとすると、結界が壊された今、カントウは、その修復に向かっているに違いない。
その修復先は、砦の中央付近に見える塔のようなオブジェではないかとジュンは考えていた。
砦に侵入した際には、青白い光を放っていたが、結界が崩壊した今では、塔のようなオブジェは、その輝きを失っている。
塔のようなオブジェに近付き、様子を伺うと破壊され、抉られた大きな魔法陣と砦兵と応戦する数匹の鹿の姿が見えた。
その中には、右側の角が欠けたケリュネイアの雌鹿もあり、どうやら、ジュンの姿にも気がついたようだった。
ワザとではないものの自分が傷を負わせてしまった相手だ。
ここで襲われてしまっては、大変だと、ジュンは慌てて近くの物陰に身を潜める。
そうして、そこから、砦兵の様子をうかがっているうちに、標的である陰陽師もどきの男カントウを見つけた。
本当に戦闘が苦手のようで、ジュンの目から見ても全く役にたっていない。
ジュンは懐から、『クラッカー』を取り出し、空に向かって紐を引く。
『クラッカー』は、”ポン!”と音を放ち、ジュンが思っていたよりも派手な光弾が空に向かって放出された。
「これって、パーティグッズじゃないの・・・・?」
しかし、光弾の派手さ以上にジュンを驚かせたのは、この砦の一番高い建物の付近から、ジュンと同じタイミングで、同じような光弾が打ち上がったことだ。
カグヤたちも標的を発見したらしい。
「ここは、自力で切り抜けないといけないみたいね・・・・」
先程打ち上げた光弾のせいで、ジュンの姿は完全に砦兵たちに見つかってしまった。
カントウを含む数人の砦兵たちが、ジュンの方に向かってくる。
戦闘の役に立っていない者たちが、『怪しい子供を捕獲する程度』なら自分達でもできそうだから、こっちに向かってきたようだ。
しかし、ジュンの元へ向かう砦兵たちに鹿たちの放った魔法弾がさく裂する。
唯一、カントウだけは、あらかじめ自身の周りに展開してあった防御結界でダメージを受けることなく、その場を切り抜けた。
どうにかしてカントウ一人だけを誘い出せないかと考えていたジュンは、これ幸いと、カントウを誘導し、街の中心の塔のようなオブジェから離れ、人気のない広場の方に移動する。
ジュンは、カントウが広場に足を踏み入れるや否や、ブレスレットを外し、カントウに向かって投擲する。
ブレスレットは短剣に姿を変え、カントウに襲い掛かるが、魔法障壁に阻まれはじかれてしまう。
ジュンは、広場に散在する瓦礫の陰を移動しながら、何度かブレスレットを投擲してみるが、その攻撃は、ことごとく魔法障壁に阻まれる。
カントウへの魔力を伴った攻撃には、自動的に魔法障壁による防御が働くようだ。
「物理で殴って、どうにかするしかないってことか・・・・」
ジュンは、瓦礫の陰から飛び出し、カントウの前に姿をさらすと、ポケットからカプセルを取り出し、天にかざすと同時に赤いボタンを押す。
カプセルは閃光を放ち、ジュンは白い光につつまれる。
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