第6話 クロノ 1

 とても長い間、眠っていた気がする。


 この世界に降りた後、過ごした悠久の時と比べれば、遥かに些末な期間であるはずなのに。


 白く静寂な世界で出会い、破壊と騒乱の経て、この星と巡り合い、引かれ墜ち、この地にたどり着いた。

 誤解と混乱の後、私が得たものは闇。

 暗い海の底で、彼女とともに、怯え、凍えていた隔絶の夜。


 やがて白い暖かい手に救い上げられ、私たちは、眠りについた。


 それは、私にとっては、些末な時間。

 だけど、彼女にとっては、とても長い、永々しい時間。



 しかし、私たちが目を覚ましたとき、そこには光があった。

 竹緑の影の隙間には、青い空が輝いていた。


 その青空は、遥か高くあって、彼女の手を伸ばしても決して届くことのない頂にあった。


 彼女が成長するに伴って、世界は、より鮮明になった。

 その手に届く世界は広くなった。


 彼女の観る世界は、明るく、暗く、赤くあり、青くもあった。

 彼女の触れる世界は、固く、柔らかく、温かくあり、冷たくもあった。


 そのそれぞれに共鳴し、揺れ動く魂の響き、感情というものの本質を知った。


 この世界は、雑多で、統一感がなく、協調はないのに、全体として調和があった。


 私が、彼女と出会ったのは、この世界を知るためだったのかもしれないと思う。


 私は、彼女を通すことでしか、この世界にかかわることはできないから、彼女の成長に伴って、彼女のいる世界は相対的にどんどん小さくなっていった。


 なのに、空は、まだ遥か高くあって、到底届きそうに思えなかった。

 この世界は、私たちにとって、まだまだ広大であるようだった。


 赤い夕陽が山辺に沈んでいった。

 やがて、星影さやかな夜が訪れ、空には、白い月が煌々と輝くことだろう。

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