カグヤの世界 ~とある世界の現在進行回顧録

尾木洛

石化の少女

第1話 昔むかし

 むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。


 その日、おばあさんは山に柴刈りに行きました。先日、おじいさんが、腰を痛めてしまったこともあり、今日は、おばあさんが山に向かうことにしたのです。


 ここ数日、風の強い日が続いていたせいか、山には、手頃な小枝がたくさん落ちていました。おばあさんは、たいして枝を刈ることもなく、すぐに背負子は焚き木で一杯になりました。


 おばあさんは、その焚き木を一旦家に置きに帰ります。そして、今度は、山の奥にある竹林に向かいました。手に持った大きな竹かごには、柔らかい布が詰められています。


 竹林の入口につくと、おばあさんは、大きく一つ背伸びをしました。

 よしっ。

 小さく気合を入れ、竹林の中に踏み込みます。


 ほどなく、普段おじいさんが竹を取っているところに到着しました。


 おじいさんは、竹細工師で、ちょっとした名工であったのです。おじいさんが竹編みで作った竹細工、竹かご、蓑などは、村で大人気なのでありました。


 でも、おばあさんは、その場所を通り過ぎ、さらに奥へと進んでいきます。

 どんどん竹林の奥へ、奥へと進んでいきます。

 ずんずん、ずんずん進んでいきます。

 うす暗い、竹林のなかを奥へ、奥へと進んでいきます。

 ずんずん、ずんずん進んでいきます。


 そして、おばあさんは、薄暗い竹林の奥で光が差す場所を見つけました。

 そこでは、1本の竹が金色に光輝いています。


 おばあさんは、金色に光輝く竹に近寄って行きました。すると、竹の一番明るく輝いているところが開き、中から3寸ほどの可愛らしい女の子が出てきました。

 小さな女の子は、すやすやと眠っています。


 とても可愛い女の子です。


 おばあさんは、その小さな女の子を、柔らかい布に包むと、持ってきた竹かごの中に寝かせます。そして、その小さな女の子の入った竹かごを抱え上げると、小さな女の子が目を覚まさないように気をつけながら、静かに家に帰って行きました。


 おじいさんとおばあさんは、光り輝く竹から生まれ出てきた小さな女の子に「カグヤ」と名前をつけました。


「しなやかな竹が、さらさらと揺れて光っている」さまを思って、そう名付けました。



***************


 そうして、幾度目かの春がきて・・・・。



「カグヤ! チヨ! 

 今日は、逃がさないわよ!」


「むっ、その声はジュン・・・・」


 放課後、少し西に傾きかけた陽の光の差し込む教室で、三人の少女、カグヤとチヨ、そして、ジュンは対峙していた。


 掃除当番をサボってエスケープしようとしていたカグヤとチヨ。

 それを、ジュンは見逃さなかったのだ。


「おのれ、委員長。

 お嬢の行く手を阻むとは、ふとどきなやつ!」


 チヨが、悪漢から姫を守るかのようにジュンの前に割って入る。

 なんだか、今日は、そんな感じの設定のようだ。


 チヨ、あんたね、へんなところで、ノリがいいというか、なんというか、もう、ほどほどにしときなさいよね、まったく・・・・と、ぼやきつつ、学級委員長のジュンは、箒とバケツをカグヤとチヨの前に、ずいと突き出す。


「今日こそは、掃除当番の勤め、しっかりはたしてから、帰りなさい!」


「おっ・・・・と」


「規則を守ること、約束をまもることは、人として守らなければならない理よ!」


「フッ・・・・。

 約束なんて破られるから美しいのさぁ~」



「お嬢、ここは、それがしにまかせて、お先に!」


 だから、チヨよ、カグヤよ。。

 その、なんだか分かるようで、分からないキャラ設定はなんなんだ・・・・。


「さあ、委員長。

 ここからは、それがし、チヨが、お相手つかまつる!」


 しかたがない。

 すこしばかりつきあってやるか。


「よかろう。我が名は、ジュン。

 お相手させていただこう。」


 ・・・・人のことは言えず、なんとも付き合いの良い委員長である。


「さすれば、召喚士チヨ、参る!」


 チヨは、懐から小さな箱を取り出す。


 上蓋を前方に跳ね上げると、箱の中には6つのカプセルが収まっている。


 チヨはその中から、青緑色のカプセルを取りだすと、ジュンに向かって投げつけた。


「行けっ!

 ミクルス!」


 ちょっと、なにそれ、聞いてない。

 たじろくジュン。


 その目の前で、青緑のカプセルが、ポンとはじけ、青緑色の長いツインテールの髪と大きな目、そして、頭には葱のような二本の大きな角と二本の小さな角を持つ、ずんぐりむっくりとした怪獣が姿を現す。


 ミクルスと呼ばれた怪獣は、さほど大きくはなく、背丈は、ジュンと変わらない。


 ひと吠えすると、怪獣は大きな角を振りかざし、ジュンに向かって突進してきた。


 ジュンは思わずその二本の角をつかんで応戦する。

 が、その勢いは止まらない。


「な、なんつぅバカ力!」


 怪獣の怪力は、角をつかんだジュンをそのまま後方に押し込んでいく。


 このままでは、壁ドンされてしまうと、ジュンは、怪獣の押しを右側に軽くいなしてみる。


 あっけないほどに怪獣は、バランスを崩し、2、3度横転した後、机の角に頭を痛打する。


 しばらく、倒れたまま痛そうに手足をバタバタしていたが、ほどなく、ポンと青緑色いカプセルに姿をもどす。


 意外と他愛なかったわねと、てをパンとはたいて、ジュンは我に返る。


 しまった、今日も逃げられた。


「ま、逃げられちゃったものはしょうがない・・・・か」


 ジュンは、床に転がった青緑色のカプセルを拾い上げる。

 雑に扱ってはいたが、きっと価値の高いものではあるのだろう。


「明日、会ったときにでも、かえしてやるとしますか・・・・」


 そう呟くと、ジュンは、一人で教室の掃除を始める。


 ジュンは、とっても良い子なのだ。


 ジュンは、机を教室の隅に移動させ、まず、床の掃き掃除を始めた。40人程度は、らくに入る教室に並べられている机は、現在、10個に満たない。


 ジュンたちの教室は、生徒数の割には、非常に広い。将来、人数が増えてもいいようにと広めに作ってあるのだ。村の行事に使うことも考慮に入れてあるのだろう。



「なによ。

 あんた、逃げたんじゃないの?」


 掃き掃除を始めてほどなく、いつのまにやら、チヨが戻ってきていた。

 チヨは、いそいそと掃除を始め出す。


「いや~、一人で掃除するのも、大変だろうと思って・・・・」


 だったら、最初からちゃんと掃除をやんなさいよ、などとブツブツいいながら、ジュンは、青緑色のカプセルをチヨに投げ返す。


「で? 

 カグヤは?」


「行っちゃいましたよ」


「どこに?」


「知ってるくせに」


「もう、気にしなくてもいいのになぁ・・・・」


「なに言ってんっすか。

 まだ、あきらめていないっスよ。お嬢も、私も!

 大丈夫っス。

 きっと手はあります。

 必ず、絶対に」

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