My sweet home~恋のカタチ。10 --dawn purple--

森野日菜

第1話 Start Line(1)

「あ~~~! ったく、どこ行った!」



志藤はもうデスクの上を散らかし放題散らかして、慌てふためいていた。



「早くしないと。 もう社長も出られます、」


高宮はそんな彼を軽く諌めた。



「わかっとるっちゅーねん! 昨日までここにあったのに!」



「何でも栗栖さんにお任せ状態にしてるから。 彼女が休み始めてから書類も出すの遅くなったし・・」


高宮はブツブツ言った。



「うるせ! 黙ってろ!」



萌香は安定期に入るまで、長期休職している。



志藤は4月1日から正式に事業部を離れ、取締役だけの仕事になった。



事業部は萌香が抜け、自分が抜けて


非常に大変な事態になっている。



いくらもう関係がなくなったと言っても


やっぱり責任は感じるし




志藤の慌てっぷりに、



「コレじゃないですか?」


高宮は冷静にクリアファイルを取り出した。



「コレだっ! 高宮! おまえは魔法使いか?」


志藤は満面の笑みで言った。



「・・いいから早くしてください、」


高宮はため息をついた。



「ね、社長のついでにさあ。 栗栖が出てこれるまでおれの秘書もしてくれへん?」


志藤は足早に部屋を出て行く高宮を追いかけた。




真緒が秘書課のバイトから配置換えで事業部のバイトとなった。


今まで夏希がしていた雑用は彼女がやるようになり、海外とのコンタクトも真緒の仕事になった。



はあああ。



斯波は疲れて目の上にハンドタオルを置いて、椅子に座ったまま壁にもたれてぐったりとしていた。




志藤からの引継ぎもちゃんと終わっておらず。


夏希はまだまだ一人で仕事をさせるのも心配で、いちいちついてやったり。



「・・んぶちょう・・本部長!」



その声にはっとした。




「へ?」


慌てて目の上のタオルを取った。


「もう斯波さんが本部長なんですから~~。」


夏希が立っていた。



「ああ・・」



そう呼ばれるのも全然慣れないし。



今までも志藤の代わりに本部長クラスの仕事はしていたが


やはり正式に管理職になると、やることがたくさんあって。


自分の仕事もままならない。




「さっき。 絵梨沙さんからまた電話あったんですけど。 斯波さんがお留守の時に、」



「・・・・」



斯波は黙ってタバコを口にくわえた。



「なんか。 落ち込んでしまってるみたいで・・」


「別に彼女に責任はない。 心配しないように言っておいて。」



「はあ・・」




その上。


真尋は今年の5月からおそらく1年間は、ウイーンを拠点にして仕事をする。



ありがたいことに世界各国から演奏会の依頼が来て、本人とも話し合って絵梨沙や子供たちも一緒にウイーンで生活をしながら仕事をすることになっていた。




しかし




「こんちわ。」


志藤はひさびさに真尋宅を訪ねた。



「志藤さん、」


絵梨沙が出てきた。



「あんまり顔色よくないなァ。 だいじょぶ?」


ニッコリ笑う。



「お聞きになったんですか? 斯波さんから・・」


絵梨沙は心配そうに言った。



「ウン。 最初はな。 あいつも自分でなんとかしようと思って。 おれに相談はしてくれへんかったんやけど。 やっぱ相談されて、」


ソファに腰掛けた。


「本当に・・ご迷惑を、」



「何を言うてんねん。 ていうか。 おれに相談して欲しかったのに。」


志藤は頬づえをついてニッコリ笑った。



「あまり。 志藤さんにご迷惑をかけては、と。」




寂しいもんやな。


事業部を離れたら


こうして彼女の相談に乗ってやれることもなくなるなんて。



志藤はつくづくそう思っていた。

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