22.とある解決策

 デュラハンが倒れ、大広間はしんと静まり返った。


「勝ったな」


「勝ちましたね」


 俺が言うとシアもそう言った。


「ギルドからの依頼、無事達成だ」


「…………」


「ランクが二つ上がるそうだから、俺たちはDランクのパーティになるわけだな」


「…………」


「シア?」


 なぜか黙り込むシアに俺は首をかしげた。

 別に怪我とかはしてないはずだが、どうしたんだろう。


「……やっぱりダメです。我慢できません」


 小さな声でそう言ったかと思うと、シアは走って俺に抱きついてきた。


「勝ちました! 勝ったんですよ、グラッドさん! 私たち、二人でデュラハンを倒したんですよ!」


「あ、ああ、そうだな……」


 シアは心底嬉しそうだったが、俺は彼女の勢いに圧倒されていた。

 だが、シアは俺のことなどお構いなしに話し続ける。


「私たちのスキルはデュラハンにも通用しました! これならもっと上にだっていけますよ! なれちゃいますよ、最強に!」


「だ、だといいな……」


「なんですか、その気のない返事は。この大勝利にして記念すべき第一歩をもっと祝ってくださいよ!」


 俺の反応が不満らしく、シアは抱きついたまま顔を寄せてきた。

 ちょっと待ってくれ。いくらなんでもこれは……


「シア」


 俺は意を決して言った。


「なんですか?」


「……近すぎないか?」


「……グラッドさん、私は面倒な女だと言ったはずです」


 シアが目を細くする。


「つまり?」


 俺は聞いた。


「慣れてください」


 にっこり笑ってシアはそう言った。


 そうか、慣れるしかないのか……そんなこと、できるんだろうか。

 そう思いながら、俺ははしゃぐシアにしばらくのあいだ抱き付かれたままでいた。




 その後、ギルドに戻った俺たちはギルドマスターの部屋でデュラハン討伐の完了を報告した。


「よくやってくれた。二人とも、見事だよ」


 コートランドは穏やかに笑って、俺たちを労ってくれた。


「お疲れ様でした」


 またここまで案内してくれたいつもの受付係さんもそう言った。


「それと、彼についてですが、本来であればギルドとしてなんらかの処分を下すところですが、今回はその必要はないと判断しました」


 受付係さんがそっけなく付け加えた。


「彼」というのはハムスのことだ。

 デュラハンを倒したあと、俺は位置替えを使ってあいつをダンジョンの外まで運んだ。


 その後のことはギルドに任せたのだが、あの怪我では冒険者はもう無理だろう。

 処分を下す意味はないってことだ。


「報酬の方は後で受け取ってもらうとして……実は、君たちに一つ話があるのだよ」


 コートランドが言った。

 やっぱりか。


「今回の依頼は俺たちの力を試すためでもあったんですね」


 俺が指摘するとコートランドは苦笑しながら頷いた。


「察していたか。やはりいいパーティだね。その辺りに鼻がきくのも冒険者には必要な資質だ」


「それで、お話というのは……」


 シアが尋ねるとコートランドは難しい顔になった。


「実はいま、ギルドにある特殊な依頼が持ち込まれているのだよ」


「特殊な依頼、ですか?」


 俺は聞き返した。

 元Sランク冒険者であるこのコートランド・ブルーが特殊と言うのだから本当に特殊な依頼なんだと思うが、俺たちに何をさせるつもりなんだろう。


「君たちは「イースト・エンド」のことは知っているかな?」


「ええ、一応は」


 コートランドに聞かれて俺とシアはうなずく。

 イースト・エンドというのは今いるギルドがある街、テンプルキークの東にある地域のことだ。


 このキルナゴフ王国でもっとも不安定と言われる土地で、領主が次々と逃げ出している悪名高い地域だ。


「あの土地については国の方でも頭を悩ませていたのだが、先日、ある解決策が示されたんだ」


「よかったじゃないですか」


 シアが言った。

 俺も同感だった。


 なんでコートランドがこんな話をしているのかはわからないが、イースト・エンドが平和になるのはいいことだと思う。

 だが、コートランドはため息をついた。


「そう、いいことではあるんだよ。その解決策というのが、地域の再建を冒険者ギルドに依頼するというものでなければね」


「え?」


 俺もシアも、固まった。

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