4.初めての経験
「私、こんなにすごいスキル初めて見ました! これ、いくらでも応用が効きますよね! 見た感じ、スキルを使うのにほとんど負担はかからないでしょう?」
「あ、ああ……ほとんど無制限に連発できるよ」
エリンシアの勢いに気圧されながらも俺はそう答えた。
「物に触れさえすればいつでも位置替えができるようになるんですよね? 位置替えできる物の大きさに制限はありますか? ひょっとしてグラッドさん自身の位置も入れ替えられたりします?」
俺は立て続けに聞いてくる彼女に圧倒されていた。
こんな反応をされたのは師匠と初めて会った時以来だ。
あの時もスキルについて根掘り葉掘り聞かれたものだ。
懐かしくなった。
そこでエリンシアははっとなって手を放した。
「ごめんなさい、私、つい興奮してしまって……手まで握っちゃって、何やってるんだろう……」
「いや、別に嫌だったわけじゃないんだ。ただ、すごいスキルだなんて言われたのは久しぶりだったから、懐かしくなったんだ」
俺が首を横に振るのを見て、エリンシアはホッとしたようだった。
「それならいいんですが……でも、これは本当にすごいスキルですよ! こんなの初めて見ました!」
「あのパーティからは攻撃も防御もできない、荷物持ちに使えるだけのわけのわからないスキルだって言われたけどな」
俺は苦笑いした。
だが、元のパーティの奴らもデュラハンから逃げ切れたのが俺の位置替えのおかげだってことくらいはわかっていたはずだ。
追放されたのは普段バカにしていたスキルに助けられたのが気に入らなかったというのもあったのだろう。
「なにを言っているんですか! グラッドさんの位置替えは攻撃、防御、逃走、偵察、隠密行動、なんにでも使える、反則みたいなスキルですよ! これの価値がわからないなんてあの人たちはどうかしてますね!」
バンとテーブルを叩いてエリンシアが言った。
「逃げるのに使えるってところだけはあいつらもわかってくれたと思うよ。でも、俺のスキルが役に立つとは認めてくれないだろうね」
「自分たちの目が節穴だったと認めることになるからですか……どうしようもない人たちですね! グラッドさんは偉いですよ! あんな人たち、もっと早く見捨てても良かったんじゃないですか!」
よほど頭にきているのか、エリンシアはまた大きくジョッキをあおった。
「師匠の教えでね。仲間は見捨てるなって言われたんだよ。もっとも、仲間だと思ってたのは俺だけだったみたいだけど」
師匠からは「冒険者たるもの仲間を見捨てるようなマネは許されない」と言われていた……まあ、あの人自身はソロでやってたけど。
ともかく、俺も師匠の言うことは正しいと思っていたから頑張っていたが、そもそも仲間だと思われていなかったのではどうしようもない。
右手が温かいものに包まれる感触があった。
気づけばエリンシアが両手でぎゅっと俺の手を握ってくれていた。
「誰がなんと言おうと、あなたは立派な人です。グラッドさん、今日までよくがんばりましたね」
彼女は怒っているわけでも興奮しているわけでもなかった。
ただ、とても真剣だった。
「ありがとう、エリンシア」
自分を認めてくれた人に、俺は丁寧に礼を言った。
「ど、どういたしまして……」
エリンシアは顔を赤くして目をそらしたが両手はそのままだった。
「さ、さあ! 今夜はとことん飲みますよ! 徹夜で悪口大会です! 語彙の限りを尽くしてあいつらを罵りましょう!」
「上等だ。大の男がネチネチ陰口叩いても引くんじゃないぞ?」
「そっちこそ、女の陰険な悪口に引かないでくださいよ?」
俺たちは揃ってニヤリと笑った。
そして、二人で気が済むまで文句を言い合った。
こんなに楽しかったのは冒険者になって初めてだった。
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