日常だって日常茶飯事 ~初詣から波乱の予感~
しょぼん(´・ω・`)
第一話:初詣に願いしもの
今年も、新年がやってきた。
思ったよりも冷え込んだ元旦。
それでも天気は雲ひとつない見事に快晴。初詣にはもってこいの日和である。
御影達の奉仕する
そんな中。
石段から続く行列の中。
「十年以上前と、この賑わいは変わらないもんだな」
冬らしく黒の長いコートに黒のマフラーをした雅騎は、懐かしいものを見たような感嘆を口にする。
「速水君って昔、この辺に住んでたんだっけ?」
と。その隣に並んでいた明るめのグレーのダッフルコートに白のマフラー、そしてやや長い白と黒のチェック柄のスカートに黒のタイツを履いた佳穂が、彼の右に並んでいた。
「たった一年位だったけどね。御影と知り合ったのもその頃だし」
「そういえばひとつ気になってたのだけど」
雅騎の答えに、左に立つ赤い晴れ着に白いファーを首に巻き、頭に派手なかんざしを付けた霧華がそう質問をする。
「以前からあの子、何故かあなたと幼馴染だった事を自慢したがってるように見えるのだけど。彼女と過去に何かあったのかしら?」
何とも微妙な質問に頭を捻ねり悩むも、雅騎はそれに心当たりはないらしく。
「正直、普通に知り合って普通に仲良くなっただけだからなぁ」
そう言って、困ったような笑みを浮かべた。
* * * * *
何故、彼等三人が一緒に初詣に来ているのか。
この話の大元は、佳穂の親友である恵里菜の提案だった。
「折角なんだしさ。速水君を初詣に誘ってみたら?」
クリスマス会を終えた翌日。
佳穂は電話で恵里菜からそんな話をされたのだが、その理由が「速水君。年末年始に予定ないんだって」という、なんともアバウトな理由からだった。
実は恵里菜は、クリスマス会の自然な会話の流れでこっそりそんな話を聞き出していた。
勿論、佳穂の為にだが。
そのアドバイスは、確かに雅騎に逢えたら嬉しい佳穂にとっては魅力的だったが。
同時に、エルフィが表に出られない中で、二人っきりで過ごすというのは流石に耐えきれないかもと、思わず霧華にも声を掛けてしまったのだ。
結果。
彼等は元旦から三人で初詣に来ていたのだが。
流石に霧華が、豪華絢爛さを感じる晴れ着姿で現れた時には、思わず雅騎と佳穂は顔を見合わせ、自分達が場違いじゃないかと誤解しそうにもなったものだ。
* * * * *
そんなこんなする内に、列も随分と進み。やっと三人が参拝する番となった。
代表して雅騎が鈴緒を手に取り、ガランガランと鈴を鳴らすと。
二拝、二拍手。
流れるように。しかし丁寧に拝む雅騎と霧華。そしてそれに習うように、佳穂も手を合わせた。
──今年も、速水君と沢山逢って、話せますように……。
彼が側にいるせいか。自然とそんな事を願ってしまう佳穂に。
──そろそろ、お父様のお節介が収まると良いのだけど……。
何とも私的な事情の解消を願う霧華。
そして雅騎はと言えば……。
──今年は流石に、もう少し平穏に暮らせますように……。
心から、そう願っていた。
確かに。
佳穂達の意思を継いでドラゴンと戦い。
天使達との邂逅から命を落としかけ。
御影、光里と
心どころか、身体すら休まる事もない日々が続いたのだから、それも仕方ないのかもしれない。
静かに目を開き、最後に一拝した三人は、そのまま
「速水君は何を願い事したの?」
「ん? 今年は平穏無事でいられるようにって」
興味津々に尋ねてくる佳穂に、さらりとその願い事を口にする。
それを聞いて、佳穂ははっとすると、少し申し訳無さそうな顔をしてしまう。
「私達の、せいだよね……」
そう言って気落ちする佳穂を見て、ため息を
「佳穂。あまり自分を責めるのは止めなさい。新年早々自分から質問して勝手に落ち込まれたら、速水も困るだけでしょ?」
流石に見ていられないと思ったのだろう。
真剣さをはっきりと顔にしたややきつい言葉に、今度は雅騎が苦笑を見せると。
「二人共、新年早々そんな顔しないの。そんなんじゃ福が逃げちゃうよ」
そう言って、二人を優しくたしなめるのだった。
「お。やっと来たのだな!」
と。そんな三人に向けられた聞き慣れた声に、三人がそちらを見ると。
双子らしく同じ顔ながら。片や髪をポニーテールに纏め。片や腰まで掛かる長い髪を先で纏めている。
「明けましておめでとうございます。今年もどうぞ、よろしくお願いしますね」
「明けましておめでとう。今年も御影が色々迷惑を掛けると思うけれど、よろしく頼むわね」
丁寧に挨拶し頭を下げる光里に、笑顔でそう返す霧華を見て。
「霧華。お前はいちいち人を弄るのをやめんか」
新年の挨拶も忘れ、腕を組み大層不満そうな顔をする彼女を見て、霧華はふふっと小さく笑う。
「その顔を見ないと新年を迎えた気がしないもの」
「まったく。新年早々こっちは堪ったものではないぞ」
どこか対照的な二人の表情を見ながら。
「二人って、いっつもこんな感じ?」
以前の病院や、先日のクリスマス会以外で二人が一緒にいたのを見かけていない雅騎が、思わず小声で佳穂に尋ねるも。
「そうなの。喧嘩するほど仲がいい感じなのかな?」
彼女もまた苦笑いしつつ、そう返すしかなかった。
「それより。皆様はおみくじは引かれたのですか?」
そんな中。
怪しい雰囲気を察した光里が、間に入るようにそんな言葉をかける。
「そういえばまだだったね。皆で引いてみる?」
「それは名案だな! では
佳穂の提案に、表情をころりと変え、楽しそうな顔をする御影を見て、雅騎が少し怪訝そうな顔をする。
「御影。お前、奉仕は?」
その言葉を聞き、彼女は両手を腰に当てあまりない胸を突き出すと、ふふんっと偉そうな顔をしてこう言った。
「先程お前たちを行列に見かけたのでな。母上に話して休憩させてもらったのだ!」
「……それ、
「母上が良しとしたのだから問題はない!」
少し呆れたような目を向ける彼だが、意に返すことなくさらりとそう返すと。
「ほら、早く行くぞ!」
そう言っていの一番に社務所の端にあるおみくじを引くためのみくじ筒までささっと歩き出す。
余程楽しみにしていたのか。
そんな御影の姿に、四人は顔を合わせると、互いに苦笑しつつ、その後を付いて行った。
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