番外編 告白大行列!⑦

【レオンの素晴らしさを語る会(私命名)】の初日から、2日後。

 王城に伸びる民の列は、最後尾が見えないほどの人数までに膨れ上がっていた。


 というのも【雪の一族】3人組の意見を積極的に取り入れたレオンたちが、翌日『レオンと私の婚約に不満がなくても、今回の婚約に関することで何かあれば聞きますよ〜』という旨の知らせを出したからだ。



「あー、やっぱそうなっちゃうよねぇ〜」


「そうですね、やはりツェツィーリエ様の求心力は凄まじい……」


「さすがだな。ルード、警備は頼んだぞ」


「はっ! 承りました」



 そしてこの人数の増加は、私に一目会うことを目的とする民が増えたことによるものだという。今世では言われ慣れた【美しい】という言葉が、急に現実味を帯びて迫ってくるような気がした。


 そんな内心の不安が出ていたのかもしれない。レオンは私の髪を慈しむように撫でると。



「ツェリ、大丈夫だ。君を決して危ない目には合わせない」


「あ、いえ……その………」



 どうやら、身の危険からくる不安だと思われたらしい。何と返していいのか悩む。

 気を利かせたのか、側近の3人は退出していた。



「レオン、違うのよ」


「違う……とは? 」


「レオンが守ってくれるのは知ってるから、その点に関して不安はないわ」


「そうか」



 レオンは一言返すと、その先を促すようにじっ……っと見つめてくる。



「でも、私は、私が……その、【美人】である事が急に現実みたいに思えて、怖いのよ」



 自身を美人と称することへの抵抗感が半端ない。



「レオン。貴方に愛されて、自分の姿は嫌いじゃなくなったわ。でも、それは何というか……そう、愛着みたいなものよ。ほら、犬とかでもあるでしょう?見た目が不細工な子でも可愛いって」



 言いながら気がついた。今世では犬の美醜はどうなっているのだろう?いや、今はそんな事気にしてる場合じゃない。思考から追い出す。



「ただ、これだけの民が私を目当てに集まったと聞いて……私の容姿にそれだけの価値があるのだと、そう目に見える形で現れて、怖気付いてしまったのよ」



 言葉尻が小さくなり、最終的にはうつむく。これ、すごい今更だわ。こんな事で土壇場になってウダウダと情けない……。

 そう、自己嫌悪に陥りかけていた時だった。レオンの噛み殺したような笑い声が聞こえたのは。


 人が真面目な話してるのに、何笑ってくれちゃってんのォ!?

 イラッとして顔を上げる、無邪気なレオンの笑顔。あー、はいはい。さては貴方天使ね!そっかぁ、天使なら仕方ない。



「すまない、決して笑うような場面ではないと分かっていたのだが」



 レオンの無邪気な笑顔にやられて、軽く脳内お花畑状態だった私が正気に戻る。



「段々と声を小さくし困った顔をして、最終的にうつむいてしまう姿が、怒られた時の子犬のようで愛らしくてな」



 そして、また思い出したのか軽く笑うレオン。



「散々笑ってしまったが、まぁそれは置いておいて。ツェリが自衛の面で、美しさを自覚するのは良い事だと思う。だけど君はきっと、その自覚した事もいつの間にか忘れそうな気がするのだが……どうだろうか? 」



 すっかりと私の理解者になった婚約者様が、自信ありげに笑う。



「そうね、自覚しようがしまいが私の容姿は今更変わらないし、ここで色々言ってても仕方ないわ」



 よしっ!と気合いを入れ直した私を見て、レオンは目を細めて笑った。

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