第42話 救いの手 side ルードルフ

 俺のしょうもねぇ我儘で、大将にとって大切な相手である、騎士団長を困らせちまった……。深い後悔に苛まれている俺に、救いの手を差し伸べてくれたのは、意外な人物だった。


「剣を、習いたいというのなら。私に心当たりがあります」


 ツェツィーリエ様の養父の、フィリップス様。


「はぁん?フィリップス、お前に何が出来んだよ、見目麗しい貴族の坊ちゃんによ」


「私が剣を教えるとは一言も言っていないでしょう。心当たりがある、とは言いましたが」


 フィリップス様相手に途端に柄の悪くなる騎士団長に面食らった。

 確かにフィリップス様は、お貴族さまらしい綺麗な方だとは思うが、内面もあのツェツィーリエ様を育てたっつーだけあって、俺らみたいなブサイクにも平等に接してくれる方だと思うんだが……。


 後で気になってリーフに聞くと『貴族の派閥とかの関係ですかね?』との答えが。

 でも何か違ぇような?と2人で首を傾げていると、そこにひょっこりとやってきたクローヴが『男の醜い嫉妬でしょー。フィリップス様美青年だもんね〜。』と、恐らく答えと思われる発言を残していった。



「誰だよ、その心当たりってのはよ」


「ヴィダ、という者です。私の養女のツェツィーリエの為と言えば、すっ飛んでくる男ですよ」


 隣で、その男が気になんのか、大将がソワソワしてるのが雰囲気で分かる。表情は変わんねぇが、雰囲気で結構わかりやすいよな、大将。


「ヴィダぁ?知らないな、聞いたこともない、そんな奴。誰だよそりゃ」


「この場で見聞きしたこと、全て他言無用と後で誓約書を交わすのでしたよね?」


「あ、あぁ。そうだと思うが…。そうですよね?リュグナー宰相、レイヤード侯爵」


「そうだな」


「誓約書はもう用意してありますよ」


「ヴィダ、元の名をヴィクドール。【剣豪】の名で知られた男です。そして、ツェツィーリエの実の父親でもあります」


「剣豪ヴィクドール!生きていたのか!」


 騎士団長は本当かと叫んでるし、宰相と侯爵は目を見開いて驚いてる。隣の大将だけは、恋敵じゃねぇことが分かって、ホッとしてる。

 でも何か、ザワザワし始めた。俺は隣のリーフにこっそり聞いてみる。


「なぁ、ヴィクドールさんってのはすげぇのか?」


「凄いなんて物じゃありませんよ。剣の腕では右に出るものがいないと言われた人で、ある日突然表舞台から姿を消した人でもあります。噂では、俗世に嫌気が差して隠居したと囁かれていたのですが、まさかツェツィーリエ様のご尊父様だったとは……」


 へぇ、としか思わなかった。凄いかどうか、見てもいないのに分かる訳ねぇ、というのが俺の持論だからだ。

 ただ、そんな凄い人だとしたら、不安がある。


「フィリップス様、その、そんな凄い人が、俺なんかに剣を教えてくれるんですか」


「それは安心していい。ヴィダは剣を学びたい者を拒否しないから。……ただ、彼の訓練はとても苦しいと聞く。耐えられるか?」


「耐えます、耐えてみせます」


 優しい顔で心配をしてくれるフィリップス様に、俺は力強く頷く。

 そして、もう1つの不安を口に出す。


「絶対に耐えるっていう自信はあるんですが、その、ヴィダ様が俺の顔に耐えられますかね?」


「……というと?」


「ほら、ツェツィーリエ様の実の父親ってことは、綺麗なんでしょう、やっぱり。そんな人が、俺みたいなブサイクに耐えられんのかなって思って……」


「うーむ、私の口から言えることではないからな、実際に会ってみて確認してみるといい」


 豊富な脂肪の詰まった二重顎に手を当てて、サラサラとした髪を揺らしながら、フィリップス様は答える。

 はぁー、羨ましいな、どうやったらあんな脂肪ってつくんだろ。同性のカッコ良くて綺麗な人を見ると、やっぱ憧れる気持ちは俺にもあって、関係ないことと分かりつつも、つい考えてしまう。


「そうッスね、分かりました。ありがとうございます」


「君が強くなることは、延いてはツェツィを守ることに繋がるからな。礼はいらない」


 これで内面もカッコ良いんだ、ずりぃよな。


「なら、その期待に応えられるように、強くなります」


 俺も負けないように、強くなろう。守りたい人を守りきる、そんなカッコ良い生き方ができるように。

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