第41話 密談 side クローヴィア
シュタイン公爵家の当主である、フィリップス様に呼び出された一室で、ぼくたち3人は震え上がっていた。
レオ殿下は…、分かんない、この人ツェツィーリエ様関係以外だとポーカーフェイスだから。
呼び出した当の本人のフィリップス様も、今は隅っこの席でそっと気配を殺してる。
あぁ、美味しいものを食べさせてくれると聞いて、ノコノコついて行った過去の自分を殴りたい。
絶対に美味しいものを食べるだけじゃないと分かっていたハズのレオ殿下のことも、あわよくば殴りたい。
現実逃避するのも仕方がないと思う。
だって、美味しいものを頭の中で想像して期待度MAXのところに現れたのは、2人の爺さんと1人のおっさん。
爺さん2人は、この国の宰相、ヴェルディアム・フォン・リュグナーと執事のバルウィン、おっさんは騎士団長のジェームズ・フォン・シェルム。
この国の実質的智の頂点と武の頂点が集まるって、何事よ。
しかも、ぼくが一番恐ろしいのが、バルウィンの爺さん。この人、ぼくが調べても調べても、情報がなーんにも出てこなかった人。有り得ないでしょ、ホント怖すぎ。
「そう身構えるな。儂らがお前たちを呼んだのは、レオナード殿下を玉座に据える為に他ならん」
「おや、ヴェルディアム様。そんなに早く腹の内を晒していいので?」
「これでいいんですよ、ジェームズ」
ヴェルディアムの爺さんの言葉の衝撃から一番最初に立ち直ったのは、やはりというかレオ殿下だった。
「リュグナー宰相、その提案は私としては非常に有り難い話だ。だがどうして、今まで父に忠誠を誓ってきた貴方の言葉をすぐに信じられようか」
「最もですな。ですが、レオナード殿下。儂はほとほと愛想が、尽きたのです」
「愛想?」
「儂はこの40年余り、この国のためにと身を粉にして働き続けました。今代の陛下は、それを当たり前に享受しておられる。平和な世の中であれば、それでいいと、自分を慰めながら邁進して参りましたが、儂とて人間。感謝もされず、物のように扱われるだけでは、愛想も尽きるというもんです。そもそも儂は、今代の国王陛下には忠誠を誓っておりませぬしな」
「えぇ、私もですね。」
「……少し待て。忠誠を誓っておらぬというのは本当なのか?リュグナー宰相にバルウィン」
「本当ですな」
「本当ですとも」
揃って頷く2人に、レオ殿下ってば頭抱えてる。
「それは、王族への不敬に当たるやも知れぬぞ?」
「儂らが忠誠を誓っておるお方もまた、王族の一員ですからな、問題はないでしょう」
問題ありありだと思うけどなぁ。
「うぅむ……」
ほら、レオ殿下悩んじゃってる。
「まぁ、その話はいずれ。それよりも、最近面白い話を耳にしてな。15歳で高等部を卒業した、レオナード殿下の側近の話を。これは鍛え上げたら面白そうだと、バルウィンとも話しておったのよ」
「そうですね。あぁ、レオナード殿下以外には名乗っておりませんでしたね。私、バルウィン・フォン・レイヤードと申します」
「バルウィン、良いのか?その名は……」
「構いませんよ、未来の王とその側近の方々相手ですから」
強引に流された気は凄いするけど、これ以上今は絶対教えてくれなさそうだし、レオ殿下も諦めたみたい。
それにしても、バルウィンの爺さんの正体だよ。
レイヤードって、嘘でしょ。侯爵家じゃん、しかも密偵とか輩出してる感じの裏ありそうな家。道理で情報出てこない訳だよー。
リーフ可哀想、ヴェルディアムとバルウィンの2人の爺さんに鍛えられるなんて。
「時に、クローヴィア」
「なんですか……」
「貴方、王城に何回侵入しましたか?」
えー、やめてよ。答えにくい質問してくんじゃないよ、バルウィンの爺さんってば。
「答えられませんか?まぁ、そうですよね。では、私が代わりにお答えしましょう。…14回。違いますか?」
「!!!」
「その表情は、当たり、の様ですね」
「な、なんで……」
隣でレオ殿下が、お前そんなに侵入してたのか、みたいなジトっとした目をしてるけど、今は構ってる余裕はない。
「貴方は、気配を隠すのは大変お上手ですが、証拠をアレコレと残しすぎです」
「でも、誰にも見つからなかったです!」
「そうですね、その時は。ですが、後から完璧な証拠を押さえられて突きつけられた時、貴方は逃げきれますか?」
「それは……」
「ですので、私が鍛えて差し上げましょう」
ニッコリと、お手本のような笑みを浮かべたバルウィンに、嫌な予感しかしない。
「け、結構です……」
「おや、負けを認めるのですか?」
「負け!?」
「えぇ、証拠を押さえられている内は、3流もいいとこです」
「証拠を押さえられないように鍛えればいいんだろ!?」
「そうですね、では交渉成立です」
しまった、と思った時には遅かった。
嵌められた…。敗北に項垂れていると、頭の上で会話が聞こえてくる。
「リーフェルト、儂の家の養子になる気はないか?」
「私が、ですか?」
「左様。そなたの今の夢はなんだ?」
「以前の私の夢は、自分の知識欲を満たすことだけでした。ですが、最近人に物を教える機会が増え、そこで感じたのです。人に教える事もまた、新たな気付きを得る機会であると。今の私の夢はまだ、明確ではありませんが、人を教え育てること、とするのが一番近いのではないかと思います」
「そうか……良い夢だ。ならば、私の手を取れ。そなたの知識欲を満たし、人の育て方も教えよう」
「かしこまりました。よろしくお願い致します」
リーフ、そんなこと考えてたんだ。何だか置いてきぼりにされた気分。
「御二方の話が終わったようなので、私の話をさせていただく。簡潔に言おう。近衛騎士たちを、レオナード殿下の側で受け入れてはもらえないか?」
「近衛騎士を……か?しかし、彼らは花形の騎士だ。私の元へ来るのは嫌がるだろう」
「それが、そうでも無いんです。正妃様と第二王子殿下の命令で、美しくない近衛騎士が全て解任されてしまって」
「美しくない…というのは、佇まいか?」
震える声で訊ねるレオ殿下。
分かるよ、信じたくない気持ち。まさか自分の母親と弟が容貌で騎士を解任するなんて思いたくないんだよね?
でも、大抵こういう時は答えが残酷なんだよ。
「いえ、レオナード殿下。美しくないのは見た目です」
「そんな、ばかな……」
「私もそう思いました、嘆願書も書きました。でも、騎士なら見た目も美しくなくてはならない、の一点張りで」
頭を抱えてテーブルに沈むレオ殿下。
「という理由ですので、アイツらは今、職を失わないのであれば、何でもすると思います。それに、レオナード殿下には婚約者様がいらっしゃるとか。アイツらは、高貴でか弱いお方を守る自分、守れる自分に誇りを持っているので、どうか使ってやってください」
頭を下げるジェームズ騎士団長。
「あの!」
「なんだ?」
唐突に声を上げたのはルードルフ。
「俺に、剣を教えてくれる人は、いますか?」
「は?それは、頼めば教えてくれるだろうが…もしかして剣、使えないのか?」
「はい。でも、守るにはやっぱ、剣使えた方がいいと思って」
「あー、アイツらも教えられなくはないだろうが、素人に1からってなると、ちと厳しいかもな……」
頭をガシガシと搔くジェームズ騎士団長に声を掛けたのは、意外な人物だった。
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