第37話 理由

 私の疑問に、何故かやいのやいのと言い合っていたリーフェルトとクローヴィアの2人が一瞬固まった。そのすぐ後に吹き出すレオンに、その光景を不思議そうに見るルードルフ。


「あの、私何か聞いてはいけない事を聞いてしまったのかしら?」


「いや、ツィリは何も悪くない。悪いというのなら、リーフェルトとクローヴィアの2人だ。やましい事があるのだろう」


 目尻に浮かぶ涙を拭いながら、レオンが少し意地悪そうに笑う。あぁ素敵、純粋に顔がいい。


「な、やましい事なんて!私はただ自分の欲に正直なだけです!」


「そうだよー、ぼくも今はやってないし!見つからなかったんだから無かったのと一緒!」


 慌てたように言い募る2人だが、有罪の匂いがぷんぷんする。

 レオンはまた笑いを大きくすると、2人が側近候補に名乗りを挙げた理由を教えてくれた。


 話を聞くこと数分。


 結論から言おう。

 有罪!!!紛うことなき有罪です!しかも内1人はガチの有罪、バレて捕まったら即牢屋行きの犯罪者。


 リーフェルトが、自分の知識欲を満たすためだけに側近候補に名乗りを挙げたと聞いて、いやそれ王族に対して不敬がすぎるでしょ、とか、どれだけ欲望に忠実なのよ、とか色々突っ込むところはあったけど、王族であるレオンが許しているし、その貪欲な姿勢はいずれ役に立つのだろうと思えば、まぁギリギリセーフ、と言ったところだと思う。


 だがクローヴィア、お前は駄目だ。

 一度見たり聞いたりした物事を完璧に記憶するその能力や、髪色を隠すだけで気配を断てるその能力は素直に凄いと思う。味方でいてくれると心強いとも。

 だが、興味本位で王城に侵入すること数回。はいアウトー。紛うことなき犯罪者じゃん、不法侵入者じゃん。

 しかも、以前の趣味が『他人の家の家族団らんに紛れて食べたご飯の記録を付けること』って!お前は妖怪か!

 しかし、これを許したレオン、心広いな。


「お前ら……そんな、理由で……?ウソだろ……?」


 言葉の発信源であるルードルフを見やると、彼はあからさまにドン引きしていた。

 ちなみに、ルードルフはレオンも感動する程の真っ当な理由で側近候補に残った人物だと、一番最初に聞いた。一番最初にルードルフの理由を聞いてしまったからこそ、後の2人の酷さがより際立ってしまった。

 いや、本当に相手がレオンで良かったね、2人とも。普通の王族ならその場で切り捨てられてもおかしくないよ。


「いえ、あのルード……。た、確かに最初の理由はそうですが……!」


「そうだよ、ルード!今はもうやってないし!」


「いや、今がどうとかじゃねぇ。リーフの理由はろくでもねぇし、クローヴはなんつーかもう……駄目だろ。」


「クッ……クク……い、いいぞ、もっとやれ、ルードルフ……」


 言い訳をルードルフにバッサリと切られて沈黙する2人。

 レオンはおかしくてたまらないらしく、肩を小刻みに震わしながらルードルフを応援している。私も実は、先程から言葉が発せない程度には笑っている。ただ、大声を上げて笑わないように気をつけているので、脂肪の奥に埋もれた腹筋が痛い。


「まぁ、俺も大将に交換条件持ちかけたようなもんだから、リーフの事をとやかく言えた立場じゃねぇが…。ただ、そんな俺でも言える。クローヴはただただやばい」


「えぇー!何でぼくだけー?」


「分かってねぇ事がやべぇよ。王城侵入しといて、今はやってねぇしバレてねぇから無罪!って言い切れんのとか、恐怖すら感じるわ。クローヴ、お前マジで今後勝手な真似すんじゃねぇぞ?もうクローヴだけの責任じゃなく、大将の責任にもなっちまうんだから」


「そっか……うん」


 懇々とお説教をするルードルフに、頷くクローヴィア。だが気のせいか、クローヴィアの表情は少し嬉しそうに見える…あれ、ひょっとしてMな感じの性癖の人なのかな?


「どうした?ツェリ」


「いえ、クローヴィアが叱られてるのに嬉しそうでしたので、そういった趣味の方なのかと……」


 答える途中で気が付いた、あ、これ言っちゃダメなやつだ……と。

 慌てて口を押さえたが、もう遅い。覆水盆に返らず、綸言りんげん汗の如し(私は君主ではないけれど)。

 その証拠に、今までお説教をしていたルードルフは、ザッ!と音が立つくらいの勢いでクローヴィアから距離を取ったし、リーフェルトもレオンもちょっとアレな目線を向けている。


「ちょ、ちょっとぉ!?ツェツィーリエ様、それは酷いですって!冤罪です!ぼくのこと何だと思ってるんですか!」


 不法侵入者。内心思った私だが、これ以上追い詰めるのは可哀想だと、口に出さない良心はあった。

 だが何と答えたものか、悩んだ末に導き出した結論は。


「お、おほほ……」


 秘技、誤魔化し笑い。

 しかし、どーしよ、この場を上手く収めるには…って、ん?何か揺れてない?僅かな揺れを感じて隣を見ると、顔を真っ赤にしながら声を殺して笑っているレオンが震源地だった。

 よく見ると、その向こうに座っているリーフェルトとルードルフも笑っている。


「もー!皆人の不幸を笑って!でも、ふふっ、いいね、こういうの」



 穏やかに、優しく。

 5人で初めて過ごす時間は、過ぎていくのだった。

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