第26話 家族になる人 side レオナード
【悪食】だ、と告げた彼女の言葉を信じた僕は、彼女に半ば強引に婚約に関する書類を書かされていた。
否はない、むしろこちらからお願いしたいのだが、ここまで積極的に事を進められると、正直戸惑いが隠せない。
「本当にいいのか?ツェツィーリエ嬢。僕と婚約なんかして」
「えぇ、勿論。レオナード殿下こそ、後悔しないで下さいね?」
「する訳が無いだろう」
「そういえばレオナード殿下、一人称が変わられましたね」
「え?」
「先程から、僕、と仰っているので。なんだか心を許されている様に感じて嬉しいですわ」
無自覚だった。
きっと、自分の処理できる限界を越えたことで、つい出てしまったのだろう。【僕】という一人称はどうも子どもっぽく、舐められてしまう様に感じたので、会話する際の一人称は、【私】を意識して使っていたのに。
恥ずかしい、一番カッコイイと思って欲しい人の前で、子どもっぽさを出してしまうなんて。
そんな僕に呆れるでもなく、心を許された証拠のようで嬉しい、だなんて。ツェツィーリエ嬢は、本当に素敵な女性だ。
「レオナード殿下。私たち、婚約者になったのですよね?」
「そうだな……」
ツェツィーリエ嬢と僕が婚約者、いい響きだ。
「でしたら、他人行儀な呼び方はやめませんか?結婚して家族になるんですもの、私たち」
結婚して家族になる…。婚約するということは、いずれそうなることは知っているのに、ツェツィーリエ嬢に言葉にされて初めて実感が湧いてきた。
頬が焼けるように熱い。
ツェツィーリエ嬢は、そんな僕を見てクスッと笑うと。
「私のことは、どうぞツェツィと。お義父さまにもそう呼ばれておりますし」
「嫌だ」
咄嗟に出た僕の言葉に、ひどく悲しそうな顔をするツェツィーリエ嬢。
僕は慌てて言葉を続ける。
「誰かに既に呼ばれている愛称じゃなく、僕だけの愛称が欲しい」
「まぁ……!」
「ツェリ、と呼ばれたことは?」
「ありませんわ」
「なら、僕はツェリと呼ばせてもらう。他の者に呼ばせてはならないからな」
「はい……」
僕の、独占欲丸出しのみっともないお願いにも、ツェリは嬉しそうに頬を薔薇色に染めるから。僕は欲を出して、彼女を縛る言葉まで付け加えてしまう。
それなのに、どこかうっとりとした表情で僕を見つめ、返事をするツェリ。
愛されている、と感じた。胸が暖かいもので満ちていくのを感じる。
いつも感じていた心の穴を感じない程、僕の心は満ち満ちていった。
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