第24話 夢か現実か side レオナード
「レオナード殿下。私、【悪食】なんです」
ふんわりとした柔らかな手に両頬を包まれ、目線を合わせて言われた言葉に、僕はいつの間に死んでしまったのだろう、とぼんやりと思った。
現実世界で、こんな幸せがあるはずないのだから。
ツェツィーリエ嬢が失神していないことに気付いた僕だが、だからといって失神されない保証はどこにもない。
慎重に動かなければ……。
それにしても、この体勢は辛い。ツェツィーリエ嬢に手を抱え込まれているせいで、中腰姿勢のままなのは勿論、腕に当たる柔らかくて暖かい感触とか、自然と上目遣いになっているツェツィーリエ嬢の表情とか…。
腕に当たっているのは、もしや胸……?
「レオナード殿下。私から逃げないとお約束してくださいますか?」
「わ、分かった。約束しよう」
ツェツィーリエ嬢に話しかけられて、僕はビックリした後、自分が想像していることがバレたのではないかと、嫌われる恐怖に震えた。それでもなんとか平然を装って返事をする。
「では、いつまでもこの体勢は大変ですし、手を離しますわね」
「あぁ」
ツェツィーリエ嬢が僕の腕を離し、ホッとするのと同時に、温もりが離れて寂しく思う。ツェツィーリエ嬢、柔らかかったな……。
「レオナード殿下、私たちは話し合うべきだと思うのです。ですから、ソファーに座って話しませんか?」
話し合い。
僕がツェツィーリエ嬢に邪な気持ちを抱いたことは、どうやらバレたらしい。声を出すと震えてしまいそうで、僕は一つ頷き、ソファに腰掛ける。
すると何故か、ツェツィーリエ嬢は隣に座り、驚くことに僕の腕に彼女の腕を絡めてきた。
「ななななななななな!」
なんで隣に、なんで腕を、なんでなんで……、内心の疑問は一つも言葉にできずに、僕は馬鹿みたいに同じ文字をただ繰り返す。
「すみません、レオナード殿下。でもまた先程みたいに逃げられてしまうと、困りますので……」
「逃げない!逃げないから離してくれ!」
ツェツィーリエ嬢はあくまで僕を拘束するだけのつもりらしいが、僕は非常に落ち着かないし、邪な気持ちを抱いてしまう。ツェツィーリエ嬢に必死でお願いした。
手を離してもらうと、まだそこに柔らかな感触と温もりが残っているように感じて、僕は邪な気持ちを霧散させるべく、さすって感覚を消そうと頑張る。
「そんなに嫌そうにされると流石に辛いです……」
「はっ!?そんな訳が無いだろう!」
思いもよらぬことを、本当に辛そうな顔で言われるので、ビックリする。
「では、何故ですか?」
「君が僕に平気で触るから……。腕に暖かい感触も残っているし……。って、そんなことはどうでもいい!話をするのだろう?」
理由を聞かれ答えるが、恥ずかしいことを言っているのではないかと途中で気が付く。話題を無理やり変えると、もう触られないようにと腕を組む。
「えぇ、レオナード殿下は私の姿を見て、どう思われましたか?」
「美の化身のようだ、と」
「まぁ!私たち同じことを思いましたのね!」
突然の質問に、思わず本音を漏らすと。彼女ははしゃいだ声で残酷な嘘をつく。
「そんな嘘をつかないでくれ!君が優しい女性であることは充分わかった、でも、僕のこの容姿が美しいだなんて、そんな馬鹿な話がある訳がない……」
僕のこの容姿を見ても、失神しない程の精神力を持った、優しい女性であることは充分に分かった。嘘をついてまで、僕のそばに居てくれようとするその気持ちも。
それでも。
そんな誰にでもすぐ分かるような嘘なんて、ついて欲しくなかった。ツェツィーリエ嬢が僕の容姿を見て抱いた感情を、嘘で誤魔化して欲しくなかった。
すると、彼女は立ち上がる。そのまま立ち去るのかと思いきや、僕の正面に立つ。
何をするのかが気になって、そのままじっとしていたら、なんと僕の両頬を手で包み、そっと顔を上に向けられる。
そして、目をしっかりと見つめ、冒頭の台詞を告げられる。
【悪食】なのだという、僕にとって救いであり希望の言葉を。
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