第23話 気分は狩人。

 私の外見が殿下好みだと分かった今。私はどうすれば上手くいくか、頭をフル回転させていた。

 気分はすっかり狩人だ。


 だがとりあえず。

 私は地べたに座ったまま殿下の腕を胸に抱き込んでいるし、そのせいで中途半端な中腰姿勢の殿下。話をするには相応しくない体勢であることに間違いはないので、提案してみる。


「レオナード殿下。私から逃げないとお約束してくださいますか?」


「わ、分かった。約束しよう」


 殿下は、私に話し掛けられると、肩を少し跳ねさせた後、プルプルと細かく震えながら約束してくれた。


 くっっっっそ可愛い!!!!

 何これ何これ、美しくてカッコよくて可愛過ぎるってもうこれ有罪、ギルティ!


 私はできる女なので、内心の興奮をおくびにも出さず言葉を続ける。


「では、いつまでもこの体勢は大変ですし、手を離しますわね」


「あぁ」


「レオナード殿下、私たちは話し合うべきだと思うのです。ですから、ソファーに座って話しませんか?」


 殿下は、コクンと頷くとソファーに座った。私は、その隣に腰を下ろすと、殿下の左腕を自分の右腕で絡めとる。いわゆる、腕を組むという体勢だ。


「ななななななななな!」


 壊れた玩具のように同じ言葉を繰り返すが、決して私の腕を振り払おうとはしない殿下に、優しさを感じてキュンとする。


「すみません、レオナード殿下。でもまた先程みたいに逃げられてしまうと、困りますので……」


「逃げない!逃げないから離してくれ!」


 悲鳴のような声を上げる殿下の姿を見て、可哀想になってきた私は、腕を解放する。すると、バッ!と音が出そうな程腕を私から離すと、私が触っていた部分をしきりにさする彼。


「そんなに嫌そうにされると流石に辛いです……」


「はっ!?そんな訳が無いだろう!」


 私が触った所を『白豚菌がついた!』と拭われた前世の記憶を思い出して、少し辛くなると、全力で否定の言葉が返ってきた。


「では、何故ですか?」


「君が僕に平気で触るから……。腕に暖かい感触も残っているし……。って、そんなことはどうでもいい!話をするのだろう?」


 話しながら段々恥ずかしくなってきたのか、頬を赤く染めながら言う。もう私に腕を触らせまいと、一人でガッチリと腕を組む姿にホッコリした。


「えぇ、レオナード殿下は私の姿を見て、どう思われましたか?」


「美の化身のようだ、と」


「まぁ!私たち同じことを思いましたのね!」


「そんな嘘をつかないでくれ!君が優しい女性であることは充分わかった、でも、僕のこの容姿が美しいだなんて、そんな馬鹿な話がある訳がない……」


 美の化身、とお互いの事を思っていたことが分かって、テンションが上がり、はしゃいだ声を上げる私の言葉に、悲痛な声で返す殿下。

 私は立ち上がり、殿下の正面に立つと、今にも泣き出しそうな彼の両頬を手で包み、そっと顔を上に向ける。


 そして、目をしっかりと合わせ、こう告げた。



「レオナード殿下。私、【悪食】なんです」

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