第16話「She rules the end」

 それはあまりに突然でした。

それを何が原因だと分かる事もありませんでした。

彼女は終わりを司る神のように、世界の終焉を告げるのです。



 少年は母親の手を繋いで歩いていました。

ただの気まぐれで夜空を見上げます。

空に輝く月は雲にかかって、良く見えません。 母親に『危ないよ』と言われながら、チラチラと上を気にしていました。

 少し経って、雲が晴れていきます。

眠い目を擦って、下弦の月を見上げた少年はふと何かに気付きました。

 月より下、地上より遥か遠く、何かが降り注ぎ始めていました。

 空は昼のように明るく───────。



「いい眺めだ」


 眼帯を外し、宙に浮いているドレス姿のルナはそらから世界全てを見渡していました。

世界は丸くなく、ちぎれた地図のように欠けた平面の世界でした。

この世界はどことも繋がっていない。

同じ種族、同じ思考、同じ生活、同じ文化、同じ価値、異なるものを持つものが居ない統一された個別の世界。

 それはこの世界だけでなく、他の世界も同じであり、それぞれが異なるものを築き持ち合わせていながら異なるものと交わらない。

 それがこの世界、この星の姿なのです。

ルナの左手には長弓が顕れ、本来の目的である研究所を目標にでは無く、世界の中心に目掛けて弓に光の矢をつがえ、キリキリと弦を引き絞り続けます。

─10秒。

──20秒。

───30秒。

 弦を引き絞るルナの右腕は徐々に震え始めますが、それを合図とするようにその光の矢が放たれる準備が整いました。

「さぁ──裁きの時だ」

 ルナが放った矢の一撃は数百kmという地上までの空を滑る。

奈落へ落ちる一閃の極光。

 それは大気圏に入った辺りで拡散し、勢いは衰えずに拡散した光は世界全てに向かって降り注ぎます。

 そして夜であった世界の空は昼のように明るくなり、その光は世界の土地に、山に、海に、街に落ち、人をも穿ちます。

 本来、このような事は人の手、いえ神の手を用いても世界全てを壊すほどの力と精度を一撃の下に全て行うのは不可能でしょう。

 けれども、不可能というものを《理想》という形で実現しました。

こうあればいい、こうなればいい、こうあって欲しいという《理想》は星の摂理を覆しました。

 そしてその理想を以て、この世界の地を、文化を、人を奪ったルナの両目には──の瞳が耀いていました。




 地は抉れ、山は消え、海は半分蒸発し、街は跡形もなく、人の血もありませんでした。

変わりにあるのは、無数の光の柱でした。

しかし、そんな中でも運悪く生き延びてしまった人間もいました。

出血もなく、五体満足。

1人の人間は例えようもない恐怖と絶望をした。

 そこへ、飛来するドレスを纏った女性。

背中には1m程の剣が8本浮遊し、翼のように広がっており、女性の周りには12本の短剣が同様に浮遊し、切っ先が下を向いて列を崩すこと無く位置を守っていました。

 音もなく地に着いた女性の左眼は眼帯をしており、右眼は銀色の瞳をしていました。

そして正面に向き直って、人間の方を見ました。



「良く五体満足で生き延びたな」


 たまにいる悪運が強いただの一般人。

権力者や能力者では無く、普通の人間。

そんな人間にこの惨状は受け止めきれない。


「あ……お………………」

「生き延びた事を誉れにするが良い」


 実際、これだけの被害の中生き延びたのは素晴らしい。


「お前が───」

「目障りだ」


 奴は懐にしまっていた拳銃を取り出そうとし、それより速く私は奴の首を断ち、その命を絶った。

まだ一瞬意識がある首と胴体は倒れた。

奴にとってはこの方が幸せであろう。


「─安息をくれてやろう」


 せめて土に還るがいい。

死体周囲の土を泥のようにして、死体を沈ませて行った。

そして泥にした土を固まらせて、埋葬を終わらせた。



 当然、研究所があったであろう土地には跡形もなく消え去っていました。


「ふん…つまらんな」


 ルナは背中の剣の翼と周りの短剣を重ねて折りたたみ、消失させました。


「力で平和を保つなんてのは無理な話だ。これは私の個人的な感性だ。私の世界も力を保持しては居るが使うことなど無い。争い事なんてないからな」


 独り言を淡々と語るルナ。

その後、どうしたのかはわかりません。

しかし、数年後ここには違う文明が新たに築かれました。



 * * *


「───終わったの?」


 アウロラの部屋に瞬間移動したルナはそのままの状態で報告しました。


「跡形もなく消して来たからな」

「ひえっ……」


 傷1つどころか汚れ1つ見当たらず、まともに戦闘と言えるものが成り立ったのかがわかりません。

 しかし、それは当然といえば当然なのでした。

アウロラ達にとって、ルナという存在は常軌を逸しています。

桁外れたアウトレンジからの圧倒的な火力と精度、近距離戦で戦おうものなら斬ると言うより叩き潰されるに等しい程に重たい斬撃が飛んでくるのですから。


「と とりあえず、お疲れ様です…」

「報酬は?」

「え、あ、はい…」


 アウロラは部屋にある宝箱を開き、大きな袋詰めをルナに渡します。


「今回はドーナツの袋詰めで良い?」

「……もう少し綺麗に詰められんのか?お前は」


 おおきな袋の中には様々なドーナツが乱雑に入っていました。


「在庫処分と限定品を安く売ってる時はだいたい競争率も激しいし……」

「ふん…まぁこれだけ取ってきただけ褒めてやる」

「わーい」

「もう一度その喜び方をしてみろ、首を叩き落とすぞ」

「ごめんなさいっ!」


 その袋を手にルナはアウロラの部屋を出て、自分の部屋へと帰っていきました。


「……ほんと、突然瞬間移動してくるの怖い」


 アウロラはパジャマに着替える最中、ルナが帰って来たのでパンツ一丁で対応をしていたのでした。



 ルナは報酬として、金銭、宝石、土地等は求めません。

 金銭は余裕があり、宝石などは着飾る気が無いので必要なく、土地はルナにとって貰うものではなく奪うものだからでした。

とはいえ、この山を気に入っているのでそんな事はしません。

 なら、報酬として何を貰うのか。

甘い菓子や食べものと飲みもの、豪華な食事等の食べ物関係なのでした。

ルナは見た目に反して、とんでもない量を食べますし、甘いものが大好物なのです。


「モシャモシャ──ふむ…在庫処分とか言っていたな。これで余るとはその世界は余程贅沢か時代の流れが早いのだろう」


 袋から一つだけドーナツを取りだし、食べていました。

そして部屋の小さな冷蔵庫から炭酸飲料を取りだし、ドーナツで乾いた口を潤し、更にはアイスまで食べます。

 ちなみに、夜に並べられた大半の料理を食べてまだ1時間と経っていませんでした。




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