第1580話 徘徊型〈悪魔・時々・天使ユニット〉が悪魔!

 前書き失礼いたします。

 昨日の「騎士爵」の壁画に【騎士】と【チャリオット】系列も入れてほしいと要望があったため追記いたしました!

 また、【近衛騎士】の上級職に、エステルが就こうとしていた【セイントロイヤルガード】が抜けていたので追記いたしました。

 ―――――――――――――――――




 ――――〈悪魔・時々・天使ユニット〉。通称〈悪魔な天使〉。


 いやいや、悪魔時々天使って、それいいの? と思うだろ?

 だがこっちはフィナとエリサがいる。ありだろうきっと(?)。


 俺たちが見たとき、〈悪魔な天使〉は悪魔形態だった。

 頭の上にボロボロになった天使の輪。漆黒の翼に黒を基調とした装備を着た、悪魔というより堕天使みたいなモンスターだ。性別は不明で中性的。

 身長は4メートル。両の手には大きな槍を1本ずつ持っており、こんな通路でそれ振り回せるのかと疑問に思う。しかし、こいつはダンジョンのモンスター。しかも徘徊型だ。俺たちの疑問は、すぐに解決することになる。


「ワ――――――」


「キキョウ『吸物封印盾』!」


「!! はい! 『吸物封印盾』!」


 俺の指示にキキョウが防御スキル、物理封印の盾を使った瞬間、1本の槍が突如として先頭のキキョウに襲撃した。


「きゃあ!?」


「槍が飛んで来たのです!」


「あの槍は自在槍の一種ですか!」


 ガツンと盾に弾かれてカランカランと力なく転がっていく槍は、〈悪魔な天使〉が投げたようには見えなかった。ただ一瞬で発射し、最短距離でキキョウに直撃したのだ。

 今の動きはどちらかというと、シエラの自在盾に似ている。


 そしてキキョウの『封印』で3分間使用不可強制クールタイムとなって転がったのだ。

 これで自在槍の動きは封じたな。しかし、次の瞬間には、槍は〈悪魔な天使〉の手に戻っていた。


「ワ――――」


「一旦私がヘイトを稼ぎます。――『天空飛翔』! 『天使の敵』! 『天盾飛翔突撃』!」


「はい! すぐに取り返します!」


 これは即で距離を詰めるのが吉と判断したフィナが、作戦を変更してヘイトを稼ぎ、盾突撃をかます。

 キキョウもそれを見てすぐにダッシュで追いかけた。

 俺たちもアタッカーとして適度に攻撃していく。


「シェリアはまだ大精霊を出すなよ。キキョウが十分ヘイトを稼いでからだ!」


「はい! 『精霊召喚』!」


 後衛のシェリアがヘイトを稼ぎすぎると大変なことになるためセーブする。だが、


「ん――『クロスソニック』! からの――『128スターフィニッシュ』!」


「行くぞ! 『残像双ざんぞうそう・一太刀』! 『二刀斬・雷鳴麒麟らいめいきりん』!」


「とう! 『クレセントスラッシュ』! 『ヒーロー・バスター』! 『ヒーロー・バスター』なのです!」


「うおおりゃあああ! 『テンペストセイバー』! 『ライトニングバニッシュ』だ!」


「『ミカエルラッシュ』! 『グローリーバニッシュ』!」


 なお、前衛陣は別である。

 キキョウよりも早く〈悪魔な天使〉に近づくとじゃんじゃん攻撃を開始する。

 フィナの挑発スキルは〈二ツリ〉の『天使の敵』だけなので、こんなの簡単にアタッカーがヘイトを超えてしまうだろう。


 だが、安心してほしい。こちらのアタッカーは優秀なのだ。

 カルアは避けるのが大得意でたとえタゲを向けられても自在槍無しではおそらく追いつかれない。

 リカはタゲを向けられてもこれ幸いと相殺して反撃に移るだろう。

 ルルは攻撃されればMPが増えるのでむしろばっちこーいまである。

 俺は回避も出来るし受けもできる。故に問題は無い。


 とはいえヘイトを奪われるなんてタンクの名折れなため、フィナも強力な攻撃スキルを放ってダメージ分のヘイトを稼いでいるな。

〈悪魔な天使〉は槍をぶん回して迎撃。基本タゲはフィナに向いているが、攻撃範囲が広く巻き込まれが発生しかねない。

 またダンジョンの壁、迷路の壁部分だが、なんと〈悪魔な天使〉の槍はこの迷路の壁を粉砕した。


「ええ!? 壁って壊せるの!?」


 ほら、エリサがびっくりしてるじゃん。

 ちなみに俺たちは壊せないぞ? それは1層で実験済みだ。

 壊せるのはこの徘徊型の特性によるものだ。

 徘徊型が徘徊するために必要な――迷路破壊術である。

 もちろん戦闘中でもまるで豆腐のようにぷるんぷるん壊れていくぞ。迷路の壁が。


 そんなわけで、こいつははばまれることもなく槍を振るえるのである。

 むしろ自在槍を『封印』しておかないと、自在槍が迷路の壁を破壊しながら突如真横から奇襲してくる、なんて戦法も使ってくるため、最初に封じさせてもらった次第。

 まずはうちのメンバーがこいつの挙動に慣れるまで、自在槍は封じさせてもらう。


 また、それならなんで禁止ではなく『封印』を使ったの? と疑問に思うだろう?

 それにもまた理由がある。


 そこへキキョウが追いついて、ヘイトを稼がんとする。しかし、ここで思わぬ事態が発生する。


「お待たせしました、タゲを取ります! 『羨ましいでしょ? あげないよ?』!」


「ダメ」


「……へ?」


 なんとキキョウのスキルに「ダメ」の言葉。直後、キキョウのスキルは失敗ファンブルしてしまったのだ。

 その正体は――天使。

 悪魔はいつの間にか天使に変化しており、幼子に「それはやっちゃダメよ」と咎めるポーズを取っていたのだった。


「な、なんですかいったい!? なら、『嫉妬心は黒と闇』!」


「ダメ」


 また「ダメ」。これによりキキョウの〈五ツリ〉挑発スキルも失敗ファンブルしてしまう。

 天使が持つのは長い杖が2本。それを杖術のように扱いぶん回す。

 しかも。


「『弾き返し』!」


「ダメ」


「がっ!?」


「ちょ、リカちゃんまで!? 『ダークハイヒール』!」


 リカの防御スキルまで失敗ファンブルさせて自分の攻撃だけ当てるという、とんでもない攻撃までしてきたのだから超ヤバい。


 そう、もうお分かりかもしれないが〈悪魔な天使〉の天使モードはブレーキ役。

 なぜこいつが〈悪魔天使〉みたいな名前では無く〈悪魔な天使〉と呼ばれるのか。

 それは天使形態の能力が悪魔的だからだ。どっちが悪魔か分からないレベルで。



 よくマンガなんかで脳内の天使と悪魔がせめぎ合う構図があるだろう。

 悪魔が「やっちゃえよユー」と言うのに対し、天使が「それはいけないことです! やってはダメです!」と止めてくれるあれだ。

 まさにここの天使はそんな能力。様々なことに対してブレーキしてきて、スキルを失敗ファンブルしてくるという、恐ろしいことをしてくるのである。

 それ罪深すぎるスキルじゃないの!?


 今みたいに挑発スキルや防御スキルまで失敗ブレーキさせてくるのだから、タンクがどれほどマズい状況になるかわかるだろう。

 時々悪魔になって側面からの槍の奇襲も合わさると、マジで全滅の危機が迫ってくるやべぇボスだ。

 だが、失敗ブレーキさせてくるならば、それをやり返してしまえばいい。

 俺が禁止を温存していたのは、まさにこの時のためだ。


「フィナ、継続してタンクを頼む! ――キキョウ、俺の合図でユニークスキルだ!」


「了解です教官」


「はい!」


 タイミングを計る。

 ヘイトはフィナに任せ、キキョウの側にしゃがんでいつでもゴーサインが送れるよう待機。

 あのブレーキスキル『天使のブレーキ』の発動時間は短い、発動した瞬間こっちも発動しないと間に合わない。失敗はできないぞ。

 そして、そのタイミングはすぐにやってきた。天使に切り替わって人差し指を立てる。


 ―――よし、今だ。


「ん! 『神速瞬動斬り』!」


「ダメ」


「今だ!」


「『羨ましいからそれ禁止』!」


「―――!?」


 カルアがスキルを使用した瞬間「ダメ」を仕掛けてきたので、即でゴーサインを送ると、キキョウのユニークスキルが見事に決まる

 カルアのスキルは失敗ファンブルすることなく、〈悪魔な天使〉を斬ったのだ。


「キキョウナイス!」


「はい! ヘイトを稼ぎます! 『悪いもの、おいでおいで』! 『敵対認定』!」


 天使の「ダメ」は非常に強力だが、実を言うと天使に脅威を感じるとすればこれくらいなので後はもう楽だ。

 おそらく、「ダメ」にリソースを振り抜いた一点型だったのだろう。

 悪魔にチェンジした後の自在槍の方が脅威度が高くなる。


 キキョウがタゲを取り、正面から相手をしていると、悪魔の片手から突如槍が消え、自在槍となったそれが迷路の壁を突き抜けて消えていく。

 迷路の壁は透明じゃないため俺たちでは見ることはできない。

 いつ襲ってくるか、誰を襲ってくるかは『直感』や『危機感知』系のスキルを持っていないと対処が難しいだろう。


 だが、別に奇襲に対処する必要は無い。


「キキョウ『羨望の取消』!」


「はい! 『羨望の取消』!」


 キキョウも相手のスキルを失敗ファンブルさせるスキルを持っているからな!

 遠くからカランカランと槍が転がる音が聞こえた気がした。

 自在槍の効果が消え、槍が落下したのだろう。


 やっぱ【嫉妬】強いわ。さすがは【大罪】最強職。

 キキョウがいなければどれだけ苦戦したかも分からないぜ。


「ワ―――!」


「イグニス様、そこです! 『イグニス・バースト』!」


「うなれ、らいりゅう~『雷竜アターック』!」


「ええい、ぼくのところには来ないでくれよー! 『3連バースト』! 『クイックショット』! 『ミストプレゼンショット』!」


「ちょー!? 今度は天使と悪魔が分かれた!? ツインズ型!? 『ダークエリアハイヒール』! 『ダークハイヒール』!」


 自在槍を落とされた〈悪魔な天使〉は、HPが半分を切るとなんと2体に分かれた。天使と悪魔が入れ替わるのではなく、2体同時出現。何これパナイ。


「姉さま、これは負けてはいられませんよ!」


「こっちではフィナちゃんが対抗心を持ってる!? 『ダーククイーンヒール』!」


「ワ―――!」


 おっとどうやら天使と悪魔で分かれる行為はフィナの対抗心を刺激したらしい、いったいなぜ?


 本来なら片方悪魔が槍捌き、そして片方天使が「ダメダメの~ダメ」みたいにスキルと魔法を封じてくるヤベェ展開になるはずだが、そこはキキョウが「ダメ」を禁止しているので安心。

 天使はキキョウに任せ、フィナが悪魔相手に大きく斬り込んだ。


悪魔堕天使は滅べです!」


「あれ!? フィナちゃん!?」


 エリサがフィナのセリフにすごく驚いていたのが印象的だったよ。


 だが天使モードは最大のスキル『天使のブレーキ』が禁止になっているのだから戦力半減みたいなものだ。

 悪魔の自在槍もクールタイムが終わって使用する度にキキョウが失敗ファンブルさせていくので脅威もガンガン減らしていく。


 最後は怒りモード時に融合し、半身悪魔堕天使、半身天使になって「ダメ」と自在槍を繰り出す〈天魔形態〉になっていたが、キキョウの前に持ち味が封じられてしまい、そのままHPをゼロにすることに成功する!


「おお! ここでストーーーップ! ニーコ、トドメだ! ラスアタ決めろー!」


「ええーーい! 『トレジャーショット』!」


「ダ……メ……ワ」


 もちろん最後はニーコにトドメを刺してもらいますとも!

 これが天魔の眉間にクリティカルヒットを決め、〈悪魔な天使〉は膨大なエフェクトを発生させて消えていったのだった。


〈金箱〉〈金箱〉~! 最上級の装備~! お願いします!


 俺の願いが届いたのだろう。


〈悪魔な天使〉がドロップしたのは――〈金箱〉だった。

 しかも2つ!



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