第1579話 深層に到着!ドキドキわははしながら徘徊型へ




 レアイベントボスでちょっと不完全燃焼にはなったものの、その後の壁画なども回ってだいぶ回復。


 そこにあったのは、まさに「騎士爵」の発現条件、そのヒントだったのだ。


「こ、これは!」


「ゼフィルスさん、スクショを、これは持って帰らなければなりません!」


「すごいです。あ、これは【テンプルナイト】に【テンプルパラディン】ではないですか? 私が1年生の時に狙っていた職業ジョブですよ」


「やば、これ騎士爵家が今まで大金出し合って掴んできた情報てんこ盛りですよ!? アイギス姉さま、お母さまたち大騒ぎになるんじゃないです?」


 反応したのはまさに騎士の皆さん。

 エステル、アイギス、ロゼッタ、アルテだった。

 ロゼッタは最初【神殿騎士】だったからな。上級職になるとしたら高位職の【テンプルパラディン】を狙いたいよな。


「こちらは【近衛騎士】から成れる【シュヴァリエ】に【セイントロイヤルガード】、【一騎当千】、それに――【守護位しゅごい騎士きし】!?」


「【ナイト】や【ワイルドナイト】の上級職もありますね。【ペガサスナイト】に【ワイバーンライダー】。それにこれは――【竜騎士】もあるのですか!」


「すごい、【聖騎士】の上級職でしょうか? 【カリバーンパラディン】があります。その次は、【ジャッジメントタンクナイツ】? これはタンクでしょうか? 中位職では【騎士】の上級職で【重騎士】に【クルセイダー】、そして【重厚騎士】。【チャリオット】の上級職に【戦車騎士】に【チャリオットライダー】まで描かれています!」


「【暗黒騎士】から成れる上級職もありますよ! えっと【闇落ち騎士】に【地獄の闇騎士】に【天の先槍】。へ? 【邪竜騎士】? あ、こっちは下級職の【魔装騎士】もあります! 【フィクサーランサー】と、あと【完全装甲魔装騎将かんぜんそうこうまそうきしょう】!? なにこれ初めて聞くよ!?」


 まるで宝の山と言わんばかりに大騒ぎだな。

 なにしろ、ここには「騎士爵」の上級職、その全てが描かれているから。

 ハテナが付いているのは、彼女たちでも知らない職業ジョブだからなのかもしれない。


「そして、【姫騎士】の上級職、ですか! 【戦車姫】、【竜騎姫】、【天守護の騎士姫】、【聖乗の姫騎士】……全部ここに揃っていますね」


「4つで全てだったのですね」


 いやぁ、しかし改めて見ると多いな「騎士爵」カテゴリーは。

 ゲーム時代、他の貴人系とは違い、5人までギルドに加入させることができたものだから、他のカテゴリーと比べても断然多いんだよ。


 とりあえず俺はエステルたちに言われてスクショをパシャパシャったのだった。

 うむ。学園長とミストン所長に良いお土産が出来たぞ。


「やっぱりとんでもない大騒ぎになるんじゃないかなアイギス姉さま?」


「……もう今更ですよアルテ。でもお母様が学園に飛んで来たら一緒に挨拶しにいきましょうね」


「なんだかそう聞くと楽しみになってきたかも! おっどろかせちゃいましょう!」




 その後の攻略に陰り無し。俺たちはその後も次々と攻略を進めていった。

 しかし、60層を超えたところから新たな問題が浮上する。


「これは、透明な壁が、完全に無くなった?」


「だな。一気に視界が悪くなった」


 そう、今まで俺たちの視界だけでもギリギリ迷路の構造が見えていたし、空を飛べば〈竜の箱庭〉を使わなくても俯瞰して見ることが可能だった迷路が、とうとう見れなくなった。

 透明な壁の部分が完全に消えてしまい、普通の壁と迷路になってしまったからだ。

 ここは61層。

 つまりは深層に突入したということ。


「これは、深層に入ったが故の変化、と見ていいですわね」


「ああ。深層は徘徊型が登場する。どういう形で登場するか分からないから、注意は怠らないようにな」


「もちろんです。〈竜の箱庭〉起動ですわ!」


 深層から難易度アップ! ただでさえ視界不良なのに徘徊型まで襲ってくる?

 俺たちのように支援職系を持っていないと被害が拡大していたな!


「『フルマッピング』ですわ! ――カイリさん」


「オッケー! 『安全ルート探知』!」


 でも安心。こっちにはリーナとカイリがいるんだ!

 2人の合わせ技で危機も何のその。

 カイリの『安全ルート探知』は危険度の少ないルートを導き出すスキル。

 これにより逆に危険な、モンスターや罠が隠れ潜んでいる場所やルートも分かるのだ。


 毎回階層を更新する度にカイリにこれを使ってもらい、モンスターの疑似的な探知をしてもらっていた。

 もちろんリーナの『モンスターウォッチング』も使っているので、二重探知だな。


 特に徘徊型は奇襲を前提としているボス。

 普通の探知では隠密ですり抜ける可能性があるために、こうして対策は怠らない。


「安全確認、ですわ」


「少なくとも、徘徊型はこの階層にはいないみたいだね」


「了解だ。2人はこのまま司令塔を頼む」


「「はい!」」


 徘徊型はいない。

 だが油断はしない。徘徊型は階層を移動するからだ。

 しかもそれが階層門を使うのかすら、ボスによる。

 天井から突如にゅるっと出てきたり、地面からひょっこっと出てくる可能性もある。まあ、ここはせっかく側面が迷路という目隠し状態なんだから横から来るだろうけど念のため。


 リーナとカイリにはこの救済場所セーフティエリアで、もし徘徊型が出ても瞬時に気がつけるようにオペレーター兼レーダー観測みたいなことをしてもらった。


 結果的に61層では徘徊型は出なかった。

 そして新たに〈橙〉と〈白〉のボタンも発見。〈橙〉を押すと、オレンジ色だった迷宮の壁が通行可能になる。逆に通行できた場所に白の壁が立ちはだかり、進めなくなるというギミックだった。逆に〈白〉を押せば白の壁が無くなって通行可能になり、通行可能になっていた場所に再びオレンジの壁が立ち塞がって通れなくなる。


 RPGではよくあるギミックだな。

 ただこれは司令塔竜の箱庭でも覚えるのに難儀するらしく、現場のメンバーと密にやり取りをして、『ギルドチェーンブックマーク』でメモを取り『投影コネクト』でココにギミックありと記して攻略する案が取られたのだった。

 それを助言したのは俺だけどな!


 だが、これプラスエリア別の色もあるため、なかなか複雑化してきたな。

 支援職なしの事前情報なしではかなり攻略も難しくなりつつある。


 ゲーム時代の攻略サイトには、宝箱を取る危険なルートから、ただ階層を更新するだけの最短ルートまで、どのように動けば良いのかが書かれていたが、俺も学園長に報告書攻略本を渡すときは是非採用したいと思う。

 きっと驚くぞ~。ふはは!


 そうして67層に入った時、そいつは居た。


「んん?? 引っかかった? 引っかかったよ!」


「徘徊型か!」


「うん! この辺、なんかノイズが走っているみたいに変な感覚がある」


 カイリの『安全ルート探知』にかんあり。

 安全なルートにノイズが発生しているポイントがあった。これは調査せねばなるまい。


「よーし、徘徊型との激闘の予感だ! ニーコ、行けるか?」


「全然行けないが!?」


「…………」


 俺の振りにニーコが元気良く返事をくれる。きっと照れ隠しだろう。

 なぜかシエラが俺を無言で見てくるが、どうしたんだ? ジト目でもいいんだよ?


「いいえ。戦う気満々だったのがちょっと気になっただけよ」


「そうだよ。考え直してくれたまえ勇者君。〈エデン〉ではなぜか徘徊型は狩る対象になっているがね、普通は徘徊型に遭遇すれば大変なことになるんだよ?」


「ニーコに少し同意ね。ゼフィルス、事前情報が皆無の敵、しかも奇襲してくるかもしれない危険なボスよ。それでも、挑むのね」


「おう! 〈金箱〉が俺を待ってるぜ!」


「報酬のことしか頭にないよ!? というよりもう報酬をゲットした気になっている!?」


「ダメだわ。こうなったゼフィルスは止められない。ニーコ、覚悟を決めなさい」


「ここまで平穏だったのに! 考え直そう勇者君。上級上位ダンジョン、初の徘徊型だよ? レアイベントボスくらい強いボスのはずなんだよ……」


「つまり、レアイベントボスを毎日狩っている俺たちなら無問題、ってことだな!」


 シエラとニーコが落ち着け的なことを言ってくるが、落ち着いてなんていられない。最上級ダンジョンのドロップが、俺たちを待っているのだ!

 徘徊型ボスのドロップは最上級に届きうる。

 レアイベントボスのドロップも相当だが、こっちも相当だ。

 是非ゲットしておかねばなるまい!


 そしてニーコを誘う理由は、もちろん素材ドロップをアップしてもらいたいからだ。

 守護型ボス相手でもノーアの『ドロップ革命』があれば徘徊型のドロップは確保できるが、素材の方はそうはいかない。レシピがドロップしてもその徘徊型素材がなくては作れるものも作れないのである! 徘徊型はいずれにせよ狩らなければならない!


 ニーコのいる9班は、ニーコ、アリス、キキョウ、カルア、リカだ。

 ヒーラーはいないが、これは誰かと組んでボス戦をすることを前提に組んである布陣なため、こうなっている。


 そして徘徊型には1班も一緒に挑む。ヒーラーはエリサ。もし足りなくなれば俺かフィナがサブヒーラーに入る。

 メインタンクはキキョウで、フィナは基本アタッカー。

 リカにサブタンクに入ってもらい、カウンターも狙っていこうと思う。


「聞いていた人も居るとおり、徘徊型は1班と9班で挑む! 徘徊型の移動方法が分からない今、無闇に戦力を分散させるのは悪手だ。まずは俺たちだけが出撃し、徘徊型に接触する!」


「うむ。ようやく出番か。腕が鳴るな」


「ん! どんなボスなのか、楽しみ」


「なんでリカ君とカルア君は楽しみにしているんだい?」


 気合いを入れるリカとカルアが頼もしい。

 ニーコはなぜか戦慄していたが、ニーコには攻撃をさせないから安心してほしいな。


 また、この徘徊型が迷宮の壁をすり抜ける系のモンスターの場合、1班と9班以外のところに行ってしまう可能性があるため、他の班は待機。まず俺たちが接触するまでは救済場所セーフティエリアに居てもらう。

 ボス戦に入ったら行動してよしだ。


「よーし、暖まってきたところで、出発だー!」


「「「「「おおー!」」」」」


「みんなに祝福を掛けるわね! 『プレイア・ゴッドブレス』!」


「このノリノリの出撃はどうしてなの? ぼくにはわからないよー!」


 全員気合い増し増しで出発。

 一部嘆きのセリフが聞こえて来た気がしたが、きっと気のせいだろう。

 レアイベントボスも毎日撃破しているのだ。徘徊型だからといって怖じ気づくには足りないな!


 こうしてリーナのナビに従いみんなで進んでいくと、通路のど真ん中にそいつはいた。


 俺は早速エステルから借りてきた〈幼若竜〉の『看破』を使用する。


「出たぞ、あいつは徘徊型ボス―――〈悪魔・時々・天使ユニット〉だ」



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