第1447話 ハンナとデート?クラス対抗戦会場で、混沌!




 仕度が出来次第ハンナと一緒に出発だ。


「わぁ~。なんだかだいぶクラス対抗戦らしい雰囲気になってきたね!」


「だな。日曜日なのに、いや日曜日だからこそ準備に忙しいのか」


 普段は学生が授業を受けたりなんなりしている学園は、大工事の真っ最中だった。


「おらー建材はまだかー!」


「そっちの柱こっちに持ってこい!」


「おーいこれはどこに持って行けばいい!?」


「ゼェゼェ、もう、無理……」


「どうしたうずくまって、ひざに矢でも受けたか!?」


 学生から大人まで入り交じってガンガン建物が出来ていく姿は壮観だ。

 空間収納系のスキル持ちも多くてどんどん建材が取り出されていき、建材を軽くするスキル持ちやバランスを図ったり保ったりするスキルなんかもあるので、クレーンなんかなくても見る見る出来ていくのだ。割と見ていて楽しい。


「すごいね~」


 ハンナの感想がエモい。

 あとハンナの人気も相変わらずで、工事をしていた学生がハンナを見つけると、なぜか挨拶してくるんだ。


「あ! ハンナ様だ、ハンナ様が来てるぞ!」


「ハンナ様!? チーッス!」


「そんな挨拶があるかこのバカトンカチ!」


「お勤めご苦労様です!」


「おはしゃっす!」


「ハンナ様を見て元気出た!」


「おまえら、この建材は生産隊長様が用意してくれたもんだ! お祭り後はすぐに撤去するとはいえ、立派な施設を作らねぇと承知しねぇからな!」


「「「「おおおおおおお!!」」」」


 なんか気合い入ってる。

 というかこの建材ハンナが手配したのか。すげぇな。

 そう思って隣を見ると、なぜかハンナがハテナマークを浮かべていた。

 ……それで色々察した。サトル、俺だけは分かっているからな。


 なぜか熱烈な挨拶を受けながら通りや校舎などを見て行く。


「あ、見て見てゼフィルス君! ここで今年は生産職の作品コンテストをやるんだよ」


「おお~。いくつも会場が出来てるな~」


 とある校舎にいくつも建てられている施設。

 これがギルドバトル〈作品コンテスト〉の会場だ。

 ハンナたちのいる〈生産専攻〉の学生たちが主に利用し、作品の点数を競い合う部門だ。


 施設がいくつもあるのは専攻によって施設を分けているからだな。

〈調理課〉なら調理コンテスト用の施設だし。

〈錬金術課〉なら錬金術用の施設が建てられている。


〈調理課〉の施設は、なぜか医療センターが併設へいせつされているのはなんでだろうね。

 知ってるけど。

 調理課のコンテストは救急搬送される人が圧倒的に多いので、こうなっているらしいぞ。お残しは許さない校風故に審査員が倒れるんだ。

 別名フードファイトとも言われている。それ別のコンテストじゃん。


「さっきの話だが〈錬金術課〉は今年から人数がすんごい増えたんだってな? どれくらい増えたんだ?」


「う、うん。ざっと5倍くらいかな。1年生は5クラスもあるんだって」


「5倍! やっぱりハンナの名声のおかげか~」


「も、もう~。私の名声なんてそんなのないよ~」


 ハンナは謙遜しているが俺は知っている。

 4月から5月に掛けて、新入生が自分の将来を決める職業ジョブの熟考期間中、学園一のアイテムが揃う〈エデン店〉が新入生で溢れていたことを。

 それが原因で何人もの新入生がハンナを女神、じゃなくて尊敬して錬金術の道を目指したことを。

 でも本人は知らないので俺も言わないのだ。


「あ、あれはなにかなゼフィルス君」


 話の流れを変えるようにハンナが指さすのでそっちを見ると、そこに居たのはSランクギルド〈ギルバドヨッシャー〉の面々たち。

 これはアカン。


「ハンナ、ここから離れるぞ」


「ふえ?」


 しかし、ちょっと遅かった。


「混沌センサーに反応です!」


「ん? お! あそこに居るのはゼフィルス氏ではないか!」


 ギルドマスターであるインサー先輩に見つかったのだ。

 その前になぜかオスカー君のレーダーが俺を捉えていたような気がしたが、これは気のせいに違いない。スキル詠唱聞こえなかったし。


 俺はあちゃーと思うも振り向いて挨拶する。


「ようインサー先輩。元気か?」


「元気も元気だ! 我々がこの祭で元気にならないわけがない!」


「「「「おおーー!!」」」」


〈ギルバドヨッシャー〉の面々は、前日からハイテンションだった。なぜか前日にもかかわらず全員揃っているところがもうな。

 普段はギルドバトルを断られるほど強い〈ギルバドヨッシャー〉。クラス対抗戦で堂々とバトれるのが嬉しくて仕方がないのだ。


 こういう時に捕まると話が長い。

 現在ハンナとお出かけ中なので早めに切り上げたいところだが。


「それじゃあ、俺はこれで」


「待たれよ」


 ターンしようとしたら待ったが掛かった。


「実は今回のクラス対抗戦では埋もれている1年生発掘キャンペーンを行なおうと企画しているのだ! どうせゼフィルス氏の組もシードで最初の3日間は暇だろ? 俺たちと一緒に行動しようじゃないか!」


「こ、混沌!」


 インサー先輩の喜色満面な笑顔とセリフ。そして興奮したように新しくサブマスターに就任したオスカー君がビクンとシャウトしていた。ここは相変わらずだな。

 あれ? 前サブマスターのオサムス先輩がいないが、どこに行ったのだろう?

 そう思っていると、〈ギルバドヨッシャー〉がにじり寄ってきた。


「きっと楽しいぞ!」


「混沌!」


 インサー先輩の表情が喜色満面から規制満面になりそうなところで俺たちはダッシュした。


「悪いが今は用事があってな! またなインサー先輩!」


「あ、ゼフィルス氏!?」


 うーむさすがはインサー先輩たち〈ギルバドヨッシャー〉。

 こっちはハンナが一緒だったのに思考の9割以上がクラス対抗戦に侵食を受けていたんだぜ。


「はぁ、はぁ。相変わらず凄かったね、〈ヨッシャー〉さんたち」


「だな」


 そう感想を言うハンナの方を振り向けば、いつの間にか手が繋がれていた。

 逃走の時無意識に握っていたみたいだ。


「それでゼフィルス君。逃げちゃって良かったの?」


「いいのいいの、今の〈ギルバドヨッシャー〉は飲み込まれると脱出出来ない沼みたいなものだ。もう少し落ち着いてから接触した方がいい」


「いったい何者なの〈ヨッシャー〉さんたち?」


 いや、ただの学生だよ? ちょっとマニアックな集団だけど。


「それでここは――〈B街〉?」


「いつの間にかな」


 走ってたらいつの間にかBランクギルドのギルドハウスが多く建つ〈B街〉に来ていた。

 うむ。クラス対抗戦の会場巡りは明日以降にしよう。今は近づくのは危険。


 ハンナは〈生徒会〉の仕事とかで明日からは別行動だからその前にアリーナの周辺を見に行ってみたのだが、色々ゆっくり見られない感じだったな。

 みんな忙しそうにしていたし。


 まあ、〈B街〉を回るのもいいかもしれない。

 そう思っていると、近くのギルドハウスから知っている声が掛かった。


「あ、なんだか知っている声がすると思ったですが、ゼフィルス先輩ようこそいらっしゃったです」


「タネテちゃん!」


 振り向くとタネテちゃんがいた。

 そういえばここ、Bランクギルド〈彫金ノ技工士〉じゃん。


「おや、もしかしてデートでしたか?」


「デ、デート!?」


「まあそんなところだ」


「ゼフィルス君!?」


「はぁ。生産隊長のハンナ様ですね。やっぱりゼフィルス先輩とデートするには生産隊長クラスじゃないと釣り合わないですか」


「え? そうかな? 釣り合うかな?」


「十分だと思うです」


 タネテちゃんが「間違いないです」と頷けばハンナは両手で頬を包んで、「えへへ」と俯いていた。

 ハンナが可愛いです。

 まあ相手は生粋の売り子さんでもあるので、結構よいしょが混じっていると思うけどな。

 それはともかくだ。


「ちょうどよかった。タネテちゃんに聞きたいことがあったんだよ」


「なんです? あ、またタロウ先輩がなんかやらかしやがりましたか!?」


「いや、ケンタロウは大丈夫だ」


 タネテちゃんの呼び方がまだタロウ先輩のままだった。

 どうやら〈クマライダー・バワー〉のパンダ号の頃から評価が変わってない様子だ。


「それよりもタネテちゃん、LVカンストしたんだって? 凄いじゃないか。おめでとう」


「えへ。ありがとうです! これもゼフィルス先輩が素材をどんどん流してくれたおかげです。おかげで自分でも信じられないくらい早くLVカンストにたどり着いたです」


 うむうむ。そう誇らしげに胸を張るタネテちゃんが良き。

 ハンナも「わーおめでとうございます」とお祝いの言葉を贈ってる。


 ということで、俺もお祝いを贈ろう。


「タネテちゃん、早速なんだが〈上級転職チケット〉、いる?」


 俺はそう切り出した。



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