第1435話 夏休みの終わり。学園2学期スケジュール!




 夏休み最後の日は―――大規模なオークションが開催される。

 もちろんシングルオークションだ。


 この規模のオークションは年に3度しか開催されないというほどの巨大なもので、学園ではなく国が主催し、凄まじくレアで手に入りにくいものが出品され、毎年大きく賑わうことでも知られている。


 去年は普通は販売されることが法によって禁止されている〈上級転職チケット〉が出品されたことで大盛り上がりになったんだっけ。


 しかし、今年は……。

 それだけではいまいち盛り上がらないだろう。

〈上級転職チケット〉とかもう至る所で見られるようになったからな。

 噂では〈上級転職チケット〉の〈交換屋〉を出している狂った店まであるとも聞く。どこのことかな? 全然狂ってないよね?


 まあ安心してほしい。今年はもっとパナイ。

 何しろ、今まで見たことも聞いたこともなかった、上級中位ダンジョン産の様々なアイテムや装備が目白押しとなっているのだ。


〈救護委員会〉や〈ハンター委員会〉、そして〈攻略先生委員会〉は頑張ったよ。

 あと〈エデン〉も少なからず貢献した。学園長に結構持っていったんだ。

〈テレポ〉を始め、他にもオークションの目玉になりそうなものをいくつか渡したしな。

 学園長も涙が出るほど凄く喜んでたよ。しばらく「ほっほっほっほっほっほ――」と笑いが止まらない様子だったんだ。そんなに喜んでもらえて俺も嬉しいよ!


 おかげでオークションに並ぶ品の3分の1くらいが〈エデン〉が持ち込んだものになってしまったようだが、まあ些細なことだろう。

 あとは1つ悲しいことがあった。〈海ダン〉でやった肝試し、そこで会場に選ばれた〈幽霊船島〉へ行くための必須アイテム。〈幽霊海図ゴーストマップ〉がなぜかオークションに出されてしまったのだ!


 シエラから「これ売っても良いかしら?」と普通に聞かれて、シエラの言うことだからと俺もあまり深く確かめずにOKを出してしまったら、まさかの〈幽霊海図ゴーストマップ〉だったというあの悲劇!


 まあ、その素材である〈航海日誌〉はゲット済みなのでまた作れるんだけどな。

 これはまた来年まで隠しておかなければ。

 シエラに見つかれば今度こそ捨てられてしまう! 秘密だぞ?


 オークションは結果を聞けば、大盛り上がりだったとのことだ。

 俺はダンジョン行ってて後で聞いたんだけどな。あんまり欲しいというものも無かったし。


「特に〈芳醇な100%リンゴジュース〉が凄かったんだよ。3本セット、5本セット、10本セット、果ては20本セットなどなど。下手をすれば上級中位ジョーチュー級の装備よりも盛り上がっていたんじゃないかな」


 そうコメントするのは留学生であり、見聞を広めるためという理由でオークション参加組にいたクイナダだ。

 なぜか今回のオークション、〈芳醇な100%リンゴジュース〉が何本も出品されてたらしい。これって国が主催だったよね? なぜかな?

 国のトップは王族、つまり、そういうことなのだろうか? ラナのために溜め込んでいたものを放出した可能性が大な件。


「なー! こんなに〈芳醇な100%リンゴジュース〉が出品されるなら私も参加すれば良かったわ!」


 なお、このことを後から知った王女様は大変ご立腹だった。だが、参加しなくて良かったかもしれないぞ。

 その日の夕方は〈リンゴとチケット交換屋〉が珍しく混雑したらしい。ラナよ、おそらくあのオークションに売られていたジュースは、近いうちに〈エデン〉に運ばれてくるぞ? これもユーリ先輩の計算のうちか?


 今後はオークションに売られる〈芳醇な100%リンゴジュース〉が増える予感!


 そんなオークションが行なわれた夏休み最終日は瞬く間に過ぎていき、ついに9月に突入した。




「今日から2学期だねゼフィルス君」


「ああ。夏休み、思っていたよりもあっという間に終わっちまったなぁ」


 夏休みが明け、ハンナとはいつも通りの朝を過ごし、そのまま登校中に夏休みのことを思い起こす。


「あんなに色々ダンジョン攻略していたのに!? 1年生の子たち、あと1個攻略者の証を手に入れれば上級中位ダンジョンに入ダンできるって聞いたよ!?」


「なるほど、そう聞くと色々やった気がする」


「レギュラーメンバーなんて上級中位ダンジョンを3つも攻略しちゃったんだよ? ちゃんと覚えてるゼフィルス君?」


 ハンナに言われて数えてみると、〈謎ダン〉〈守氷ダン〉〈聖ダン〉の3箇所を攻略していた。1年生も〈山ダン〉〈島ダン〉〈夜ダン〉を攻略したし、他に〈食ダン〉と〈海ダン〉まで攻略してしまった。あれ? 思い起こすと結構冒険してたな。


「大丈夫ゼフィルス君? 夏休みボケしてない?」


「してるかもしれない」


 9月1日なんて学生が最も現実逃避する日とも言われているんだ。あれ? それは8月31日だっけ? いや、〈ダン活〉には宿題は無いからきっと9月1日であってるはずだ。


「もう、しっかりしてね? じゃあ、私こっちだから、がんばってねゼフィルス君!」


「おう。ハンナも頑張れよー」


 いつもの分かれ道でハンナが手を振りながら去って行くのを俺も手を振って見送った。

「がんばってね」か。うむ。ハンナにそう言われてしまっては仕方がない!


「俺のできる範囲で精一杯頑張らせてもらおうか!!」


「ほどほどにしなさい」


「うひょぉっしゃ!?!? シエラ!?」


「おはようゼフィルス」


「お、おはよう。今日はずいぶん遅いんだな?」


 俺が決意に燃えてたら後ろから声が!

 振り向くとそこにシエラが居た。

 いったいいつの間に俺の背後を!?

 あと朝からジト目です。とてもありがとうございます!!


「ちょっと用があって一度寮に戻ったのよ。そしたらハンナと一緒に登校するゼフィルスを見かけたの」


 ジトーッと俺を見つめながらシエラが遅い理由を話す。

 シエラは優等生なので、大体今より30分くらいは早く登校しているのだ。

 どうやら見られていたらしい。登校中の光景だけだったのは幸いか?

 だが、俺はそんなことよりもシエラのさっきの言葉が気になった。


「そうだったのか。ん? ちょっと待ってくれ、さっき俺が決意を燃やしながら頑張ろうとしてたら水を差さなかったか?」


「ゼフィルスは少し冷やしたくらいがちょうど良いのよ」


「そうなの!?」


 おかしいな。少し水を差して冷やした方がちょうど良いとはどういうことだろう?

 シエラの話はたまに難題なことがあるよ!


「いきましょ」


「お、おう。そうだな」


 いつの間にかシエラと2人きりで登校です。

 こういうのも良い……。


「そういえばゼフィルス、今日の放課後よ。覚えてる?」


「マリアの出世だな。もちろん覚えてるさ」


 少し隣を歩くシエラに頬が緩んでいると、急に話を振られた。

 俺はもちろんと頷く。


 そう、今日はちょっとしたイベントが待っている。

 前々から準備していて、俺たちも少なからず手伝っていたことがようやく今日から本格始動するのだ。

 俺も式にしっかり参加する予定だ。


「嬉しそうねゼフィルス」


「もちろんだ! これでまた学生たちの大幅なレベルアップが見込めるだろう。歓迎しないわけがないぜ!」


 俺はグッと手を握る。

 学生の能力が底上げされれば学園はさらに強くなる!

 それは巡り巡って自分にも還元されるのだ!

 とても楽しみである。


 そんなことを考えていると、無事学園に到着。


 教室にシエラと2人で入れば、ラナが目を丸くして。


「シ、シエラ。ゼフィルスと2人で登校!? まさか、あの夏祭りで!?」


 と信じられないという顔で戦慄わななきながら指を向け。


「な、何も無いわ。偶然、そう、偶然一緒になったのよ」


 シエラが少し頬を赤くしながら否定するという一幕もあった。

 なお、シエラの否定は信憑性しんぴょうせいに欠けるとしてすぐに女子に捕まり教室の隅に連行されていったのだが、あまり深く聞かないであげてくれ。なぜか『直感』さんがビンビン反応しているから。これ、俺が行って止めるべきなのだろうか? 教えて『直感』さん!?


 しかし、そこへ救世主来たる。


「はーい。みなさんおはようございます。席に着いてね~」


 フィリス先生が来られたのだ。

 そして一瞬で『直感』さんは静まった。セーフ。


 1組はみんな優等生ばかりなのですぐにみんな席に着いて話を聞く体勢。

 夏休み明け恒例の学園長からのありがたいお言葉が放送され、それが終わればロングホームルームが開始される。


「こうしてみなさんが大きな怪我もなく、また夏休み明けに全員揃って会えたことを先生は嬉しく思います。上級ダンジョンは本当に危険なんですからね? これからも油断しないように気をつけてくださいよ?」


 フィリス先生のありがたい言葉が教室に響く。なぜか先程の学園長のありがたいお言葉よりも心に響くのはなぜだろう?


「では続いて、大きな連絡があります。まず1つは〈転職制度〉のご案内ですよ。今年もやることが決まりました~。10月の1週目です。それに伴いクラス替えも実施されるかもしれません。これは〈転課〉を希望する学生が一定数に至った場合に実施されるとのことです」


 うむ。ここまでは去年と同じだな。しかしクラス替えは必ずやるのではなく、〈転課〉する学生の人数によってやるかやらないのか決めるのか。

 学園も色々試しているようだ。


「それとクラス対抗戦ですが、こちらは3週間後に行なうことが決定しました~」


 おっとクラス対抗戦の話だ!

 どうやら去年は夏休み明け1週間後という急な話だったがために色々準備が追いつかなかった学生が多かったらしく、今年は3週間の時間を設けるということのようだ。


「日にちに直すと9月22日から9月26日までの5日間ですね」


「第四週、ですか? あれ? そうなるとダンジョン週間は?」


「良い質問ですねゼフィルス君。ダンジョン週間ですが、こちらもちょっと前にズラして、今年の9月は第三週となりました。13日から始まって、21日までですね。なのでクラス対抗戦の最終調整に使ってくださいね」


「なるほど」


 去年は夏休みが終わってから僅か1週間でクラス対抗戦が始まってしまい、夏休みに帰省している人は満足にレベル上げが出来なかった。

 そのため今年はダンジョン週間を前にズラし、その後にクラス対抗戦を組むことにしたようだ。上手い手を考えるな。メモメモ。


「では、クラス対抗戦のリーダーもできれば今日か明日には決めたいのですが、みなさんよろしいですか?」


「それなら今年もゼフィルスでいいんじゃないかしら?」


 フィリス先生からの問いに答えたのはラナだった。

 さすがはラナ、物怖じしない。


「はい。ゼフィルス君ですね~。……他に推薦、または立候補したいという方はいらっしゃいますか?」


 黒板に俺の名が書かれ、さらに立候補を募るフィリス先生。


「ゼフィルスはんがリーダーやりはるのなら、うちは付いていきますぇ」


「俺も、異論はないですよ。去年の優勝クラスの代表ですしね」


「私も同じです」


「いいよ」


 ハク、ラムダ、アイシャ、ミューも異論はないとのこと、残り26人は〈エデン〉のメンバーなので、満場一致だ。


「はい。他の立候補者は無しですね。ゼフィルス君、今年もリーダーお願いできますか?」


「任せてください。絶対に勝ってやりますよ!」


「よろしくお願いしますね。あ、それと今年は〈1組〉にシードが与えられますよ」


 フィリス先生から〈1組〉のシードの話が出る。

 クラス対抗戦はトーナメント形式だ。

 ならシードというのもあまりおかしいことではない。しかし、フィリス先生の顔がちょっと苦笑気味だった。


「ええ。去年の優勝者である〈1組〉はですね。準決勝から参加することになったのよ」


「マジか」


〈1組〉強すぎ説か? そう思ったが、どうやらこれは〈1組〉だけでは無い模様で。他にも強いクラスの〈2組〉も準決勝からのシード権を与えられているとのことだ。

 その他、準々決勝には実に〈3組〉から〈42組〉までの40クラスがシード権を与えられるというのだから、凄い大盤振る舞いだな。


 ……これ、もしかして弱いクラスを蹂躙させないための処置だったりするのだろうか?


「では詳しくは後日話すとして。最後のお話ですよ~。実は本日、新たな学園公式ギルドが発足することになりました。名前は―――〈ダンジョンしょう委員会〉です」



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