第1407話 隠し部屋にはレアイベントボス―やーちゃん!




「扉、到着!」


「大きい、そして、神々しいですね」


「白亜の石の扉、これ持って帰れないかな? ギルドハウスの扉に良いと思うんだよ」


「ミサトはこれを持って帰ろうというのか? とんでもないことを思いつくな。だが無理だと思うぞ?」


 エリサがはしゃぎ、フィナが天使の様な可愛い顔で呟く。

 ミサトはなんか扉のお持ち帰りを検討しているが、メルトの言うとおり、とんでもないことを考えるな。だが、気持ちは分からんでもないけどな。こんな扉のギルドハウス、作ってみてぇ。一応スクショに撮っておこう。パシャリ。


 到着したところでみんなで〈イブキ〉から降りる。

 凄まじく扉が大きかった。道がデカい分、扉もデカいと言えばその大きさが分かるだろうか?

 そんな感じで見上げていると、シエラが近づいてきた。


「ゼフィルス、これは隠し部屋なのかしら? でも、〈守氷ダン〉の時にもこの扉と似たようなものを見た気がするわ」


 そう言うシエラはこの扉が何か、もう予想が付いているのだろう。

 俺はそれに深く頷いた。


「だな。これはおそらく、レアイベントボスの扉だろうぜ」


「やっぱり! ここはレアイベントの部屋なのね!」


 そうラナが声を上げた途端、メンバーもざわめく。

 当たり。ここは上級下位ジョーカーランク5のダンジョン、通称〈夜ダン〉と対になる、と言うのも少しおかしいが、色々共通点があるレアイベント、天使系ボスが控える隠し部屋だ。

 そしてボスが守るその奥には、【アークエンジェル】からの進化ルート4つのヒントが描かれた壁画が鎮座している。


 そこまでは言わないが、〈守氷ダン〉では大発見や凄まじいドロップ品の数々を手に入れたのだ。

 メンバーの盛り上がりは一気に最高潮へ突入した。


「なら早速ボス戦よ! 前回守氷ダンのときみたいに3パーティの方が良いのかしら?」


「基本は2パーティで行こう。〈守氷ダン〉の時は相手の特性からやむなく3パーティにしたが、下手をすれば上級上位ジョウジョウ級に足を踏み入れているからな、あまりハンディを上げると危険だ」


「いいわ! ねぇゼフィルス、今回は私のパーティを参加させて頂戴!」


〈守氷ダン〉とここは難易度が結構違う。

 また〈夜ダン〉の時のレアイベントボス〈ホネデス〉はプレイヤーへの精神攻撃(?)に加えて〈即死〉というえげつない能力を持っていた。


 そしてここも、かなりえげつない能力を使ってくる。

 さらに言えば、そのえげつない能力に対抗する能力がラナにはあるのだ。

 ということでラナは最初から参加決定だった。もちろんそんなことをおくびにも出さず俺は声を張る。


「よし。じゃあ、今回は俺とラナのパーティで行くことにする!」


「やったわー!」


「よかったですねラナ様」


「うん。楽しみね!」


「だな!」


 感極まって手を振り上げるラナにエステルが拍手を贈った。俺もラナと一緒にボスバトルするの、楽しみだ。


 ラナのパーティは今回、ラナ、エステル、シズ、パメラ、フィナである。

 タンクはフィナ、ヒーラーはラナだが。2人ともかなりアタッカー気味なので非常に攻撃的なパーティだ。

 俺のパーティが、ゼフィルス、カルア、リカ、メルト、ミサトなのでバランス的には悪くない。


「よし、開けるぞ! 今回は扉の前に立っているのも大丈夫な気がするが、気は抜かないようにな!」


「「「「はーい!」」」」


「どうぞー」


「よし、じゃあ開けるぞ」


 前回の〈守氷ダン〉では扉を開けた途端雪崩発生。

 中に入るどころか、ボスが出てくる仕様だったため結構混乱したんだよな。あれは初めてのパターンだった。

 だが、今回は中で戦うタイプ。〈ホネデス〉の時と同じ、ボス部屋仕様だ。

 それでも万が一があってはいけないと他のメンバーは下がったところから応援してくれている。シエラからジト目を感じた気がしたが、遠くて分からない。無念。


 まあ。それを見て巻き込まれの危険無しと判断して白亜の石扉に手を触れると、ギギギギィという重い音を奏でて扉が開いていく。


「『こちらは大丈夫そうですわゼフィルスさん。ご武運を』」


「了解。――みんな、リーナとカイリから連絡。後ろは大丈夫そうだってさ」


 リーナたちはトンネルの出入り口を見張る担当だ。出入り口が1つしかない関係上、もしモンスターが大軍で攻めてきた場合、大変なことになるとはリーナの主張だった。

 とはいえそんなことは起こらないことは知っているので軽く周知。

 それを聞いてラナが良い笑顔で頷いて扉の奥を指さした。


「なら行きましょ! 先頭は」


「先陣を切るのは私に任せてもらおう」


 もちろん先頭に名乗りを上げるのはリカ。

 盾タンクでは無いが、かなりの腕でボスの攻撃だって切り落とし、払うことが出来る。もしやばそうならフィナがヘイトを稼いでスイッチする心算だ。


 扉の中を覗くと、中は神々しい光に溢れた空間だった。

 そして、中には1体の天使が待ち受けていた。

 人型にして神々しい、女性型の戦天使いくさてんし

 身長はなんと〈守氷ダン〉の時と大きく変わって、俺たちより多少大きいくらいだ。

 白く美しい美術品のような鎧に身を包み、宙に浮いている。


「エステル!」


「はい。『看破』です! あれは、やはり天使族のボスのようです。名前は〈槍の大天使長・一騎当千天使エンジェル〉とのことです!」


「それが名前なの?」


「一騎当千天使、つよそう」


 うむ。ラナのツッコミ分かるしカルアの感想も分かる。

 天使は人型であっても個人名よりも種族名的な名前が多い印象で、結構〈◯◯天使〉や〈◯◯エンジェル〉といった名前が多かった。おかげでこの有様である。


 しかも〈槍天使〉や〈万夫不当天使〉など似た名前の天使が多かった影響で〈ダン活〉プレイヤーたちもこいつらの通称名を考えるの、かなり苦労してたっけ。

 結局〈槍の大天使長〉の槍の部分を省略して、最終的には〈やーちゃん〉と呼ばれていた。ちなみに他の一般天使は〈槍天使〉のまま呼ばれていたよ。


 俺もこいつをどんな名前で呼称するのかみんなと共有しなくちゃいけないんだけど、〈やーちゃん〉って提案するの? 俺が?

 やっべ、ちょっと困る。


「武器は槍。純粋な戦士と見た。相手に取って不足は無し――我が名はリカ。その首を頂戴する者なり! 『名乗り』!」


「―――――――!!」


 リカがいつも通りかっこいい名乗りを上げると、天使やーちゃんが言語化できない言葉のようなものを叫んで戦闘態勢に移った。


「敵がくるぞ!」


「ゼフィルス、こいつはなんて呼べば良いの!? ちょっとどころじゃなく名前が長いわ!」


「じゃあ〈やーちゃん〉で」


 とりあえず、言ってみた。


「誰よ〈やーちゃん〉って!」


 ダメだったみたいだ。


「ラナ殿下、よそ見は禁物だ! 〈やーちゃん〉が仕掛けてくるぞ! 『制空権・乱れ椿』!」


「だから〈やーちゃん〉って……もういいわ! 『守護の大加護』! 『獅子の大加護』! 『迅速の大加護』! 『病魔払いの大加護』!」


 オーケーだ! 〈やーちゃん〉で採用決定だ!

 空を飛ぶからか、翼をはためかせかなりの速度で迫り、目にも止まらぬ速さで槍の10連突きをしてくる〈やーちゃん〉の攻撃をリカが〈五ツリ〉の『制空権・乱れ椿』で捌く。


 ラナがバフをばらまいて全体を強化すると、俺たちも攻撃に加わる。だが。


「ん! 遠い!」


「空を飛んでいる上に高速で動き回って――なかなか攻撃が届きません!」


「この、動くなデース!」


 この〈やーちゃん〉、かなり動き回る。

 浮かんでいるのではなく、飛んでいるからだろう。身体も大きくないからかなり俊敏だ。とても瞬発力があってあっち行ったりこっち行ったりを繰り返し、足の速いメンバーであるカルア、エステル、パメラの攻撃が満足に当たらないというとんでもない事態になっていた。さすがはレアイベントのボス。


「そこ! 『バードデスストライク』!」


「―――!」


「むっ、避けられましたか」


 おかげでスナイパーのシズですら捉え切れていない。

 なのに攻撃は鋭く、リカを360度、様々な方向から突いてくる。

 とはいえだ。


「甘い! 『制空権・刀滅』!」


 リカの『制空権』は間合いに入ったら発動するため、リカを中心にドーム型の結界を張っているようなものだ。故に360度全てに対応が可能。

 速すぎて真後ろからの突きとかどうやって防いでいるのか見えないけどな!

 フィナとラナは俺の近くで待機してもらい、動きを観察してもらっていた。

 よし、そろそろいいだろう。


「だいぶわかった、反撃いくぞ! ラナ、『十宝剣』」


「任せなさい! 『大聖光の十宝剣』!」


 攻撃が避けられてしまうのであれば、避けられない攻撃を撃つまで。

 そしてラナの『大聖光の十宝剣』は――追尾付きだ。


「――――!?」


「今だ!」


 次々と宝剣がぶっ刺さっていき、〈やーちゃん〉の動きが鈍る。

 この瞬間を逃す俺たちではない。




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