第1340話 ヴァンのユニーク〈第二拠点戦法(守)〉
ここは白本拠地付近、そこでは〈南西巨城〉を陥落させ小城を取りながら北上してきた新メンバーが集まっていた。
そして白本拠地から僅か3マス東には、1つの見慣れない城が建っている。
「ヴァン、ここのところが甘いっす! もっと強度を足すっす!」
「任せるであります、『部分城強化』!」
「次はここに壁設置っす!」
「了解であります――『城壁展開』!」
そう、建てているのは【一国一城の主】に就いているヴァンだ。
ドワーフのナキキが補助し、何も無かったマスになんと城を築いているのである。
これは第二拠点。
【一国一城の主】が使えるユニークスキル『第二拠点建造』の力だ。
その能力は〈1マス×1マスに新たな
これにより何も無かったはずのマス、その小城を覆うようにして高さ10メートル級の
ダンジョンでは寝泊まりする宿泊施設にしかならないが、ギルドバトルでは驚異の能力を発揮する。
城さえあれば、城スキルで増築、強化、回復が可能。
城壁が生み出され、城が強化され、第二の拠点として機能して仲間を守ってくれる。また、シャロンの『キャッスルメイカー』の劣化版ではあるが、他の城に対しては時間制限で解除されてしまう防壁なども、ヴァンが第二拠点に建造したものはユニークスキルを解かない限り残り続けるのだ。
これぞ【一国一城の主】のタンク。
ギルドバトルでは盾で味方を守るのではない。城に匿って仲間を守る
その第二拠点が本拠地の僅か3マス東に建造され、現在進行形で建築と強化が進んでいる。
この拠点を無視して本拠地を攻めれば、僅かな時間で援軍がやって来て背後を取られるだろう。
そのため、まずはこの第二拠点を潰さなくては本拠地の攻略は難しいものとなる。これが新たな本拠地を守る戦法。
―――〈第二拠点戦法(守)〉である!
「今、いいかしら?」
「順調のようですね」
「あ、シエラ先輩にセレスタンさんっす!」
「はっ! こちらは順調であります!」
そこにやって来た2人のメンバー、白本拠地の防衛の要であるセレスタンとシエラである。
「わ、私とヴァンさんで、アリスもみなさんも、守ります! 『社強化』!」
「私もキキョウを守るよー」
「ア、アリスは下がってて、今から来る人たちは本当にとんでもないんだから」
「ええー」
「大丈夫よキキョウ、私もここで防衛に加わるわ。だから安心してちょうだい」
「シ、シエラ先輩が居てくれたら百人力ですよー!」
キキョウは『社強化』で第二拠点の耐久性の強化に加わりながら、タンクとしてみんなを守らないととプルプル震えていたが、思わぬ援軍にぱぁっと笑顔が戻った。
アリスは最初からやる気満々だ。
「私も微力ながら結界を張り侵攻を遅らせます――『森の大結界』」
シュミネは第二拠点に大きな結界を張って少しでも時間稼ぎをしようと試みていた。とはいえ相手は〈五ツリ〉を操る先輩集団である。『森の大結界』は〈四ツリ〉魔法であるが、気休めだった。
「大丈夫よ。もし相手が本拠地にしかけてきても、ゼフィルスなら絶対そういうとき逆転の手を打ってくるわ。あの人はそういう人だもの」
「……さすがシエラ先輩です。ゼフィルス様のこと、よく分かっているんですね」
「ふふ、これくらいすぐに分かるようになるわ。今日にでも、すぐにでも、ね」
セレスタンとシエラの登場で新メンバーの空気が弛緩する。
ゼフィルスがここにセレスタンやシエラたちを集め、さらに新メンバーに建造を最初から頼んでいたのだ。
それはつまり、相手が攻めてくることを予測していた。
巨大スクリーンには白チームが巨城を6城も確保して優勢にことを運んでいる様子が書かれている。
ここまで点差が開き、かつ時間が無いとなると出来ることは限られてくる。
巨城を確保して回るにも、ここの巨城の配置は閉じ込められる危険性があってリスクが高い。
なら、本拠地を直接狙おうと思うのも分かる。
その証拠に、その時は来た。
シュミネの声が第二拠点全体へ響く。
「来ました! あれは〈ブオール〉! それにあれはエステル号です! 小城を取っている先頭はカルア先輩とパメラ先輩です!」
「ルキアに一杯食わされて『装甲突破』などの防御スキルが充実している〈ブオール〉に乗り換えてきたわね。――行くわよ。セレスタンは〈ブオール〉をお願い」
「畏まりました。ナキキ様をお借りいたします」
「が、頑張るっす!」
「では、行きましょう」
ついに東側から〈ブオール〉と、そしてエステル号、そしてカルアとパメラのツーマンセルが迫ってきていたのである。
それを見てシエラは第二拠点に残り、セレスタンはなんとナキキを連れて第二拠点から打って出た。
「さすがはリーナね。戦力を2つに分けて片方を本拠地、片方を第二拠点へ向ける作戦ね。援軍を入れさせない気だわ」
「ど、どうするでありますかシエラ先輩? 本拠地は今、ノエル先輩、ラクリッテ先輩、トモヨ先輩、ルドベキア先輩しかいらっしゃらないはずでは?」
「そっちはセレスタンがなんとかするわ。私たちはこっちに集中しましょう。エステル号が来るわ」
戦いの火蓋が今切られようとしていた。
◇
「ナキキ様、我々は本拠地へ向かいます。カルア様とパメラさんの速度は我々で追いつくのは至難の業。あちらは放置してまず本拠地周りの小城マスを取り、保護バリアを敷きます」
「はいっす!」
保護
それを利用して本拠地の周辺に保護
これにより、相手は保護
本拠地の周辺に保護
何しろ本拠地から必ず出発した白マスがあるからだ。白マスは白チームでは取れないため、そこだけは保護
つまりその白マスで待ち構えていれば、対人戦が勃発するということだ。
本拠地にいたはずのノエルとトモヨとルキアも出てきて保護
すると、〈ブオール〉はなんの憂いも無く白マス方向へ進んできた。
「罠ごと振りきり、中にいる人を確実に本拠地へと連れて行く。さすがはゼフィルス様が考案した〈装甲列車戦法〉。なかなかに手強いです。しかし、それを打ち破る方法もまた、我々はゼフィルス様から伝授されています」
「はいっす!」
「ま、任せてください! いくら装甲が厚いと言えど、私の盾を突破することはできません!」
白マスで待ち構えるのはセレスタンとナキキ、そしてラクリッテである。
向かってくるのはカルアとパメラのツーマンセル。そしてその後ろに続く
〈ブオール〉である。
「気をつけるデースカルア! 相手にセレスタンがいるデース!」
「ん。『直感』すっごい鳴ってる」
「それってすっごくヤバいやつじゃなかったデス!?」
セレスタンを見てビビるパメラ。
護衛として言わせてもらえると、セレスタンとは絶対にやり合いたくないデースとはパメラの言葉だ。
しかし、すでに戦うことは決定である。
なんとかすり抜けたいとは思うが、セレスタンたちはあろうことか小城のすぐ側、小城を背にして待ち構えているので小城にタッチしたい2人からすれば非常にやりにくかった。
パメラも近づくにつれて覚悟を決める。
「こうなれば、私がセレスタンを足止めするデス。小城はカルアに任せるデス!」
「ん。パメラのこと、忘れない」
「縁起でもないデース!?」
何やらパメラが負けることが大体決まりつつあった。まだぶつかってもいないのに。せっかく決めた覚悟が揺らぎそうである。
「くぅー行くデス! 『必殺忍法・分身の術』! 『忍法・影分身
「甘いですパメラちゃん。ポン! 我ら、無限の幻影なり――『幻影妨害』!」
「ああ!? しくったデース! ラクリッテが居たデス!? でも、行くデスカルア!」
「抜ける。『ナンバーワン・ソニックスター』!」
パメラたちの狙いは、パメラが足止めしている隙にカルアを放つこと。
1マス後ろの小城をタッチして赤にしたのはパメラだった。順番から行くと、次にタッチして色を変えられるのはカルアになる。
パメラはカルアが小城をタッチする隙を作ればよかったのだ。小城さえタッチしてしまえば保護
しかしラクリッテが発動した〈五ツリ〉『幻影妨害』がまたくせ者。
要は味方の幻影を大量に生み出す魔法だ。
パメラが実態を持つ影分身だとすれば、ラクリッテのは実態を持たない分身である。
たくさんのセレスタン、ラクリッテ、ナキキが生まれ、パメラのせっかくの『忍法・影分身
だが目くらましには十分。カルアはこの隙に『ナンバーワン・ソニックスター』を使って超速で脇をすり抜け、小城の隣に出現。そしてカルアが手を伸ばし、小城をタッチするその瞬間。
――それは完璧なタイミングで起きた。
「『手刀』!」
「みゃっ!?!?」
まさに一瞬の出来事。
スキル発動中、もしくは発動後というのは細かい動作がしづらく、
故に無敵の速さでぶっちぎったカルアだったが、小城にタッチするその寸前、そこへセレスタンの『手刀』が炸裂。見事にヒット。
脳天にズドンとチョップを入れられ、カルアは〈気絶〉してしまった。
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