第1337話 〈竜の箱庭〉に映る全てが後手に回る驚異!




 こちらは赤チーム、試合開始直後の赤本拠地。


「『フルマッピング』ですわ!」


「『迅速の大加護』!」


「『防壁召喚』!」


 赤本拠地はまずリーナが〈竜の箱庭〉に『フルマッピング』を入れ、ラナが『迅速の大加護』で速度を上昇、シャロンが『防壁召喚』で城壁を建築していく。


「本拠地は防壁が少ない初期が弱点です。シャロンさん迅速にお願いしますわ!」


「任せてもらいましょう! 『物見台召喚』!」


 本拠地に残ったのは、3人。

 リーナ、ラナ、シャロンである。

 カタリナは『乗り物用移動結界』を使い、〈イブキ〉に乗って爆走しているメンバーをお守り中だ。

 何しろ相手はゼフィルス。どんな作戦をしてくるか分からない。

 備えあれば憂い無し、という判断だった。


 赤チームがまず狙ったのは〈北東巨城〉、そして〈南西巨城〉である。

 ゼフィルスが最初に狙っちゃダメだと言っていた〈南西巨城〉が見事に狙いに定まっていた。

 しかし、これは仕方のない部分がある。

 多少両本拠地から平等では無い距離でも、今までなら例え不利な状況からでも先取してきたのが〈エデン〉だからだ。


 だがそれはゼフィルスが「いける」と判断したからこそ、という注釈が付く。

 膨大な戦績と経験に基づいた「いける」or「無理無理」のデータベースを把握しているゼフィルスが居たからこそ狙えたという話だった。

 そしてリーナはこのフィールドは初である。

 さらに赤チームは速いメンバーが多い。

 例え不利な状況でも、もしかしたら差し込みイケる可能性があると判断してしまったのだ。


 さらにもう1つ、〈中央東巨城〉の後回しもゼフィルスの予想通りになってしまった。

 ここはギルドバトルに慣れ始めた頃のプレイヤーがやってしまいがちのところで、まずは遠く、相手本拠地に近い巨城から落としていくのがセオリーという固定観念がむくむく育ってきたプレイヤーに突き刺さるのだ。


〈中央東巨城〉よりもまず〈北東巨城〉を優先する。

〈北東巨城〉を相手に取られる可能性があるのなら、その前に取得してしまうという判断は間違っていない。

 ただそれは〈中央東巨城〉を落とした後でも、もしくは同時攻略でも構わないのである。後回しは悪手なのだ。

 だって、白チームからすると〈北東巨城〉よりも〈中央東巨城〉の方が近いから。


 これも、フィールドの罠だ。

 普段ならお互い、自分の拠点と相手の拠点から同じくらいの距離の巨城を狙うのがセオリー。その固定観念からすると〈中央東巨城〉はあまりに赤本拠地から近すぎたのだ。いつでも落とせる。むしろリーナやラナからすれば本拠地にいながら攻撃が届くレベル。


 故に、リーナはうっかり〈北東巨城〉と〈南西巨城〉を全力で落とすよう指示をしてしまったのである。


 しかし、そこはリーナ。ちゃんと〈南巨城〉をゼフィルスたちが狙ってくる可能性があることも計算し、そのルートを保護期間バリアの道で線を引いて潰し、守ったのだ。これで〈南巨城〉は一先ず安泰。後は〈北東巨城〉か〈南西巨城〉を取れるかが焦点となる、はずだった。

 だが、〈竜の箱庭〉に映されたゼフィルスの動きは、リーナの固まりつつあった固定観念をぶっ壊す驚愕の動きだった。


「〈北東巨城〉を狙いませんの!? 最初に落とすのが〈中央西巨城〉って、なんでそんな近くを!? それでは〈南西巨城〉までわたくしたちに手渡すことになりますわ。いえ、それが狙いですか? 南西に部隊を閉じ込めて撃破? いえ、こちらの方が足が速いのです。脱出は容易、では狙いはどこに?」


 ゼフィルスたちがまずしたのは――白本拠地から最も近い〈中央西巨城〉の陥落。それも南下した16人のメンバー全員参加だ。

 これにはリーナも頭を混乱させて驚いた。


 しかももう1つの部隊は〈北東巨城〉はスルーし、6人で〈北巨城〉の攻略に入らんとしている。

 これでは白チームは、リーナが最初に激突すると予想した〈南西巨城〉と〈北東巨城〉の両方をスルーしたということになる。マジどういうこと!? というのがリーナの混乱の理由だった。


 問題は16人も投入した〈中央西巨城〉攻略部隊だ。

 なぜ南下しないのか。一度落城に足を止めてしまえば大きく出遅れることになる。〈南西巨城〉を諦めるのか、ではその意図はどこにあるのか。

 赤チームが〈南西巨城〉攻略に送り出したのはカルアとパメラの超速コンビ、それに続くように高速で移動するエステル号。そこに8人のメンバーが乗っており、計10人の豪華メンバーとなっていた。


 このままいけば〈南西巨城〉は赤チームが手に入れるだろう。しかし、その隙に保護明けのマスから入り込んで〈南巨城〉の攻略を目論んでいるのかもしれない。部隊を2つに分けようか、そうリーナが『ギルドコネクト』を発動しようとするのと〈中央西巨城〉が陥落したのは同時だった。


「あ! もう陥落したんですの!? あ、それにいつの間にかメンバーが南へ寄っていますわ!? これは!」


 白チームは南下して〈中央西巨城〉に攻撃を仕掛けたのだから当然巨城の北側にいる。そう思い込んでいたリーナだったが、しかし、気が付けばみんな巨城南側に集結していた。

 攻撃しながら移動して位置をズラす。

 そうすることで次の動作がより速やかになる小技だ。


〈ジャストタイムアタック〉を愛用していると、足は止めるものという固定観念ができてしまう。移動しながら時間を合わせるのは、難しいを軽く超えて異次元の領域だからだ。そのため〈ジャストタイムアタック〉をするときは必ず足を止める。

 すると、いつの間にか巨城は足を止めて攻略するものと思い込んでしまうのだ。

 動きながら攻撃してもいい。――ゼフィルスはまたも固定観念をぶっ壊す。


 さらにリーナは驚愕する。

 馬に二人乗りしたレグラムとオリヒメのツーマンセルが、〈中央西巨城〉から南の観客席へ保護期間バリアの線を敷き、道を分断。これにより、赤チームの〈南西巨城〉攻略部隊が、なんと止められてしまったのである。


「な!? あそこから――〈中央西巨城〉陥落後からでも間に合いますの!?」


 リーナ、驚愕する3連続目の出来事だった。しかもまだまだ増える予感。

 これで〈南西巨城〉は白チームが悠々と手に入れることができるようになった。

 すぐに指示を出さなければマズいとリーナも『ギルドコネクト』でエステルへ繋ぐ。


「『ギルドコネクト』! エステルさんへ! すぐに〈南巨城〉の攻略に移ってくださいまし! レグラムさんやゼフィルスさんたちも〈南巨城〉へ向かって来ていますわ! 〈南巨城〉をすぐに取ってくださいませ!」


「『了解いたしました! ――『ドライブターン』!』」


 レグラムたちは悠々とカルアたちを牽制。

 そのまま〈南巨城〉に回り込み、保護期間バリアのマスで巨城を囲まれてはかなわないのですぐに〈南巨城〉の取得に動くリーナ。

 リーナの指示で即エステルが『ドライブターン』で〈イブキ〉を反転させて〈南巨城〉へと全速力で進んだ。これなら先に〈南巨城〉を先取するのは赤チームになる。

 しかし、白チームの攻勢はまだまだリーナの予想の上を行く。


〈南巨城〉へ向けて南下しかけていたゼフィルスとミジュのツーマンセルが、突如進路を変更し、北上する動きを見せたのである。

 その方向にあるのは、まさかの後回しを指示していた〈中央東巨城〉。


「あっ!」


 リーナはそこでさらに目を見開いて驚愕した。(4回目)

〈中央東巨城〉を今狙われたら、非常にマズいとここで気が付く。何しろ、〈北東巨城〉へ向かったメンバーは現在全員が〈北東巨城〉を攻略中だった。

 つまり〈中央東巨城〉は完全に無防備。

 先程からラナの遠距離攻撃によって4割ほど削れているが、まだ陥落には至っていなかった。


 リーナはすぐに『投影コネクト』と『ギルドチェーンブックマーク』で〈中央東巨城〉が狙われていることをみんなに指示。『ギルドコネクト』は現在〈南西巨城〉攻略部隊に繋いでいるのでクールタイムの関係で使えなかったのだ。


 その甲斐あり、すぐに〈北東巨城〉攻略部隊が動き出してくれる。


〈南巨城〉の攻略部隊には「半数を本拠地へ戻してくださいまし」という指示も忘れない。

 このままでは、ゼフィルスに〈中央東巨城〉を取られるか否かに関わらず、赤本拠地と〈南東巨城〉まで危険にさらされる。

 赤本拠地は急ピッチで建造を進めているが、まだまだ始めたばかり。最初に「本拠地は防壁が少ない初期が弱点」と自らが言ったことを思い出す。


 いきなり赤チームのピンチだった。

 白チームの方が足が遅いはずなのに、なぜか後手に回ってしまう。

 ゼフィルス班である9人の戦力が、とても良い位置に付いていた。

 しかし、そこはラナの攻撃圏内でもある。


「ラナ殿下!」


「分かってるわ! 『大聖光の十宝剣』!」


 ちょうどクールタイムが明けたラナが本気の十撃をぶっ放す。

 だが――。


「へ? ちょ、うそ!?」


「保護バリアで防がれました!?」


 ここで驚愕の戦法。

 なんとゼフィルスは小城を取った時に発生する保護期間バリアを使い、ラナの奥義とも呼べる超長距離攻撃砲、『大聖光の十宝剣』を防いでしまったのだ。

 これが、対マス越え攻撃防御戦法。

 マス越え攻撃にしか効果を発揮しない戦法なのでゼフィルスも今まで使うことは無かったのだが、今回ラナたちを相手に初披露していた。


 当然ラナたちも初めて見たので、まさかこんな攻略法があっただなんてととんでもなく驚いていた。(驚愕……不明回目)

 もう色々な概念が崩れそうな光景だった。


 しかもである。北東側でトラブルが発生。


「な、トラップ!? これは、ルキアさんですか!?」


 白チームのルキアが単身、〈北東巨城〉と〈中央東巨城〉の中間くらいの位置で待ち伏せしていたらしく、何かしたのである。

 その瞬間から明らかにメンバーの動きが遅くなった。

 そこで『ギルドコネクト』のクールタイムが明けたのですぐに発動する。


「『ギルドコネクト』! メルトさん、状況は!?」


「『すまん、まんまと引っかかった。ルキアがユニークスキル発動後、『時奪取』と『移動スケールダウン』で移動速度にデバフをかけて行った。今ミサトが回復中だ』!」


「まさか、ここを狙われてた……!?」


 移動速度に対するデバフというのは、意外に使い手が少なく貴重だ。

 そしてその力は――ギルドバトルで効果絶大。

 何しろ相手の移動速度が落ちれば相対的に有利になるからだ。

〈ダン活〉では【素早さ】は加速を司るのに対し、【移動速度】は最高速度を意味する。

 戦闘で必要なのはもちろん素早さだが、移動で重要となるのは移動速度なのだ。


 ルキアはその素早さと移動速度の両方を得意とする【先駆せんく時兎ときうさぎ】。

 妨害系スキルも充実しており、相手の索敵などを妨害して自分の動きを悟らせない『索敵フリーズ』を所持していたり、それやデバフを強化する『妨害タイムLV10』を持っていたりする。


 これを十全に使って自分の加速、最高速度上昇で気付かれる前に一気に接近。

 まずはここに来るまでに『時溜め』で溜めていた攻撃魔法を『そして時は動き出す』で全部ぶっ放し、続いて相手の素早さと移動速度を奪う『時奪取』や、移動速度デバフの『移動スケールダウン』を使い、そのままダッシュで姿を消したのだ。


 アイギス号に乗って南下していた〈北東巨城〉攻略部隊は、カタリナの防御魔法で守られていた。しかしそれを上回る瞬間火力のぶっ放しブッパを食らい、バリアが破壊されて被弾。移動速度まで奪われて足止めを成功されてしまったのだ。バリアに守られているから大丈夫という油断を突かれた形。

 すぐにミサトがデバフもダメージも全回復してすぐに再度南下したが、その時にはゼフィルスたちは〈中央東巨城〉を先取してしまっていたのだった。


 さらにそれだけでは終わらない。


「な、〈南巨城〉攻略部隊が、いつの間にか閉じ込められていますわ!」


 白チームは〈南巨城〉を諦めた。それは巨城は先取しないだけで、利用しないわけではない。

 レグラムとオリヒメがなぜ自由に動いていたのか。

 それは、赤チームが〈南巨城〉を取るために南側のエリアに入ったところを逆に閉じ込めるためだったのだ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る