第1315話 兵隊進め兵隊進め、侵入者なんか打っ飛ばせ!




〈激しい採集シリーズ〉、〈激しい草刈り鎌〉をゲット出来たのは僥倖だ。

 これさえあれば上級ダンジョンでも『大採取』が可能になる!

 さらに1日1回限定スキル、『一日一魂』スキルもちゃんと持っているので今後の採取に期待が高まるな!


 しかし、ここ〈守氷ダン〉では採取ポイントがほぼ無いのがネック。

 室内(?)だしな。室内に採取ポイントないかな? 無いな。残念。


 ということで試し切りはお預け、とりあえず仕舞っちゃってから探索を再開した。


「〈アイスクリスタルゴーレム〉は宝箱の番人の可能性が高い。ここは〈アイクリ〉狩りをしつつ宝箱を集めるのが良いと思う」


「賛成だわ!」


 探索は何をするべきか、せっかくのギルド単体初の上級中位ダンジョン探索である。じっくりしっかり、まずは宝箱集めをしようじゃないか!

 上級中位ダンジョンのお宝は世間リアルでは需要が高い。

 俺の案は一定の評価を集めた。ふふふ。これは決まりかな?


 しかし対抗馬現る。


「階層門の場所をまず調べましょ。本当に北北西の方角に階層門はあるのか、そしてどんな場所に鎮座しているのか、あのゴーレムの言葉は信じられるものなのか確かめるのが先よ」


「そうですわね。宝箱でしたら後で集めることも出来ますが、今わたくしたちも北北西に進んできたところ、階層門が近いのでしたら先に探しておくのが吉かと思われますわ」


 シエラとリーナの階層門発見を優先させる派だ。

 これは尤もな意見。俺は階層門の位置を知っているが故に信じたが、まだ〈アイクリ〉の信用度は低い。

 あかん、俺の意見に賛成していたメンバーたちまで流れていって形勢が逆転してしまった。


「ということで階層門を見つけるぞ!」


「「「「おおー!」」」」


 結果、そういうことになった。

 残念、宝箱はしばらくお預けのようだ。

 まあいい。それならばすぐに階層門を見つけ出してやればいいだけのことよ!


 ということで、パーティごとに手分けしながら徐々に北北西へと進んでいった。

 俺に掛かればどこに階層門があるかなんて余裕で分かるが、せっかく〈アイクリ〉が教えてくれたのである。みんなもやる気だし、ここで俺がいつも通り「こっちに階層門がある気がする!」と先導するとみんなのやる気を削いでしまう可能性すらある。

 そんなわけで今回は俺は見守った。


「また鍵付きの扉よ!」


「ここは、〈雷ダン〉とよく似ていますね。鍵付きの扉がそこら中にあります。ですがモンスターも出ますし、隠し部屋ではない。不思議な所ですね」


「〈万能鍵(金)〉は1個しかないから、あまり離れすぎると対応できないな。カイリ、鍵はカイリに預ける」


「え? 私?」


「カイリならモンスターに気付かれずに鍵を欲しがっているメンバーの下へ届けられるからな。適任だと思ったんだが、どうかな?」


「う、うん! 任せてよ! 呼ばれたらそこへ〈万能鍵(金)〉を持って行けばいいんだね!」


「おう頼むぜ」


「任されたよ!」


 ということで鍵番をカイリに任命したりした。

 鍵付きの部屋が見つかる度にカイリがすっ飛んでいき開錠、本人も『お宝探知』持ちなので「ここに宝箱の反応があるよ!」と言ってどんどん鍵を開けていく。

 鍵付きの扉の中にはお宝があったり、モンスターが居たり、道があったりと様々だ。全部にお宝を置いといてほしかった。


 そんなこんな探索していると、ついにそれは見つかる。


「あ、あったよー! みんな、階層門あったよー!」


「しゅ、集合ーです!」


 発見者はノエルやラクリッテがいるパーティだ。なお、そのパーティには俺も居たりするのだが、今回俺はほとんど手助けしていないので文字通り彼女たちが発見者だ。


 その部屋にあったのはまさに階層門。

 問題は、鍵付きの部屋にあったということだ。


「1層から鍵付きの部屋って、さすがは上級中位ダンジョンですわね」


「ここでは〈万能鍵(銀)〉は使えないわ。となると対応できるのは〈万能鍵(金)〉しかないわよ?」


「一応木箱からは5回使うと消滅する〈氷宮殿の鍵〉がドロップしていますから開錠は可能ですが……」


 うむ。シエラの言うとおり上級中位ダンジョンでは〈万能鍵〉が〈金〉しか使えない。エステルが持つ現地で調達出来る〈氷宮殿の鍵〉は消耗品だ。

 これがゲーム時代も非常に厄介だったんだ。〈万能鍵(金)〉を持っていないと、〈氷宮殿の鍵〉をまずゲットして、そしてどこにあるかも分からない階層門のある部屋を探し出さなくてはいけないのだから。しかもゲーム時代はノーヒントだった。


 もうとんでもないことが分かるだろう。

〈公式裏技戦術ボス周回〉が無かったらと思うと超ビビル。

 とはいえゲームでは〈万能鍵(金)〉ってオークションでも買えたし、無くても攻略サイトによって地図が丸裸にされてからは〈氷宮殿の鍵〉でも余裕で攻略できるようになっちまったけどな。


 階層門の周りの扉は全部開けて宝箱をゲットしてその後2層へ突入!


 2層に入ると、やはりそこは中庭だった。

 そして四方を氷の宮殿に囲まれている。1層と同じだな。


「あ、ここに採取ポイントあったよ!」


「ナイスカイリ! 早速〈激しい草刈り鎌〉を使うぞ!」


「私がやるわ! やらせて!」


 中庭には植物が結構生えている。そして採取ポイントまであるのだからちょっと不思議。

〈激しい草刈り鎌〉を当てたラナが1番に使う権利がある、として最初はラナが採取することになった。


 ―――〈激しい草刈り鎌〉。

〈ダン活〉民からはなぜか草刈り鎌だけ「ハゲしいな」「ああ、ハゲしい」と言われていた恐ろしい鎌だ。刈る草原を間違えてはならない。


 採取ポイントの前でにんまりと準備するラナ。右手には20センチほどの柄と10センチほどの刃がある鎌が握られていた。

 ちょっと心配そうな従者組、そしてスクショを構える俺。

 準備は万端だ。


「じゃあ行くわよ。『一日一魂』!」


 パシャパシャ!

 1日に1回しか使えないスキルが煌めく!


 ラナがそれを振るった瞬間「ズババザーン!」と一撃で全部刈られる採取ポイント!

 そしてその瞬間、ポポポポーンと大量の採取素材がその場に溢れ出すドロップ


「「「「おおー!」」」」


 この光景は〈激しい木槌〉の時ととてもよく似ていた。

 数十もの溢れる採取素材を前にメンバーが沸く。


上級中位ジョーチュー素材が大量だ!」


 ハンナたちに良いお土産が出来たな。

 全部回収する。

〈冷聖エリクシール〉の素材もばっちしだ!


 こうして2層の楽しい攻略は始まった。


 攻略の流れはさっきと同じ、まずは〈アイクリ〉に挨拶(物理)しに行く。

 この階層にも〈アイクリ〉がいるのだ。

 今回はどうしよっかなぁ。じゃあ南の方へ行ってみるか!


「ビビビ。階層門ハ、ココヨリ、南ノ方角」


「…………へぇ」


〈アイクリ〉に挨拶(物理)したらそんな言葉が返ってきた。

 ちゃんと答えてくれるだなんて、〈アイクリ〉はなんて律儀なんだ!

 シエラがそれを聞いて俺に絶好調のジト目を向けてくれたぞ!

 俺は大変気分が良くなった。


 その後は〈アイクリ〉が門番をする部屋の検証、という名の宝箱狩りに勤しんだ。

 やはり門番の居る部屋は宝箱が確定。しかも〈銀箱〉以上ばかりが発見されると分かり、みんな通りかかったら必ず挨拶するようになったよ! 物理的にだけど!


 しかし上級中位ダンジョンなのに門番が階層門の場所を教えてくれるし、宝箱もプレゼントしてくれるなんて。リアルは最高だな!


 そんな感じで5層まで進む。

 ついに初ボスだ。今までエリアボスには当たらなかったので、守護型ボスが上級中位ジョーチュー初のボス戦となる。

〈謎ダン〉に入ダンしなかったメンバーはちょっと緊張気味の様子だ。

 2パーティで挑むことにする。


〈守氷ダン〉5層守護型ボスは――〈アイスクリスタル兵隊長〉である。

 見た目はでっかい。5メートルを超えるゴーレムで、まさに〈アイスクリスタルゴーレム〉のボスといった大きさ。〈アイスクリスタルゴーレム〉の部下を何体も持っている群体系ボスである。


「進メ! 進メ! 兵隊進メ! 侵入者ナンカ打ッ飛バセ!」


「「「「侵入者ナンカ打ッ飛バセ!」」」」


「「息ぴったりだな(ね)!?」」


 近づいたら兵隊が揃って襲ってきた。

 いったいなぜ?

 僕悪いことなんかしてないのに!(←〈ダン活〉基準です)


 俺とラナが揃って目を丸くする中、実に15体もの〈アイクリ〉が列を構成して突っ込んで来た。

 あれが意外と強いんだよな。

 まずは隊列を崩すのが吉である。


「ラクリッテ、二塔盾だ!」


「ポン! 群がるは幻の甘い夢の蜜! ――『甘夢幻かんむげん二塔盾にとうたて』!」


 ラクリッテの二塔盾は2箇所に引き寄せてしまう挑発の塔。

 それが15体の〈アイクリ〉の左右に現れた。


「「「「!!」」」」


「オイ、ドウシタ兵隊! 進メ! 進メ! 兵隊進メ!」


「塔ガ甘スギテ進メマセン!」


「ドウイウコトダ!?」


 驚いてる驚いてる。

 兵隊の〈アイクリ〉たちは二塔盾に引き寄せられて分断されてしまった。

 よし、各個撃破のチャンス!


「みんな! それぞれ各個撃破だ!」


「「「おおー!!」」」


「へ、ヘイターイ!?」


 兵隊はやられてしまった。




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