第1168話 反撃〈集え・テイマーサモナー〉〈氷の城塞〉




「真・マッスルドッキング!?」


「ドッキングを外すわ!」


「防壁が、こんなことで攻略されてたまるか!?」


 至るところで混乱が起こっていた。

〈防壁〉とはつまり壁だ。

 相手を立ち止まらせ、侵攻をさせず、押しとどめ、味方に有利な状況で敵を討つための壁。

 拠点を攻められていた時はこれを造れなかったが、今はほぼ万全の状態。


 それを攻城塔(?)という手で壁を乗り越え攻略してきた筋肉たちに〈氷の城塞〉のメンバーは度肝を抜かれた。「まさか、こんな手で攻略されるなんて」と、まさに予想外過ぎた。


〈防壁〉を掴むマッスルガンゴレの巨腕は攻撃を受けてもびくともしない。

 それもそのはずで、この巨腕は〈ケンタロウ〉の力作。絶対に破壊してこようとするはずだからと上級ダンジョンのボス素材を贅沢に使い、普通はいらないはずの頑丈さに重きを置いて作られていた。

 さらに〈防壁〉をしっかり掴むための手の形も改造するなど、色々と筋肉的真改造まかいぞうが施されている。


 ちなみに普通の攻城塔は巨大なため、ドワーフなど建築系のスキル持ちが現場で組み立てる必要があったために断念したのは余談である。


「はははは! 【鋼鉄筋戦士】アラン一番乗り! この筋肉の餌食になりたい者は前へ出るがいい!」


 上陸させまいと必死の抵抗に次々筋肉が巨腕から落ちていく中、ついに上陸した筋肉が現れた。それはなんと、ギルドマスターのアラン! 筋肉を膨らませたキレッキレのポーズ威嚇を決めながら一番乗りを決めていた。


「アランに続けー! 我らの筋肉を魅せろーー!!」


「「「うおおおおおおお!!」」」


 一度上陸を許せば後は脆い。

 筋肉たちの勢いと士気は向上し、次々と〈ガンゴレ〉を登ってくる。


「レイテル、プランBよ!」


「了解! みんな撤退よ! ここの〈防壁〉は放棄します!」


 そしてカリンとレイテルの判断は早かった。

 2人とも、筋肉に野戦を挑んではいけないと知っているのだ。

 いくらモンスターが空を飛んで攻撃できるからといって、テイマーは空を飛ぶことは普通出来ない。今の所飛べるのはカリンと上級職の1人、あとエイリンの3人だけだ。後のテイマーサモナーはインビジブルなどで姿を隠すのだが、筋肉はこれをなぜか見つけてしまうため近づかれるのは超危険。


 故に、テイマーが狙われる場所での戦いを避けるのは当然。

 そして、〈防壁〉が破られた時のことはちゃんと考えてあった。

 相手はマッスラーズ。筋肉で不可能を可能にするとも言われているギルド。

 いくら自信のある〈防壁〉だって破られることもあるとは想定していた。それこそプランB。


「みんな離脱よ! 〈ピュイチ〉を出して!」


「「「「はい!」」」」


「ぬ?」


 防壁の上で占領していたアランはそれを見て唸る。

 防壁の下に降りたテイマーやサモナーたちがとあるモンスターを召喚したのだ。

 出てきたのはエミュー型をベースに少しヒヨコっぽい見た目のモンスター。

〈戦車鳥ピュイチ〉だったのだ。それが何体、何十体も出てきた。

 アランにとって初見のモンスターであり警戒したのだ。


「全員騎乗!」


「「「「おおー!!」」」」


 そして〈集え・テイマーサモナー〉のメンバーが素早く全員騎乗した。


〈ピュイチ〉は戦車鳥と名の付くとおり、まるで〈戦車〉のように人を乗せて走り、敵を攻撃することができる。要は騎兵だ。

 これぞ〈集え・テイマーサモナー〉の新しい戦法。


 しかし、現在の〈戦車鳥ピュイチ〉に乗っているのは〈集え・テイマーサモナー〉のみ、〈氷の城塞〉のメンバーは乗せていなかった。


 そして、そのまま撤退を開始する。お互い自分の拠点へと。


「私たちも撤退するわよ!」


「「「おおー!」」」


〈集え・テイマーサモナー〉と〈氷の城塞〉の撤退。

 つまりはこの戦いは〈筋肉は最強だ〉の勝利を示していた。


「ははははは! 我ら筋肉の勝利だ!」


「見事だったぞアラン! こんなに早く厄介な防壁を攻略するとは!」


「さすがは俺たちいちの筋肉だ!」


「おう。だが、少し引っかかることもある」


「あのすぐに撤退したギルドたちか?」


「ああ。まさかこんなに早く防壁から撤退するとは思わなかった。犠牲を出さずに撤退を選ぶ潔さはよし。だが、もう少し粘るものかと思っていてな」


「追撃するか?」


「どっちに行くアラン?」


 撤退していったのは二方向、〈集え・テイマーサモナー〉の拠点方面と、〈氷の城塞〉方面だった。

 しかし〈集え・テイマーサモナー〉の方は〈ピュイチ〉に乗って素早く撤退してしまったので筋肉では追いつけないだろう。

 逆に〈氷の城塞〉は少しもたついているのか、撤退が鈍い。追撃を加えることが出来そうだった。


 それにアランたちの筋肉は今熱くなっている。この躍動に任せ、追撃するのが吉と見た。


「〈氷の城塞〉へ行くぞ! 追撃戦だ! 〈筋肉ビルドローラー〉を組むぞ! 同時に挟撃を警戒し、一部はここで〈集え・テイマーサモナー〉が来た時の足止めに徹するのだ!」


「「「「応――!!」」」」


 こうして〈筋肉は最強だ〉は〈氷の城塞〉へと追撃を行なう決断を下す。

 しかし、それは2つのギルドの罠。

 なぜ〈氷の城塞〉はとろとろ撤退しているのか、まるで筋肉を誘うように。

 これは「ように」ではなくまさしく筋肉を誘っていたのだ。

〈氷の城塞〉は防御に重きを置いたギルド。多少ならば追撃だって耐えられる。

 つまりは時間稼ぎが出来るのだ。


 アランは初見の〈ピュイチ〉や〈ワイバーン〉の姿を見て〈集え・テイマーサモナー〉を警戒した。そして、先ほど〈集え・テイマーサモナー〉さえ来なければ陥落出来ていただろう〈氷の城塞〉へと舵を切ってしまったのだ。


 だが、それこそが2つのギルドの狙い。プランBだった。


「上手く誘えたようね。後は頼んだわよ、カリン」


 レイテルが撤退しながらカリンへとあとを託す。



 ◇



 二手に分かれ、〈集え・テイマーサモナー〉の拠点へと戻ってきたカリンたちは、そのまま拠点をスルーして東の通路から今度は攻めに出る。


「万が一〈集え・テイマーサモナー〉の拠点が狙われたら終わりよ。早めに決着を付けるわ!」


「それが良い。この速度で回り込めば〈筋肉は最強だ〉と言えど対応出来ないはず」


 カリンとエイリンには確信があった。

〈筋肉は最強だ〉は絶対に〈氷の城塞〉へ向かうと。そのために本当なら隠しておきたかった切り札の〈ワイバーン〉と〈ピュイチ〉軍団を見せたのだから。


〈ワイバーン〉は亜竜。その能力はかなりのものだ。本来なら上級中位ジョーチューのモンスターである。

 そして〈ピュイチ〉軍団を見せることで、〈ワイバーン〉は1体では無いのでは? と思わせる狙いだ。実際2体目の〈ワイバーン〉も先ほどの防衛戦で見せている。複数いるならまだ出てくる可能性はあると誤認させられたはず。


 カリンとエイリンはしっかり見ていたのだ。〈ピュイチ〉軍団を出したときのアランの警戒した表情を。〈ピュイチ〉は飛べないが立派な鳥だ。それを知らないアランは騎乗状態で空を飛ばれることを警戒したのだ。

 だからこそ、隠し球の多い〈集え・テイマーサモナー〉の拠点には絶対に来ないという確信があった。


 そして、それは正解。

 アランは〈氷の城塞〉へと侵攻してしまっていた。

 それも躍動する筋肉、勝利による高ぶりのままに突き進んでしまい、いつもなら守りにも10人近く人員を配置する〈筋肉は最強だ〉だったが、この時はたったの4人しか守りがいなかった。


 残りは〈氷の城塞〉が建てた〈防壁〉の向こう側だった。

 先ほどカリンがした挟撃で一度撤退しているために、引いたと見せかけて戻ってくる〈集え・テイマーサモナー〉を警戒したのだ。まさかグルッと回り込んで手薄の東側から攻め込んでくるとは、筋肉は警戒の裏を突かれた形だった。


「見えた! 守り、軽微!」


「周囲に筋肉集団は無し! 拠点へ真っ直ぐ攻撃するわよ!」


 エイリンが拠点を、カリンが空中から周囲を見渡してすぐに状況を把握する。

 そして今が絶好の機会であることが分かったのだ。


「行くわよみんな! 総攻撃よ!」


「「「「おおー!!」」」」


 そこでようやく守りの筋肉たちが襲撃に気付く。


「何!?」


「襲撃だと!? さっき撤退したはずなのに!?」


「筋肉!!」


 慌てて防衛モンスターを出す筋肉たち。

 防衛モンスターは、なぜかゴーレム系が大半だった。

 ゴーレムは魔法攻撃に弱い。

〈集え・テイマーサモナー〉は対〈筋肉は最強だ〉戦のために魔法系を使うモンスターを多くメンバーに加えていた。さらに飛行型も多かった。


 故にゴーレムたちは簡単に蹴散らされていく。


「『覚醒スキル開砲』!」


「ギャワアアア!」


「「――――!?」」


〈ワイバーン〉の強化されたスキル、火球ブレスが2体のゴーレムを光にする。


「行くわよベス――『スクリプトダンス』! 『ソウルアップ』! 『ドール・オン・スキル開砲』!」


「「「――――!?」」」


 ゴーレムに駆けるのは、一匹の猫。もとい〈ベヒモスぬいぐるみ〉。愛称ベス。

 エイリンの〈ベヒモスぬいぐるみ〉は大きさ3メートル、猫をベースに左右に角が生えており、白い体毛と背中の翼がチャーミングだ。なお、翼はあるが飛べはしない。


 エイリンのスキルによってベスが踊るように回避率を上昇させると、もうゴーレムでは捉えられなくなる。さらに『ソウルアップ』で攻撃力を上昇させて。スキルの威力を上げて放つ『ドール・オン・スキル開砲』を使うと、ベスがパンチでゴーレムたちを吹き飛ばした。


「「イケる!」」


「ぬ! くらえ! 筋肉ラリアット!」


「アニィちゃん! 『シャドウシャットアウト』!」


「ぬおおおお!?」


「サンクスですアイシャ! 連れて行っちゃえバルフちゃん!」


「ウォン!」


「おお? おおおおおぉぉぉぉぉぉ――――――」


 こっちでは筋肉によるテイマーアニィへの攻撃をアイシャが影の壁で防ぎ、ついでに影の檻で包み込むと、そのままバトルウルフに檻を運ばせてどこかへ筋肉を連れて行ってしまった。

 これは以前〈ギルバドヨッシャー〉戦で〈エデン〉が使っていた戦法である。


 別に筋肉は倒さなくても良い。連れ去ってしまえば良いのだ。

 こうしてさらに防衛戦力を削ぐと、どんどん筋肉の拠点へと攻撃を加えていく。


「行っけーーーー!!」


「落ちてーー!!」


 そして拠点のHPが残り2割を切ったとき、西に未だ残っている防壁の向こうがざわめいた。


「しまった! 留守を狙われたか!!」


 それは筋肉主力部隊。

 筋肉がざわめき戻ってきたアランたちだったが、時すでに遅し。

 防壁を破壊しなかったのが今回は仇になった。防壁が邪魔で超えるのに時間を掛けているうちに、とうとう拠点のHPがゼロになったのだ。

 足下に出た転移陣を見てアランが唸る。


「ぬう。まさか、〈エデン〉とのいくさの前に、無念なり―――」


 そう最後に呟いたアランと筋肉たちは転移して退場していった。


〈エデン:1185点〉1位

〈集え・テイマーサモナー:1058点〉2位

〈獣王ガルタイガ:0点〉

〈ミーティア:0点〉

〈カオスアビス:0点〉

〈サクセスブレーン:0点〉

〈氷の城塞:0点〉

 以下陥落

〈筋肉は最強だ:―点〉8位

〈ハンマーバトルロイヤル:―点〉最下位




 ―――――――――――――

 後書き失礼いたします!


 決着!

 近況ノートに添付で図を貼り付けました! こちらからどうぞ↓

 https://kakuyomu.jp/users/432301/news/16817330667787724638


 今回の点数。防衛モンスターのコストが300なので、拠点を落とした時の点数は900点に設定されています!


 明日からは〈エデン〉VS〈ミーティア〉戦始まります! お楽しみに!



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