第1100話 合同攻略の終了。〈白の玉座〉とタバサの笑顔
2つ目の〈白の玉座〉がドロップした。
〈エデン〉にとっては結構大事で、これは他のギルドにとっても大事だった。なんかビクビクしてたもん。
何しろ〈迷宮学園・本校〉では〈テンプルセイバー〉とタバサ先輩の活躍を始め、ラナの超長距離砲撃も〈白の玉座〉の能力だとほぼ割れているからな。
〈ギルバドヨッシャー〉のリアクションなんてすごかった。
「ゼフィルス氏ゼフィルス氏ゼフィルス氏――!!」とか凄い名前連呼してきた。
タバサ先輩が感動に浸っているため凄く小さな声で叫ぶという器用なことをして何かを訴えてきたよ。オスカー君もなぜか笑顔で口を両手で押さえていたな。
みんな〈白の玉座〉が如何にギルドバトルで猛威を振るうか知っているのだ。
それが2つ。
あかん、また〈エデン〉に挑んでくるギルドがいなくなってしまう!(手遅れ)
ふう。落ち着こう。みんなも落ち着こう。
「ふう。最後にとんでもない物がドロップしたが、合同攻略の終わりにこれほど素晴らしい物もそうそうないだろう」
表面上落ち着きを払いつつ、みんなが落ち着こうとしているうちにそろそろ帰ろうという雰囲気を出す。
いつまでもボス部屋にはいられないからな。帰ろう、俺たちのギルドへ。
もちろん転移陣で。周回は無し。
〈エデン〉はとても満足じゃ。〈幸猫様〉〈仔猫様〉もありがとうございます!
「……〈白の玉座〉のドロップでうやむやになりつつあるが、また〈エデン〉が上級ダンジョン攻略か。おめでとうゼフィルスさん」
「ありがとうカイエン先輩」
「そ、そうだった! ゼフィルス氏、ボス情報をくれ! あと攻略見事! おめでとう!」
「ありがとうインサー先輩」
カイエン先輩の言葉にハッと気がついた合同攻略メンバーが口々にお祝いの言葉をくれる。
うむ。さっきは〈金箱〉のおかげで思わず喝を入れてしまいボス攻略のことが吹っ飛んでいた様子だ。
俺もちょっと熱くなりすぎてしまった。
というわけで最奥ボスの情報は合同攻略に参加したギルド全員に教えておいた。
各ギルドが自力で挑むという流れになったので、攻略出来るように念入りに教えておく。
「第一形態は眷属召喚、第二形態が防御型、第三形態で自由行動、なお最後は自爆か。とんでもないボスだな」
「ああ、今まで経験したことの無いタイプだ」
「眷属召喚はまあいいだろう。守護型ボスの延長線という認識で行ける。問題は最後の自爆だ。余力が無ければ吹き飛ぶぞ。つまり上級最奥ボスを相手に余力を残して戦わなければならない」
「高い火力と高い防御力、その両方が求められるのか……。初めての上級最奥ボスに余力を残して勝つとか難易度が高いな」
早速〈ギルバドヨッシャー〉のインサー先輩とオサムス先輩が中心となって攻略法を考えていく。
俺もアドバイスを送っておこう。
「第二形態の時は飛ぶのはやめておいた方が良いぞ。うちのタンクでも厳しかったからな。絶対に地上に降りていた方が良い」
「なるほど……。アドバイスに感謝する。参考にさせてもらおう(普通人は空を飛べないんだよなぁ……)」
カイエン先輩も俺のアドバイスに神妙に頷いていた。何か突破口を思いついたのかもしれない。頼もしい表情だ。
これからは自力で最奥ボスに挑んでもらうため、各自攻略が終わり次第〈岩ダン〉へ挑戦することにしたようだ。
がんばってほしい。全ギルドが最奥ボスを突破するまでそれなりに掛かるだろう。
守護型を倒せば倒すほど最奥ボスが弱体化するということに気が付けば早いだろう。
〈フルート〉もあるからショートカット転移陣も使うだろうし、インサー先輩たちならその事実に早い段階で気が付くだろうな。俺が言うまでもないだろう。
さて〈エデン〉は一足先に合同攻略は終了だ。
俺は全員に向けて締めの言葉を贈る。
「みんな、今回この合同攻略に参加してもらってありがとう! 〈エデン〉は一足先に攻略が完了したためここで抜けてしまうが、みんなの上級ダンジョン攻略を心から応援している! 次会うときは全員が攻略し終わった時だ! その時は盛大に打ち上げしよう!」
「「「「「おおー!!」」」」」
片手を挙げて明言すると、同じように手を挙げて大きな声が返ってきた。
「ゼフィルス、すぐ攻略してやるからな!」とか、「2番目は私たち〈ミーティア〉が攻略します」とか、「イメージは出来た。次は我々〈ギルバドヨッシャー〉が挑むぞ!」「混沌!」とか、「カイエン先輩なら一発突破もいけますよ!」「ふっ」とか宣言しているところもいるな。
頼もしいぜ。
そんな6つのギルドにお別れを告げる。
「じゃあな!」
こうして俺たち〈エデン〉メンバーは一足先に転移陣で帰還した。
「え、〈エデン〉がまた見たことの無い攻略者の証を付けているのだが?」
「出てきたダンジョンは〈山ダン〉!? まさか」
「おいおいおいおい、勇者氏の胸に付いている証を見ろよ! 上級ダンジョンの証が4つあるぞ!」
「〈山ダン〉を攻略してしまったというの!」
「〈エデン〉が合同攻略でまたやりやがった!?!?」
「よ、4つ目の上級ダンジョン攻略!? え? ユーリ殿下を抜いてしまったのだがそれは?」
「き、〈キングアブソリュート〉は活動を停止しているし、直にこういうことが起こるだろうと言われていたからさ。大丈夫だ。傷は浅い」
「ふう。〈活動停止〉と言っていたのが幸いだったな。つまり活動中であれば〈キングアブソリュート〉も4つ目のダンジョンを攻略出来ていた、ということだ」
「な、なるほど。活動停止中なら仕方ないな!」
「ゼフィルスさんの活躍はどこまで行くんだ!? もうすぐ上級下位ダンジョンも半分が攻略されちまうぞ!?」
「それは誰にも分からない」
門を潜って〈上下ダン〉に帰ってくると、俺の胸に輝く4つ目の証を見て次々人がざわめいていく。
ふふふ、もっと見ると良い。ふはは!!
「ゼフィルスさん、色々聞かれる前に早く帰りましょう」
「ああ、そうだな」
アイギスに促され、タバサ先輩の前に立つ形で先導し、そのままギルドハウスに戻った。
そして仁王立ちのラナが出迎えた。またか!
「ゼフィルス、何か言いたいことがあれば聞いてあげるわ」
「何その弁明があるなら聞いてあげるわみたいなノリ!? 俺は何も悪いことはしてないぞ?」
「悪いことはしていない、ですって!? じゃあその胸に付いている攻略者の証はなんなのよ!」
「ふっ、これはな、〈山ダン〉の攻略者の証だ!」
「もー!!」
楽しいこと好きのラナがまた牛になってしまうという可愛らしい案件はあったものの、少し時間が出来たから次は一緒に〈山ダン〉に行くという約束を取り付けたらなんとかなった。
「目指せ、上級下位ダンジョンの全制覇よ!」
「おおー!」
ラナのノリに合わせていると、ギルドハウス内でざわめきが起こった。
いつの間にかタバサ先輩たちが俺たちを置いてギルドハウスの奥に行っていたのだ。
そして〈白の玉座〉を2つ取りだしていた。
そう、2つだ。
「〈白の玉座〉!」
「2つもあるのです!?」
「まさか、当てられたのですか!」
これにはギルド全体が驚いた。
それは最奥でドロップしたときの比ではない。
もし〈白の玉座〉が当たらなかったとき、誰が使うのか。
それは多くのメンバーが考えていたことだからだ。
「――ラナ殿下」
タバサ先輩の声が、ざわめいたギルド内でも透き通って聞こえた。
ざわめいていたギルドハウスの音も止んでいく。
それを為したタバサ先輩の視線の先は、俺の隣で驚いた表情をしているラナだった。
「〈白の玉座〉、当たったのねタバサ!」
「はい。とてもありがたいことに〈白の玉座〉をドロップすることが出来ました。これもラナ殿下が、毎朝私たちが出発するときに『プレイア・ゴッドブレス』を掛けてくれたからだと思っています」
ラナの魔法『プレイア・ゴッドブレス』は幸運系。
掛けた相手のレアドロップ率を激上昇させる。
実はこれ、ダンジョンに入る前でも使える。もっと言えば別のパーティに使うことも可能だったりする。
それでラナは俺たちが出発するときに『プレイア・ゴッドブレス』を掛けてくれていた。ありがたいことでこれも〈白の玉座〉のドロップに繋がった理由の一つだと思っている。
今日は最奥に挑戦するまでボス戦をしていなかったからな。『プレイア・ゴッドブレス』の効果はその日ボス戦が終わるまで継続するんだ。
ゲーム〈ダン活〉時代でも、下部
「ラナ殿下には感謝してもしきれません。本来ならラナ殿下が使ってこそ真価を発揮する〈白の玉座〉を長い間お貸しくださり、ありがとうございました」
「いいのよそんなの。タバサがその〈白の玉座〉を大切にしているのは知っているもの。ギルドバトルでは使わせてもらうけれど、それ以外はタバサが使えば良いのよ。でも、それも終わりね」
「はい。こうして新しい〈白の玉座〉が手に入りましたから。ラナ殿下。今日ドロップした〈白の玉座〉。こちらを使ってください」
「それは……いいの? 当てたのはタバサじゃない。新しい方をもらう権利はタバサにあるわ」
「いえ、私はこちらが良いのです。長く使ってきた相棒とも言える存在なのです。私はこちらを買い取りたい」
「……いいわ。でも私も長くお世話になったから〈白の玉座〉に挨拶だけさせてもらってもいいかしら?」
「もちろんです」
元々あった〈白の玉座〉はタバサ先輩にとって大切な相棒だった。
それこそ、一緒に居たいために〈エデン〉に加入するほどに。
ラナももちろん異存は無く、最初の〈白の玉座〉をタバサ先輩が使うことに
なんだか、ジーンと来る話だ。エステルとシズなんてハンカチで目元を拭いている。あ、アイギスも。
こうして、本日ドロップした〈白の玉座〉をラナが、元々あった〈白の玉座〉はタバサ先輩が引き取ることになった。
これは貸与ではない、購入という形になる。
かなりお高い〈白の玉座〉だが、
タバサ先輩も深々と頭を下げて「ありがとうございます。大切にいたします」と言って、最後は華やかな笑顔をしていた。
あの笑顔。俺は多分一生忘れないだろう。
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