第982話 笑って浮かれて次を見る。ピラミッド山中央。




「わははははは! 勝利だーー!! わはははは!」


〈エデン〉の勝利で防衛戦は幕を閉じた。

 笑いが止まらん! わはははは!

 勝利の味はどうしてこうたまらないのか!

 観客席からの声援もとんでもなく大きい。大歓声だ。

 俺は手を振って観客に応えた。

 心なしか歓声が増した気がするぜ。わはははは!


 マッスラーズは強かった。

 さすがはBランク非公式ランキング第二位。

 元々【筋肉戦士】は重戦士タイプなのでなかなかの強さで耐久値も高く、足を止めての殴り合いではかなり強い。ネタジョブランキングで最強の一位の座に居るのは伊達ではない。


 故に俺たちはマッスラーズの前には出ずに〈即死〉と防衛モンスターを軸にした遠距離攻撃で大部分の片を付けた。


 防衛モンスターは4種類、低コストで優秀の〈ウルフ〉。〈捕獲召喚盤〉で捕まえた〈チャームゴーレム〉。レグラムたちがゲットしちゃった超レア召喚盤、レアボスの〈妖精女王・シーズン〉。そして最後に上級最奥のボス、〈暴風爬怪獣・クジャ〉。


 本来ならこれを全部登場させる事は出来ないが、そこは【傲慢】の強いところ。

〈召喚盤〉のコスト軽減であれば他の【サモナー】や【テイマー】でも覚えるが、大罪である【傲慢】はさらに拠点のコストの上限を引き上げてしまう。これによって4種のモンスターを全て召喚し、使役することが出来た。まだSPはそこまで振ってはいないが、今後もっと振ってもらいたい所だ。


 そして、そのユニークスキル。『真の力を取り戻せ』と〈狩猟解放杖〉の能力『首領解放』。

 これによって一時的にボス級モンスターの能力を全解放した。

 あまりにも強いユニークスキルのため〈狩猟解放杖〉を装備し、『首領解放』というトリガーを発動しないと使えないという制限はあるものの、ボスの能力を一時的に引き出すのは強すぎた。


〈暴風爬怪獣・クジャ〉なんてHPバーが3本になっちゃったからな。

 観客席が一瞬シーンて静まったのは少し笑ってしまった。

 あのランドル先輩を一方的にボッコボコにした〈クジャ〉が強すぎる。

 その後、筋肉を4人倒したところでユニークの効果が切れるまで〈クジャ〉は大暴れしていた。


 フラーミナはさらに自分のモンスターも出して突撃させていた。

 クラス対抗戦の時は中位職の【群れの長】だったため防衛モンスターを操るならテイムモンスターは出せなかったが、今回は本当にフルスロットルだった。

 先日テイムし、進化させた〈ハイフェアリー〉を始め、上級モンスターを3体も連れてきていたからな。まあ、ちょっと筋肉と相性は悪かったみたいだが。


 そしてタバサ先輩の鬼。SPをふんだんにつぎ込んだ巨鬼はあの【筋肉戦士】にすら負けていない。止められるのは【鋼鉄筋戦士】だけということで、これはアランがサシで相手をしていた。筋肉同士のぶつかり合い、すごかったぜ。なんか知らないけど迫力だけはあった。


 そして最後にハンナ特製のゴーレム君まで登場。

 前回のBランク戦の時はただの試作で作った〈鋼鉄ゴーレム〉。ハンナ命名コテちゃんだったが、今回は〈岩ダン〉55層フィールドボスの〈最終防衛機械・ムテキン〉、通称〈筋肉機械〉の素材を全部つぎ込んでアップグレート。

 以前手に入れた〈魔錬筋肉加工台〉によって作製した〈人工筋肉〉を取り入れ、滑らかな動きを手に入れたコテちゃんは、なぜかランドル先輩と被る見た目になってしまった。


 つまりはマッチョ。

 どうしてこうなった?

 いや、ゴーレムは元々マッチョに見えなくも無いからいいのか?


 ということで、ハンナが自信を持って作り上げたこれをアランにぶつけてみた。

 すごかったぜ。筋肉VS人工筋肉の戦いは。

 心なしかアランも楽しそうにしていたんだ。

 しかしSTRが3000クラスのアランと力比べで勝てるはずも無く、残念ながらコテちゃんは負けてしまった。さらなる改良が必要だな。

 後でこれを譲ってくれとか言ってきそうで怖い。いや、別にハンナさえ許可すればいいけどな。


 ……ランドル先輩の卒業後、ランドル先輩の銅像みたいなポジションになるのだろうか? とちょっと思った。


 そして最後はアランが生き残り、俺と一騎打ち。

 拠点から大跳躍した俺の『勇者の剣ブレイブスラッシュ』と弾けるパワーのぶつかり合いから始まった勝負に俺が勝利し、これにて防衛戦の幕が閉じた。


 これでマッスラーズは残り拠点のみとなったな。

 拠点を落とせばマッスラーズは敗北し、決着が付く形だ。

 マッスラーズの点数は防衛戦で倒されたウルフの24Pも含め2313点で1位。

 これで点が低くて7位であれば逆転の可能性は皆無なのでその場で試合終了だったが、1位なので試合は続行だ。誰かが拠点を攻めて7位に追い落とす必要がある。


 さてどうするか? 選択肢が出来たな。

 そう考えながら拠点へ戻ると防衛戦のメンバーが労ってくれた。


「お疲れ様ゼフィルス」


「すごいわ! あのマッスラーズをこんな一方的に倒しちゃうなんて!」


「すごく上手くいきました! う、上手くいってよかったです!」


 シエラから労われ、テンションの高いエリサが目を輝かせ、ラクリッテが上手くいったことに珍しくはしゃいでいた。


「おう! これほど上手くいったのはみんなが頑張ったおかげだ! マッスラーズとの対戦は―――俺たちの勝利だ!」


「「おおー!!」」


 勝利宣言。

 いやぁ本当に面白いように上手くいった。これもみんなの能力があってこそだ。

 特に最初のスリップダウンからのエリサの〈睡眠〉〈即死〉コンボが大きかった。アレで半数以上が退場したからな。むっちゃ気持ちよく決まったぜ。

 それを手伝ってくれたラクリッテとシャロンも褒めておく。


「ラクリッテ、シャロン、完璧なタイミングだったぜ!」


「は、はい! 恐縮です!」


「まっかせてよ! 今の私は頼りになるシャロンちゃんだよ! むしろみんなから頼られるシャロンちゃんだよ!」


 褒め称えるとラクリッテが直立不動に、反対にシャロンはピースで笑顔だった。

 シャロンもテンション高いな!


「そしてエリサ! 素晴らしい活躍だった! あれで向こうが〈オール耐性ポーション〉を飲んでいなかったら全滅まであったぜ」


「そうでしょ~! これは何かご褒美をくれる流れじゃないかな? 私、ご主人様のハグが欲しいな~」


「あ、あ! エリサさんが調子に乗っています!」


「これはいけないね~。いやいっそ私たちも乗っちゃう? 私たちもハグして~って?」


「え、えええええ!?」


 おっと何やらエリサの悪乗りにシャロンが同乗を企み、ラクリッテが珍しく真っ赤になっていた。

 ごめんな、君たちの後ろにいるシエラの目が怖いからそれはできないんだ。


「ちょっと3人とも?」


「「「ひゃっ」」」


「まだギルドバトル中よ? 気を抜いているのかしら?」


「「「そんなことないよ(ありましぇん)!?」」」


 よし、3人のことはシエラに任せよう。

 アイギスたちに見張りを任せ、俺はタバサ先輩とリーナの元へ向かう。


「『聖水の儀式』!」


 タバサ先輩が片手を前に伸ばし、手のひらからしずくが落ちる。

 そのしずくはすぐに消え、〈白の玉座〉の効果でピラミッド山にいるリカを回復していた。援護の最中だったようだ。


「状況は?」


 俺はリーナに問いながら近づく。


「お疲れ様ですわゼフィルスさん。西が片付いたのでかなり楽になりましたわ。東のBチームとCチームは〈表と裏の戦乱〉の拠点に無事到着、〈表と裏の戦乱〉の拠点を占拠して〈氷の城塞〉と戦闘中ですわね。ちなみに〈表と裏の戦乱〉のメンバーも全員退場済みですわ」


 すでに掃討完了&乗っ取り済みらしい。

 さ、さすがはラナのチームなんだぜ。


「中央は苦戦とまではいきませんが、さすがに〈サクセスブレーン〉を相手にするとなると手強いですわ」


 2人がしているのは主にピラミッド中央にあるデカマス山に向かったDチームの援護だ。BチームとCチームは放っておいても勝てる模様。


 中央に向かったのはDチーム:サチ【神装剣士】、エミ【神装本士】、ユウカ【神装弓士】、カルア【スターエージェント】、リカ【先陣の姫武将】。

 つまりは遊撃隊だ。

〈竜の箱庭〉を覗いてというジェスチャーをするリーナに頷き、見せてもらう。


「サチさん、エミさん、ユウカさんはまだ上級職に就いて日が浅く、連携という難易度の高い戦いが出来るのか少し心配しておりましたが、無用でしたわ。見てください」


「やっぱ3人は素で連携取れるんだよな~。というかどうやって合図しあっているのか相変わらず分からん。そしてあの『神気開砲撃』も上手く混ぜてる」


「多少のダメージはエミさんが回復出来ますし、タンクは居ませんけれどバランスの良い連携で相手を翻弄、時には『神気開砲撃』を使ってパワーでねじ伏せることも出来るので、止まりませんわね」


 仲良し3人娘が持っている切り札『神気開砲撃』は、出場者たちが持つ四段階目ツリーの中でもトップクラスの威力だ。

 防ぐ手段は無いし、止める手段も無い。ラクリッテとシャロンのような連携で対応するしか無い。囲って抑えようにも使われたら被害が出て突破されるのだ。

 しかも連携でも非常に優秀と来ている。


 まあ止まらないだろう。

 サチが前に出るために狙われてしまうが、エミとユウカの援護がすごいので簡単に躱せてしまうし、回復も出来る。

 サチはさらに小盾による防御スキルも使えるので逆にエミやユウカを庇うことも出来る。

 たった3人に〈サクセスブレーン〉は7人を割き、でも止められずにいた。


「そしてカルアさんとリカさんですわね。こっちは個人なのにもっと止められませんわ」


 その言葉にニヤリとしながら頷く。

 カルアは単純に速い。誰も追いつけない。囲まれても『ナンバーワン・ソニックスター』があるので切り抜けてしまう。さらには五段階目ツリーがあるので火力もある。

 長く〈エデン〉の第1陣パーティを務めた実力は伊達ではない。

 一番心配が要らないのがカルアだ。


 リカは防御スキル『制空権・刀滅』が鬼強い。

 範囲攻撃も出来る。攻撃は撃ち落とされる。押さえ込もうとタンクを放っても打ち倒されてしまう。しかも硬く、多少の攻撃では直撃してもびくともしない。

 さらにタバサ先輩の回復の援護もあり、先ほどの巨鬼も『転送陣』で送られたようで、〈サクセスブレーン〉はなんとか対抗しているといった状態になっていた。


 しかし〈サクセスブレーン〉の連携もすごい。

 これは長期戦になるな。



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