第963話 知ってるか? 筋肉にMP攻撃は効かないんだ。
「眠ったが最後ね! MP全損よ! 『吸魔召喚』!」
「「「ププー!」」」
「あ」
思わず俺から声が出た。
エリサが続いて使ったのは『MP大睡吸』の上位ツリー、『吸魔召喚』だ。
登場した吸魔という名の下級睡魔たちが眠っている筋肉からMPを吸収するのだ。
ちなみに吸魔は指人形くらいのちっちゃい幼女なのでむっちゃ可愛いくて、ゲームでは「毎夜夢に来てほしい」などと言われて地味に人気があった。
おお! これは見れたのは嬉しい!
そしてこれは単体ではなく複数から同時にMPを吸収出来るのだ。むっちゃ強い。
だがエリサよ。それは悪手だ。悪魔の手だけに?
「ぬ!? 筋肉たちからMPを吸い上げているのか!」
「ってMP低いわねあなたたち!? え? もう吸い終わっちゃったの!?」
「僅か3秒の早業」
「早っ! 吸魔たち優秀ね!? ふ、ふふん。でもこれであなたたちのMPはゼロよ。起きたって何も出来ないわね!」
あまりの吸魔たちの早業に目を丸くするエリサだが、すぐに不敵な笑いで取り繕って勝利宣言する。
だが、そんなことないぞエリサ。
恐怖のMP略奪はほぼ全ての相手に効果的で、非常に強力な魔法で間違いは無い。
しかし、どんなことにも例外は存在するのだ。
「起きろ筋肉たちよ! その筋肉はなんのために育てたのだ!」
「これで起きろ、我がマッスルな仲間たちよ!」
「「「「うおおおおおお!! 筋肉~~~復活!!」」」」
「復活した!?」
「いや、あれは単純に〈眠消しの風〉という〈睡眠〉解除のアイテムを使っているな。〈エデン〉対策もバッチリか」
〈眠消しの風〉はパーティ全体の〈睡眠〉回復アイテムだ。
良いもん持ってるじゃないかアラン。
おかげで筋肉が復活してしまったぞ。
「ふ、ふふん! でも問題無いわ、MPが無ければ所詮は筋肉だけだもの」
「いやエリサ。あいつらは最初から筋肉だけだ。MPは初めから使ってないぞ」
「え?」
エリサが不思議そうな顔をして首を傾げた。
その瞬間。
「筋肉にMP攻撃なんて効かーーん!」
「「「「マッスルーー!!」」」」
「ってひゃああああ!? 全然効いてない!?」
知らなかったのかエリサ。筋肉にMP攻撃は効かないんだ。
そう、エリサのMP吸魔は確かに強力。しかし、そんな超強い攻撃の効果が無いのが――【筋肉戦士】なのだ。だってあいつら、アクティブスキル持ってないもん。あいつらのユニークはパッシブスキルなのだ。
しまったな。完全に常識だと思って伝え忘れてた。
そういえばゲームでも【筋肉戦士】の条件である〈マッチョで有れ〉は「男」カテゴリーしか満たせない条件だったっけ。女子は【筋肉戦士】の内包するスキルにはそりゃ興味が湧かないだろうさ。不幸な事故だ。
「ど、どどどどうしようご主人様!?」
「よし。フラーミナ、パニックの時間だ」
「そ、そうだよ! 私には頼もしい子たちがいるんだからね。ここは任せてよエリサ――『ワンダフルパニック』!」
フォローするようにフラーミナが使ったのは『ワンダフルパニック』。
疑似召喚みたいな魔法で大量の動物がわちゃわちゃ突撃するというだけのものだが、これが【犬力者】のコンボの第一段階みたいなものだ。
「今度は動物の群か!?」
「しゃらくさい、物量なら筋肉だって負けはしないぞ!」
「フンヌ!」
なぜか突撃してくる動物たちに筋肉たちがスクラムを組んで対抗する。
動物とスクラムしたのはきっと彼らが初めてに違いない。
「と、止められた!?」
「まだまだ。フラーミナ、ユニーク発動」
「う、うん! みんな行っくよー『犬力の犬』!」
「「「ウォーン!!」」」
「プルプル!」
「ニャフ」
「―――」
ついに来ましたフラーミナのユニークスキル、『犬力の犬』。
それは自分の配下のモンスター&動物たちを一時的に全召喚し、さらに強制パワーアップさせるという破格のスキルだ。
しかも配下なので、自分が収納しているモンスターだけではなく、今みたいに『ワンダフルパニック』で一時的に登場している動物たちや、〈拠点落とし〉なら防衛モンスターまで強化出来てしまうというのが強い。
これをされると、統率された強力な動物とモンスターたちが一斉に襲ってくるという物量攻撃となるのだ。
「ふん! 筋肉はこんなものに、負けん! 負けんぞー!」
「ウォンウォン!」
「!」
絶賛スクラム中の筋肉へ飛び掛かるルーちゃんたち。
パワーアップした動物たちも筋肉へと躍りかかる。
多数の動物とモンスターが筋肉を囲ってボコボコにし始めた。しかし、
「筋肉にそんな柔な攻撃は効かん!」
「まあそうだろうな!」
筋肉対動物なら筋肉が勝つ。これは常識だ。
動物の攻撃は全て物理。
VITが2000を超えている【筋肉戦士】に対してあまり大きなダメージは与えられない。
しかし、スクラムが解除され、さらに筋肉たちの動きを止めることに成功した。
「後は魔法班の仕事だ。やるぞ!」
「『元気いっぱい』だよ~♪ 『マジカルエール』! 『ハイテンションエール』!」
「『サンダーボルト』!」
「『暴風雪』!」
「『マジックバースト』!」
「『ドラゴンブレス』!」
「クワー!」
ノエルがバフで援護し、俺がサンボルを放ち、エリサが範囲氷属性魔法を放ち、フラーミナも無属性魔法をぶっ放す。
このパーティ、実は魔法使い系が多いんだよ。
アイギスは物理だが、『ドラゴンブレス』はついでだ。ゼニスも筋肉に怯えずに攻撃出来るなんてかっこいいぞ!
「ぬおおおおおお!」
「やったか!」
「! ご主人様それフラグ!?」
チュドーンした筋肉たちは、しかし耐えていた。
うん知ってた。だからネタに走ったわけだしな。
「1人が犠牲になって他を庇ったんだよなぁ」
俺は見た。俺たちの攻撃が刺さる瞬間。1人の筋肉が他の筋肉を庇って両手を広げ、大胸筋を膨らませて攻撃を浴びて退場する様子を。なんだか退場する直前、筋肉たちに振り向いて男臭い笑みで歯を輝かせてから消えていったんだ。
まあ、1人でも戦闘不能に出来ていれば儲けものって感じだったのでこれで良い。
「うおおおお! お前の筋肉は忘れんぞ! グビグビ―――筋肉~~~復活! ゼフィルス、今度はこちらの番だ。覚悟してもらおう!」
「悪いがそれはできない。全員―――撤収!」
「「「「ええええええ!?」」」」
1人倒し、残り7人の筋肉たち。
しかもポーション持ち歩き中。
さすがに5人では分が悪い。エリサのちょっとした認識の齟齬もあったしな。近づかれて囲まれたら大変危険だ。主に女子が。負けることはないだろうが、まともにやり合えばこちらも退場者が出る可能性がある。一度引き上げて体勢を立て直そう。
そしてエリサには筋肉の攻略法を伝授し直さないと。
「フラーミナ!」
「う、うん! ウーちゃん、ルーちゃん、フーちゃん! 『仲間騎乗』! ノエル、エリサ、乗って」
「はいはーい!」
「もう、MP吸い取られてピンピンしている筋肉なんて嫌いよ~」
『犬力の犬』の効果が解けてウールーフー以外を『収納』し、〈ウルフ〉系3体に足の遅いメンバーが騎乗する。
ノエルは切り替え早く飛び乗り、エリサは少し屈んでくれたウーチャンによじ登った。
「ま、待てゼフィルス! 俺の筋肉とそろそろ語り合っても良いはずだ!」
「悪いなアラン。それはまた別の機会に取っておいてくれ」
本音、遠慮します。
大急ぎで駆け寄ってくる7人の筋肉に「じゃあまたな」と言って俺たちはすたこらさっさと移動した。
相手のAGIは270、最高で300ちょいくらいだろう。『移動速度上昇』の付いた足装備を着けている俺たちには追いつけない。
こうして俺たちは筋肉に一当てしてから撤退したのだった。
うむ、ちょっと楽しい~!
◇
一方、東へと向かったラナたちBチームだが、これまた東のデッカマスへと進入していた。
そこで見た光景にラナが叫ぶ。
「もー! なんで誰もいないのよー!」
そう、そこには誰も居なかった。それもそのはずだ。
デッカマスに一番近かったギルド〈弓聖手〉は、ラナたちが試合開始早々に落としてしまったからである。
ついでに言えばデッカマスからさらに東にあるギルド〈世界の熊〉も陥落しており、それを落とした〈表と裏の戦乱〉はすでに自分の拠点へと戻っている。
残りは北側。
現在ギルド〈サンダーボルケーション〉と睨み合っている、とある「男爵」がギルドマスターを務めているギルド――〈ミスター僕〉が生き残っている中では一番近い。
故にこういう結論になった。
「仕方ないわね。ちょっと拠点に手を出しに行きましょう! そう、これは仕方ないことなのよ!」
誰に対する言い訳なのか。ラナはとても良い笑顔で拠点攻めを提案した。
もちろんそれは受理されることになる。
こうしてBチームは〈ミスター僕〉の拠点を攻めることに決まったのだった。
Bチーム:ラナ【大聖女】、シズ【戦場冥王】、パメラ【ナンバーワン・くノ一】、レグラム【ウラヌス】、オリヒメ【ネプチューン】。
―――――――――――
後書き失礼いたします!
本日はここまで!
昨日はたくさんのお
おかげさまで日間総合ランキングでなんと2位となりました!
すっごいですよ!
ゴールデンウィークキャンペーンはまだまだ続きます! 残り3日!
そして明日はいよいよ小説第5巻の先行配信がブックウォーカーなどで始まります!
よろしければそちらも購入していただけると嬉しいです!!
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