第955話 実況席。南で大きく動きあり。




 実況席ではキャスとスティーブンが熱く実況を叫んでいた。


「あああっと!? 今度は新参のギルド〈クラスメートで出発〉が〈サクセスブレーン〉の餌食になっている!? あの位置からの大遠征だーー!?」


「むう。〈クラスメートで出発〉は欲を出してしまいましたね。格上ギルドが激しくぶつかり合うこの〈拠点落とし〉であまりにも警戒心の無い行動を取ってしまいました」


「そこら辺はまだBランクになり立てね。対して熟練者の方は、遭遇は偶発的なものだったはずなのにそこから一気に崩したわね。さすがはBランクギルドの上位勢だわ」


「しかも相手が〈サクセスブレーン〉というのがもう運の尽き! これが第一位と第十七位の差なのか! かのギルドを止められるギルドがどれだけいるかーー!」


「〈クラスメートで出発〉は完全に無抵抗を決めたようですね。主力が討たれた今、防衛モンスターを差し出しても戦力を維持したいというところでしょう」


「〈サクセスブレーン〉としても長くポイント稼ぎの場としたい考えのようね、防衛モンスターを狩ったら一度引くみたいだわ」


「ここでボロボロになった〈クラスメートで出発〉を横取り、もしくは〈サクセスブレーン〉にこれ以上ポイントを渡さない目的で〈クラスメートで出発〉を落とせば〈サクセスブレーン〉に目を付けられてしまいますからね。触らぬ神に祟りなしでスルーするほうが賢い選択でしょう」


「Aランクの席が6席もあるっていうのがね! 生き残れば勝利なのだ的な部分はあるよね!」


「防衛モンスターを差し出して生き残る選択をするのは悪い選択では無いわ。特に今回のように複数の勝利枠があるときは棚ぼた的に手に入る可能性すらある。運が強いと言われている〈クラスメートで出発〉は、もしかしたら神頼み作戦なのかもしれないわ」


「か、神頼み作戦!?」


「なるほど。逆に考えれば〈クラスメートで出発〉は〈サクセスブレーン〉の庇護を受けていると考えることも出来ますね。まさか最後まで残ることもあり得る?」


「となると〈クラスメートで出発〉の主力が呆気なくやられたのもワザとという感じがしてくるから不思議ね。ほとんど無抵抗だったし、ちょっとBランクギルドにしては弱すぎたもの。むしろやられ方が堂に入りすぎていた気がするのよね」


「ユミキさん言っちゃった!? 実際の所はどうだったのかー!?」


「後で取材、してみようかしら」


「傷に塩を……ご、ゴホン。では、改めてフィールド全体を見てみましょう」


「そうだね。北の方はなんかすっごく激しく争っちゃっていますが南側はあまりそうでもない! みんな漁夫の利狙いで自分から動かないぞー」


「まだまだこれからというのもあります。開始から20分くらいは偵察がセオリーでほとんど拠点攻めはしませんからね。〈エデン〉〈筋肉は最強だ〉〈サクセスブレーン〉などの偵察を必要としない、むしろ無視できるギルドしか動けないでしょう」


「なるほどなるほど! さすがは3強ギルド! 偵察なんてするまでもないなんて勇ましすぎる!? このギルドたちを止められるところは果たして現れるのかー!?」


 キャスとスティーブンの実況通り、動き出しているギルドは3強ギルドと呼ばれている〈エデン〉〈筋肉は最強だ〉〈サクセスブレーン〉の三つほどで、ほとんどのギルドは未だ偵察を放ち、小規模なぶつかり合いくらいで0Pの横並び状態が続いていた。


 いや、〈エデン〉が開始早々で一つのギルドを落としてしまったのがそれに拍車を掛けていた。

 防衛をしっかり整えなければやられる、という危機感が選手たちの動きを鈍くしていたのだ。特にピラミッド山の周りに拠点を持つギルドはそれが顕著だった。


 しかし、いつまでも亀のように縮こまってはいられない。

 スティーブンたちがもうしばらく動かないだろうと考えていたときだった。

 動き出す二つのギルドが現れたのだ。


「〈新緑の里〉と〈氷の城塞〉が動き出したわ」


「あ、本当! 〈新緑の里〉が東へ本格的に進んだかと思ったら〈氷の要塞〉まで動き出したー!」」


「これは〈氷の城塞〉はタイミングを計っていたわね。〈サクセスブレーン〉が引き上げたタイミングでもあるわ」


「! こちらでも確認しました。南側で動きがあった模様です。〈クラスメートで出発〉の東側に位置するお隣の拠点〈新緑の里〉から攻勢部隊が放たれた模様です。狙いは東の〈零の支配〉でしょうか。同時に南東にある〈氷の城塞〉ギルドまで動きだし、これは……ギルド〈クラスメートで出発〉を目指している!?」


「ここで上位5指に入るギルド、Bランク非公式ランキング三位〈新緑の里〉と四位の〈氷の城塞〉が動いたーー! 特に〈氷の城塞〉は〈サクセスブレーン〉を敵に回すつもりなのか!? 〈クラスメートで出発〉へ進路を向けているぞー!?」


「〈サクセスブレーン〉が防衛モンスターを倒し終わり、一度引いたタイミングを狙ったのね。それに〈サクセスブレーン〉とて〈氷の城塞〉の防御力を突破するのは難しいわ。〈サクセスブレーン〉にポイントを渡さないよう〈クラスメートで出発〉を潰せるのは〈氷の城塞〉だけね」


「〈サクセスブレーン〉の本隊が撤収していて野戦の心配が無いのなら怖い物は無い、ということでしょうか。思い切った作戦です」


 会場がざわめく。まさかランキング第一位の〈サクセスブレーン〉が搾取の対象に選んだ〈クラスメートで出発〉を攻めるギルドが現れるとは思わなかったからだ。

 これは面白くなりそうだと誰もが新参のギルド〈氷の城塞〉に注目する。


「でも〈氷の城塞〉はボロボロの〈クラスメートで出発〉を狙うということは、やっぱり火力に難がある感じなのか!?」


「確かに、ここで〈クラスメートで出発〉を落としたとすれば〈サクセスブレーン〉と敵対することになります。ですが、戦力の消耗を嫌って〈サクセスブレーン〉が諦める可能性も十分あります」


「逆に攻め立てる可能性もあるけどね! おっと、話しているうちに〈新緑の里〉さん、野戦で交戦に入ったよ」


「相手はBランク非公式ランキング第十三位、〈零の支配〉。思春期特有の難病を抱えた者が多く在籍するギルドとして有名だけど」


「遠距離攻撃や精霊召喚を得意とするエルフを拠点の射程内に入れるわけには行きませんからね。野戦で接近戦を挑むのは悪い手ではありません」


「おっと、南西では〈氷の城塞〉のメンバーたちが〈クラスメートで出発〉をたたき始めるー! 防衛モンスターも倒された後だから防衛力はお察し! どんどん拠点のHPが減っていくー! そしてここで元〈カッターオブパイレーツ〉のメンバー、現在〈サクセスブレーン〉に所属する2人がこれに挑んだー!」


「本隊とは別に見張りで残っていた2人ね、〈クラスメートで出発〉の主力を全滅させた手腕は見事だったけれど。完全に臨戦態勢を取った〈氷の城塞〉を倒すのは難しいと思われるわ。そこに挑むなんて」


「〈氷の城塞〉は10人以上います、あの2人には敬意を表したいですね」


「ああっと多勢に無勢だー! やっぱり無理が。ってうおおおお!? 今すんごいの飛び出た!? 見たスティーブン君!?」


「はい。あれは【アベンジャー】のユニークスキルに間違いありません。1人退場にもっていきましたね。さらに、おそらくですが〈クラスメートで出発〉の拠点を先に落とす狙いを含んだ一撃だったのでしょう」


「なるほど! 落とされるくらいなら先に落としてやるってやつね! でも失敗?」


「失敗ですね。〈氷の城塞〉は防御型のメンバーが多いギルド。【アベンジャー】ケシリスの攻撃を完璧にブロックしてしまったようです。ああ、2人は撤退するようですね」


「撤退の判断も早いー! ダメだったらすぐ引くところ、さすがはBランクギルド!」


「これで〈クラスメートで出発〉は〈氷の城塞〉が落とすでしょう。そうなると次は〈サクセスブレーン〉VS〈氷の城塞〉戦が始まるか否かですね」


「その前にスティーブン君! 〈新緑の里〉の方も注目してあげて!」


「む、〈エデン〉に動きがあったわ!」


「え、本当に!? わーーーー!」


〈エデン〉が再び攻勢に出た。

 それだけで実況、観客双方が〈エデン〉に注目し、〈新緑の里〉の活躍はほとんど見た人がいなかったという。

 結果は〈新緑の里〉が勝ち、798Pをゲットしたらしい。

〈零の支配〉は静かに退場。


 ――――〈クラスメートで出発〉、〈零の支配〉、陥落。




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