第953話 〈筋肉は最強だ〉VS〈炎主張主義〉戦。




「熱い! 熱いぜ!」


「俺たちの筋肉が燃え上がっている!」


「たとえどんな熱さで焼こうとも」


「俺たちの筋肉は不滅だ!」


「我ら、不死鳥の筋肉団!」


 ズウン! ズウン! ズウン! ズウン!

 焼かれた道の上で元気良く叫びながら先頭を走るのは、元〈マッチョーズ〉のメンバーたち。


 彼らは〈筋肉は最強だ〉の声に惹かれ、統合された新進気鋭の1年生たちだ。

 その後上級生たちのほとんどが〈転職〉したため1年生のアランたちがこのAランク戦に参加することになっていた。


 たとえ視覚的に炎に焼かれようが、飛んで火に入る筋肉になろうが関係無い。

 筋肉は最強だからだ。

 とはいえ筋肉はデリケートな存在。ケアを欠かしてしまえば衰えてしまう。そのため彼らはちゃんと対策を持って来ていた。


「全員、不死鳥ポーションを飲め!」


「「「「おう!」」」」


 アランの指示に12人の筋肉たちが一斉にポーションをあおる。

 なお、不死鳥ポーションなんてアイテムは無い。正式名称は〈上級耐火ポーション〉だ。

 とある上級薬を売っているお店でゲットした高い〈火属性耐性〉を得るポーションである。さらに〈火傷〉にも掛かりにくくなる付属効果まである。

 これにより、〈炎主張主義〉の得意技〈火傷〉状態によるスリップダメージ攻撃がほぼ無力化された。


 後はただの火力によるダメージを負うのみだが、【筋肉戦士】たちのHPは異様に高い。

 スキルこそ無いが、そのHPの高さはタンクとしてどんな攻撃をもカバーしてしまえる。

 そして一点特化の〈火属性耐性〉だ。


 つまり、あまり効いていない。

 筋肉たちのダッシュは止まらないのだ。

 これこそ筋肉たちの秘策の一つ。

 今日の筋肉には〈空間収納鞄アイテムバッグ〉がついていた。


「と、止まりません!?」


「くっ! 耐火ポーションだと!? 奴ら、いつの間にそんな知恵を――撤退だ! 拠点まで全力で戻るぞ! 急げ!」


 ヒガルグギルドマスターの言葉にすぐに撤退に移るメンバーたち。

 元々はこのマスから拠点までのマスを全域炎のマスへと変貌させ、筋肉を足止めしつつスリップダメージを与える作戦だったのだが、筋肉たちがポーションを使って対策してくるとなると手が付けられない。筋肉は火が怖くは無いのだろうか? 無いっぽい。

 野戦最強のマッスラーズに勝ち目無しと踏んでヒガルグは即撤退を選択した。


 ちなみにユニークスキル『筋肉こそ最強。他は要らねぇ』を本気にして、ポーションすら飲まずに全ては筋肉で解決できると信じていたマッスラーズを変えたのはアランだ。

 デリケートな筋肉は力を最大限発揮させるためのケア・・が不可欠だ、と言ってメンバーを説得していた。


 アランはこれでも〈戦闘課〉の1組に在籍するエリート。頭はそんなに悪くない。むしろ使い慣れないはずの〈学生手帳スマホ〉を器用に使いこなし、時には掲示板で情報収集するほど頭が良かったりする。

 ちなみにポーションは〈エデン店〉で買った。


 閑話休題。


「!? おいアケミ!」


「アケミ逃げろ! 轢かれるぞ!?」


 撤退する〈炎主張主義〉のメンバーたちが騒がしくなる。アケミが1人、マッスラーズの方へ向きなおったからだ。


「ここは私に任せて行ってちょうだい」


 アケミがかっこいいセリフを言った。

 このままでは撤退が間に合わず、筋肉に追いつかれると踏んだアケミが1人残ったのだ。


 説得している暇すら無い。

 ヒガルグは決断した。


「生きて戻れよ。アケミ」


「任せてよ。これでも〈生還せいかんのアケミ〉と呼ばれているのよ」


 6人の〈炎主張主義〉メンバーを逃がし、アケミは杖をマッスラーズへ向ける。


「筋肉は魔法に弱いの、知ってるんだからね! 『マジックブースト』! 『ボンバーフレア』! 『アクティビティフレア』!」


 自己バフからの炎爆弾と強烈なユニークスキル『アクティビティフレア』が筋肉へと飛ぶ。

 INT特化のアケミの最大攻撃たち。ノックバックによる足止め狙いだ。


 いくら【筋肉戦士】と言えどこれには足を止めせざるを得ないだろうと、アケミは思っていた。

 しかし、アケミはまだ1年生。【筋肉戦士】の怖さを知らない。


「俺の筋肉に続けーー!」


「「「「うおおおおおお!」」」」


 先頭を走るアランが腕を交差させる防御のポーズでアケミの攻撃の直撃を受けたのだ。

 そして、


「筋肉にこんなもの効かーん!」


 普通に耐えきった。


「……え? ええ!?」


「ポーション補給!」


「グビグビ――筋肉~~~復活!!」


「ええええええ!!」


 さらには〈ハイポーション〉を飲んでHPの回復までしてしまった。

 復活する筋肉。炎の道を駆けてくる様子はまさに不死鳥だ。


 アケミ、衝撃に叫ぶ。

 装備の無い【筋肉戦士】はステータスしか身を守るものが無い。しかし、そのステータスが異様に高いのだ。RESだって毎回SUPを1ずつ振ってLV75まで育てれば85くらいまで数値が伸び、そこからユニークスキルの効果で3.6倍になると306に到達する。これは【賢王】となった今のメルトより上の数字である。もちろん装備は無いのでこれ以上は上がらないが、それなりに高い。加えて〈上級耐火ポーション〉で火属性耐性を得ている今のマッスラーズは、装備を着ているアケミよりよっぽど硬いのだ。


 アケミは間違った。【筋肉戦士】は魔法に弱いのではない。「比較的・・・魔法に弱い」なのだ。そう簡単に魔法で退場していたらここまで恐れられてはいない。

 そのくせアランのHPは1458もある。今のアケミの攻撃で受けたダメージは600程度。

 普通の下級職であれば退場している数値ではあるが、アランにとってはまだまだ余裕だった。

 さらに、筋肉は1人では無い。無傷な筋肉が後11人も居る。


「筋肉こそ最強!」


「「「マッスラーズ! マッスラーズ!」」」


「「「俺たちの筋肉を見よ!!」」」


「こ、今度は範囲攻撃で! 『フレアストーム』!」


 強烈な威嚇と筋肉のプレッシャーの中、アケミはどんどん攻撃を放つが、こんなことで止められていれば筋肉は最凶と呼ばれていない。

 突破する筋肉たちがアケミを追い詰める。

 もう筋肉と距離が近い。使える魔法は後一つか二つが限度だろう。

 筋肉と接触してしまえばいくら〈生還のアケミ〉だろうが一瞬だ。


「こうなれば最後の手段!」


 アケミは最後に大量の〈爆弾〉アイテムを取り出す。そして筋肉に向かって投げた。

 一部大胸筋に弾かれてアケミに跳ね返ってきたが、大量の〈爆弾〉が爆発。

 筋肉たちを巻き込んで大炎上した。

 アケミ最後の切り札。自分も巻き込んでの大量爆弾大爆発だった。


 しかし、そんな攻撃では筋肉は倒されない。


「「「グビグビ――筋肉~~~復活!!」」」


 ポーションをグビッと飲んだ筋肉たちが不死鳥のごとく復活する。出来たのは多少の足止めぐらいだった。


 多少の足止めに成功したところはアケミの執念だっただろう。

 おかげで〈炎主張主義〉のヒガルグメンバーたちは拠点へ戻ることが出来たのだから。

 しかしそこへ筋肉が強襲する。


「はっはっは! 俺たちの筋肉を見よ! 受けよ! これが筋肉だ!」


「アケミ、お前の退場は無駄にはしないぞ! 撃てー! 燃やせー! 筋肉――マッスラーズを倒すのだー!」


 ヒガルグ決意に燃える。

 なお、〈生還のアケミ〉を舐めてはいけない。

 アケミはこっそり『陽炎』と『炎上回避』で炎を焚いて自分の身を躱し、轢かれるのは回避して生き残っていたりする。


 筋肉が張り付いているおかげで拠点へ戻る方法を失ったアケミは、なんとか筋肉の隙を突こうと、ユニークスキルのクールタイムが明けるまで様子を窺っていた。


 しかしその前に〈炎主張主義〉の拠点が大ピンチに陥ってしまう。

 筋肉の拳はLV75でSTR2700を越える。LV60強の筋肉が多いとはいえ、そんなのが12人で殴れば拠点のHPなんて簡単に溶けてしまうのだ。

 召喚盤で召喚した防衛モンスター、Aランク戦で使役出来る最大の20体を総動員し、24人の〈炎主張主義〉がメラメラ燃やしまくっているのにもかかわらず筋肉は元気だ。時々ポーションをグビっと飲んで不死鳥している。


「ふはははは! マッスルパーンチ!」


「ギャン!?」


「グビグビ――筋肉~~~復活!!」


 すぐに防衛モンスターは駆逐されていき、拠点のHPがヤバい勢いで減り始めた。


「ぎ、ギルマス! このままでは持ちません!」


「筋肉がポーション使うなんて反則でしょ!? というかそれ、ハンナ様特製ポーションじゃない! どこで手に入れてきたのよ!?」


 ※なお、筋肉がポーションを使うのは反則ではありません。


 これまでならここまで攻撃すれば数人の筋肉を倒すくらいは出来ただろう。

 しかし、アランが加わったマッスラーズは一味も二味も違った。

〈エデン店〉で購入していたハンナ特製上級ポーション、〈エリクシール〉をきゅっと一飲み。

 あれ、HPが2100回復してしまうポーションです。ちなみに一番お高いやつ。


 おかげで倒せそうだった筋肉も不死鳥のごとく復活する。

〈炎主張主義〉にとって悪夢の光景だった。


 それを偵察に来て遠目に見ていた男子はその後こう話したという。

「本当に不死鳥のようだった。炎から筋肉が出てきて……筋肉は不死鳥の仲間だったんだ!」と。

 その男子はトラウマを抱えてしまったようだ。


「仕方ない、最終手段だ!」


「! ヒガルグ、まさかアレを!?」


「ちょ、そんなことしたら詰む一歩手前になるじゃない!?」


「問答している時間は無い! このままでは拠点は落ちる! 異論は認めないぞ!」


「く、やるしかないか!」


「――いいか!」


 ここでヒガルグは最後の手段に出た。

 筋肉はすでに拠点に張り付いている。

 拠点が落ちるまで秒読み状態だ。

 どうせ拠点が落ちるなら、やってやると。

〈炎主張主義〉の上級職メンバーは覚悟を決めた。


 自分の本拠地、または拠点に対して使う最終の炎。


「いくぞ!」


「「「「『落炎上らくえんじょう』!」」」」


 それは自爆魔法。最大の炎の主張。

 自身の本拠地または、拠点のHPを1にするのと引き換えにして、周囲を炎に巻き込む大魔法攻撃を放つという、最終手段だ。

 拠点の瀕死と引き換えにして放つためにその火力は膨大。

 例えSランクギルドのメンバーだろうが屠ることも可能な超威力攻撃。


 筋肉は全て張り付いているのは確認済み。張り付いていた全員がやられ、〈炎主張主義〉は生き残ることができるだろう。その後HPが1になった拠点がどうなるかは分からないが、本当に生き残りを賭けた最後の手段だった。


 その結果を、アケミは目撃してしまう。


「あ、あわわわ!?」


 不死鳥のごとく火の中で立ち、燃える城に向かってぶん殴る、アランの姿を。

〈上級耐火ポーション〉は優秀だった。

 そして、HPが1になっていた拠点はそのまま陥落してしまい。

 アケミの足に転移陣が現れた。


「これが、筋肉!?」


 どうやらアケミの脳にも、筋肉の恐怖がすっかり刷り込まれたようだった。




 ―――――――――――

 後書き失礼いたします。


 ゴールデンウィークに突入しました!

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 作者はとてもフォローと★が欲しいです!


 5月は〈ダン活〉本とグッズの発売も目白押し!

 5月10日、〈ダン活〉小説5巻とタペストリーが発売!

 5月15日、〈ダン活〉コミックス2巻が発売します!

 先日書かせていただいたように5月5日には先行配信も始まります!

 盛り上がってきましたね!


 ということで、作者も頑張って盛り上げて、ゴールデンウィークの話数増量を行ないます(決定!!)


 期間:5月3日~5月7日。

 どのくらい増量するかは当日のお楽しみに!


 今後も〈ダン活〉をよろしくお願いいたします!



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