第927話 上級職ランクアップ! エリサ編!
「ついにこの時が来たわ! エリサちゃんのターンよ!」
「む、姉さまだけ1人では行かせられません。私も付いて行きます」
「フィナちゃん!? お姉ちゃんの晴れの舞台よ!? ここは快くお姉ちゃんを送り出してあげるシーンじゃない!?」
「却下です。姉さまと2人きりでは危険、もとい教官に迷惑を掛けること
「そんなのいらないよ!? フィナちゃんはもっとお姉ちゃんのこと信用すべきだと思うわ!」
エリサとフィナが揉めていた。
それもこれも〈上級転職チケット〉が1枚しか無いのが悪い。
ブリーフィングでエリサの〈
〈エデン〉ではいつの間にそうなったのか、いつも〈
今回はエリサ1名。つまり測定室にエリサと俺が2人で行く、そこに異議を申し立てたのがフィナだった。
その様子を同じパーティのトモヨ、ロゼッタ、カタリナが応援する。
「いいぞいいぞ~、エリサ先輩にだけ好い目を与えるな~」
「フィナリナさんが付いていく事が正しいと思います」
「むしろ私たちも付いて行くべきではないでしょうか? ほら、パーティメンバーとして」
「私の味方がどこにもいなーい! ここはそっとしておくのが仲間のためになるところでしょ!?」
「姉さま、往生際が悪いですよ。教官と2人きりになれるなんてそんなこと、ダメに決まっています」
「おのれフィナちゃんー!」
うむうむ。仲良き事は美しきかな。
美しいというよりも面白いやり取りに傍観していたが、時間は有限だ。
「まあ別に禁止しているわけではないし、付いてきたいというなら付いてきていいぞ?」
「そ、そんにゃ!?」
「ありがとうございます教官。では私も知見を広めるため、同行させていただきます」
「ガクンっ」
エリサが肩と首をガクッとさせていたが、このままではしばらく掛かりそうだったので諦めてほしい。
「トモヨとロゼッタ、カタリナはどうする?」
「う~ん、仲間の晴れの舞台だし、見たい気持ちはあるんだけど」
「邪魔する気持ちは無いのですが、私たちが居ては気が散ってしまうでしょうし」
「そうですわね。それに私たちも行きたいって言い出したらみんな行きたがると思いますし、ここは我慢しておきますわ。フィナリナさん、私たちの分までしっかり頼みますわよ」
「任せてください」
「私、仲間ってなんだか分かんなくなってきたかも」
エリサがパーティメンバーの言葉に疑心暗鬼になっていた。
少しフォローしておくとしよう。
「まあまあ、エリサ、これから〈
「おおー! エリサちゃんはこんな逆風に負けないわー!」
〈
そうそう、貴重な〈
「じゃあエリサ、フィナ、測定室に行こうか」
「私たちは〈中上ダン〉で待ってるからねー」
というわけで今回測定室に行くのは俺、エリサ、フィナの3人になった。
トモヨたちは先に〈中上ダン〉で待っているとのことなので、あまり待たせすぎないようにしないとな。
いつも通り職員室で測定室の鍵を借りて、〈竜の像〉のみが置かれている測定室へと入室する。
「〈竜の像〉……この前〈転職〉の時に来たはずなのに、なんだか久しぶりな気がするわね」
「まあ、エリサたちが〈転職〉したのは確か3ヶ月前だろ? 十分久しぶりなんじゃないか?」
「あ、言われてみればそうだったわね」
「それでも十分早いです。普通3ヶ月でLVカンストなんてしないのですから。クラスメイトもLVカンストに届いている学生なんてほとんど聞きませんし」
そうか、エリサたちが〈転職制度〉で〈転職〉してからまだ3ヶ月なんだなぁ。正確にはまだ3ヶ月経っていない。
フィナたちは勉強もかなり出来るので新学年でも3組という優秀なクラスに所属しているが、〈転職〉してから3ヶ月で〈
俺から言わせれば3ヶ月あったんだからレベルカンストくらいいるだろう、と思わなくもないが、ボス周回を知らなければ中々難しいか。
「さて、それでは早速ではあるが、エリサの〈
「待ってました。良いのお願いねご主人様!」
「姉さま、露骨にくっつきすぎです! それに「悪魔」カテゴリーの上級職ですよ? いくら教官とはいえ中々に難しいのではないでしょうか」
「そんなことないわ。私はご主人様を信じているもの」
「ふはは! 任せておけ!」
俺の宣言にスススっとすり寄ってくるエリサとそれを引き剥がそうとするフィナが可愛い。2人とも見た目が10歳前後なのでつい微笑ましくなってしまうのだ。
しかし、フィナよ。俺を見くびってもらっては困るぜ。
「こほんこほん。そんなことないぞフィナ。俺が勇者である事を見せてやる! エリサに就いてほしいのは【ナイトメア】の上級職、高の上、【睡魔女王】だ!」
「高の上!」
「【睡魔女王】ですか? 聞いたことがありません」
俺の言葉にエリサははしゃぎ、フィナは首を傾げた。
うむ、どうやらこの世界には【睡魔女王】の記録は無いっぽいんだよな。
だが強いぞ。何しろ魔王の一種だ。つまりはロリ魔王だな。ロリ魔王……とても良いと思うんだ。もちろん名前だけで選んだんじゃない。性能も魔王級だ。
一応
あれも、一度解読し終わると行く意味なくなっちゃうイベントなんだよなぁ。
「悪魔」系の上級職、高の上である【睡魔女王】は〈ダン活〉では〈睡眠〉〈魅了〉〈混乱〉などの状態異常をより強力に使え、【ナイトメア】のドレイン能力まで強化されて保持する完全上位互換。それに加え召喚術で配下を呼び出したり、〈氷属性〉系の能力まで使えるようになる。
主に対人戦で効力を発揮し、たとえ相手が『状態異常耐性LV10』『睡眠耐性LV10』を持っていたとしても耐性を封じる強力な妨害攻撃まで使えるようになるヤべえ
さらには【ナイトメア】の『MP大睡吸』などのドレインが単体攻撃だったのに対し、【睡魔女王】になるとこれが範囲攻撃になったりとヤバさが膨れ上がる。
一度〈睡眠〉になったが最後、次目覚めたときにはMPがすっからかんという悲劇が続出するのである。とんでもないぜ。恐ろしいぜ。
もちろんヒーラーとしての能力も持つためエリサにはこのままデバフヒーラーを是非続けてほしい所存だ。
まあこれはおいおい話していくとして、まずは条件を整えよう。
「【睡魔女王】は夜に行動する悪魔だからな。『夜』と名の付くアイテムか装備を所持する必要がある。これはなんでもいいから俺の〈煌めく夜空の腕輪〉を貸しておくな」
「ええ!? ご主人様が大切にされていた指輪を!? これってもうプロポーズと同じ――ごふぅ!?」
「姉さま、教官は貸すとおっしゃいました。暴走すると恥をかきますよ? あと指輪ではなく腕輪です」
「……もうすでにダメージを負っているのだけどそれは?」
エリサに貸したのは俺が学園祭の〈迷宮防衛大戦〉で貢献度1位になってゲットした腕輪装備だ。
ちゃんと〈
「ふう。フィナちゃんの拳がだんだん強くなっている気がする」
「鍛えていますから」
「こんなところで発揮しなくてもいいよ!?」
フィナが力こぶを盛り上げるポーズを取るが、残念。見た目10歳に加え冬で厚着をしているせいでまったく力こぶは分からなかったのだった。
たとえ肌が見えていたとしても分からなかったかもしれないけど。
ちなみにフィナのあのパンチはステータスの乗っていない素のパンチのようだ。ただのロリパンチなのでHP君はスルーした模様。
それは置いておき、俺は続いて〈宝玉〉を取りだしてエリサに渡す。
「さて、他には〈
「あ、ありがとうご主人様。ひえ~、〈宝玉〉って今すっごく高くなっちゃってるやつだよね? こんな高い物をくれるってことはやっぱり――」
「姉さま、これは必要
「――フィナちゃんが夢を見させてくれない」
「勘違いは恥ずかしいですからね。妹は姉を助けるものです」
「助けられている気がしないのは?」
「気のせいです」
なんだかんだ言いつつエリサが〈宝玉〉を使う。
エフェクトの粒子になって体に吸い込まれていく光景は何度見ても良いものだ。
他の条件はエリサのステータスに関するものと特殊条件が一つだが〈〈睡眠〉状態の人間からHPとMP両方をドレインしたことがある〉という条件はすでにクリアされているので問題無し。
これ、一度はギルドバトルして対人戦をし、尚且つ相手を〈睡眠〉状態にしてドレインを成功させなくちゃ満たせないのでわりと難易度が高い。
Dランク戦で前半真っ先に俺がエリサに指示し、初動で相手を眠らせて色々吸わせたのはこの条件を満たさせるのが狙いの一つだった。後半になると相手が生存しているかも分からなかったしな。
「これで準備は完了だ。エリサ、腕輪を装備したら〈上級転職チケット〉を持って〈竜の像〉へ触れてくれ」
「はーい! いよいよね!」
「…………」
準備完了と聞いてエリサが〈上級転職チケット〉を持って〈竜の像〉へ手を伸ばす。
この時ばかりはフィナも何も言わずに見守るようだ。
「出たわ! あるある! 【睡魔女王】の
「よし! エリサは落ち着いてそれをタップしろ」
「ドキドキ――タッチ!」
さすがのエリサでも緊張はするようで、自分で「ドキドキ」なんて口ずさみながらタップした。
他のジョブ一覧がフェードアウトし、【睡魔女王】の文字がエリサの真上に浮かぶ。
これでエリサも今日から上級職だ。
続いて起こるのは覚醒の光。エリサの足下から黄緑色のエフェクトがぶわっと溢れエリサを覆った。
「わわわ! 覚醒の光!? わ、これ、体が浮いて、思うように動かない!?」
「姉さま、下手に動こうとしないでください。それよりクールであったほうが受けが良いですよ」
「はっ!」
バタバタ両手を動かすエリサだったが、フィナの一言で片手を顎に当て足を組んでポーズを決めて知的アピールをしていたが、色々と遅くて微笑ましいだけになったのは秘密だ。
次第に光が収まり、エリサの足も地面に突く。
「あ、終わっちゃったわね。まさか覚醒の光を体験出来るなんて思わなかったから最初慌てちゃったじゃない。フィナちゃん、私クールだったかしら?」
言葉使いにまだ知的が乗っているなエリサ。
「ええ、まあ、はい」
「綺麗だったよエリサ」
「うふふ、やった!」
言葉を濁すフィナに被せるようにエリサを褒めた。
うん。覚醒の光に包まれたエリサは綺麗だったからな。嘘は言っていないぞ。
「これでエリサは上級職の仲間入りだ。〈
「おめでとうございます姉さま」
「2人ともありがとね!」
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