第916話 テスト期間突入、〈聖竜の卵〉が孵った!




 テスト期間に突入した。

 期末テストの1週間前からはテスト期間。

 12月は後半が期末テスト、その後冬休みに突入するとあって、立て続けにあったイベントとは別の意味で忙しい。


〈エデン〉はしっかり勉強しておこうと放課後は以前のテスト期間と同様、ギルドハウスに集まって勉強会をすることになった。

 勉強に弱いメンバーは強いメンバーから強制的に教えてもらういつものスタイル。

 自分で勉強出来るメンバーは自習可である。


 カルアやパメラなんかはうにゃうにゃしていたが、基本〈エデン〉のメンバーは勉強出来る勢が大半なので、今回も補習になる人はいなさそうだ。いや出さない。


「ラウとルキアも勉強はバッチリみたいだな」


「まあ1年の時の復習みたいなものだ。これくらいは軽い」


「〈新学年〉が補習とか体裁悪いからね、学園側も結構力を入れているみたいよ?」


「あ、なるほどな~」


 ラウとルキアは元2年生。

〈新学年〉は1年生からのやり直しのため、元上級生からすればテストはとてもぬるいらしい。

 それでいいのだろうか? と思わなくも無いがルキアいわく、今年から始まったばかりの〈転職制度〉にケチが付くことを回避したい学園側の意向もあるのだという。


 確かに、〈転職制度〉をしてみたら補習ばっかりなってしまいました、では〈転職制度〉をこれ以上進めてもいいのか? と思われてしまうかもしれない。

 そういうのを回避するためにも補習者を出さないよう、学園側はかなり意識高めに授業の質向上とテスト対策などに力を入れているらしい。


 元々1年生で〈新学年〉に入った学生には特別授業も組まれている。

 学園は〈転職制度〉に本気で取り組んでいるんだなと嬉しくなった。まあ、〈新学年〉の学生たちからは嘆きの声がよく聞こえてくるらしいが。


 ちなみに〈エデン〉に加入している〈新学年〉メンバーは全員勉強が出来るので悲鳴を上げているのは皆無、いや一部だけだ。上級生は復習なので下級生に圧倒的に負けるのはしんどいらしい。


 さて、もう一つニュースがある。

 例の孵卵器に入れていた〈聖竜の卵〉がついに孵ったのだ。


 それは金曜日の放課後のこと。

 俺が2学期最後の臨時講師をこなし、「最後だから放課後打ち上げしようよ」と生徒たちに囲まれているときのことだった。


 セレスタンから「ゼフィルス様。至急お耳に入れたいことが、卵の孵化が始まったようです」と聞かされた俺は即で生徒たちの申し出を断り、そのまま急いでギルドハウスへと向かった。


 すると、孵卵器の中でもうだいぶヒビだらけになった卵が出迎えてくれたのだ。

 ついでにメンバーも多くが見守っていた。

 どうやら誰かがグループチャットでメンバーに周知したみたいだ。おかげで間に合ったぜ。


「い、いよいよですね。ちょっとドキドキします」


「本物の竜ってどんな姿なのかしらね」


 アイギスとタバサ先輩が孵卵器の前、先頭で今か今かと待ち構えていた。

 セレスタンやシズがみんなに気分の落ち着くティーを出してくれ、長丁場でそれを見守る構えだったのだが、変化は一瞬で現れた。


「あ!」


 アイギスの声に全員が注目すると、孵卵器の卵が光輝きエフェクトを発生させた所だった。

 そして卵があった中心地には水色に近い白系の体色をした、大きさ40センチくらいの1匹の竜が体をギュッと抱いた姿でそこにいた。小さい体躯に四つの手足、顔は思いのほか小さく、背中に小さな翼が折りたたまれている。


 これが〈聖竜の卵〉から孵化したモンスター、

 ――〈聖竜の幼竜〉だ。


「か、孵りました!」


「モンスターが卵から孵る姿は初めて見たわ」


「可愛い~」


「これが竜なんですね」


 至る所でざわざわ。

 竜はゆっくり目を開けて体を伸ばし、そしてキョロキョロとクリッとした目で周りを見渡してから、アイギスに視線を止めた。ちゃんと親が誰か分かっている様子だ。


「クアッ!」


「あ、はいはい。今そこ孵卵器から出してあげますからね」


 アイギスが孵卵器のボタンを押すと、ゆっくりとガラスのケージが開かれ聖竜の子が顕わになった。


「クアッ!」


「やっと会えましたね。私はアイギスです。貴方の名前は今日からゼニスですよ。これからよろしくお願いしますね」


「クアッ!」


「「「「わ~」」」」


 聖竜の子はアイギスがゼニスと名付けた。

 由来は俺が〈聖竜〉系は進化させると最強種まで行けるんじゃないか的なことをポロッと喋ってしまったところ、アイギスが命名した。

 この先竜種が登場するか否かはまだ知らないはずだが、ゼニスを立派に育てるというアイギスの意思表示みたいなものだろう、多分。ちなみに性別はメスだ。


 実際、この〈聖竜〉はしっかりと〈聖属性〉方面で育てれば最強種の一角に進化させることが可能だ。

 見た目も聖竜と呼ばれるのにふさわしい神々しい姿なので、なんとかそっち方面に進化させようと画策していたりする。


 決して邪竜ルートや暴竜ルートには行ってはいけない。あっちは可愛くないのだ。

 邪竜なんて最後は〈ダークドラゴンゾンビ〉なのでアイギスが乗るにはふさわしくない。暴竜ルートなんて〈グランドボロスドラゴン〉で飛行能力が無いし。

 聖竜への進化ルートの条件が「テイマーアイギスと聖竜がなるべく戦闘不能にならない」なので、そこら辺気をつけさせたいところだ。ゾンビアタックでもすれば一気に聖竜が闇オチしたりひねくれたりするので要注意である。


 大きさ的にまだ聖竜には乗れないので、まず育成して進化させるところからだな。

 アイギスには、内緒でそれとなくこうして育てた方が良いと伝授しておいた。

 シエラには内緒だぞ?


 孵卵器から出てきたゼニスはしばらくみんなにキャーキャー言われているのに不思議そうな顔をしていたが、突如ぶるりと体を震わせ翼を伸ばして行き、そのままふんわりと飛んでみせた。


「わぁ、ゼニスはもう飛べるのですね」


「生まれて5分で飛ぶとか、ドラゴンすげぇな」


 ゲームでは最速スキップすれば生まれて5秒くらいで飛んでいる絵までいけるけどな。いや、リアルだと5分でもすごいと感じるぜ。


「でも……乗れませんよね?」


「乗るには何度か進化させる必要があるだろうな」


 まだ40センチくらいしかないゼニスだ。飛べるけどまだ人は乗せられない。

 せめて後1回は進化させないとな。それまでは相棒パートナーとして共に戦うことになるだろう。


 ゼニスは普段アイギスのほんの少し上や肩の近くを飛んでいるスタイルで落ち着くことになる。

 テスト期間中はダンジョンには連れて行けないが、火炎を吹いたり、回復の吐息でアイギスを回復したりと様々な事ができるぞ。

 ゼニスと一緒に戦うのが楽しみだ。


 土日になるとゼニスはテスト勉強のストレスで可愛いに飢えたメンバーから、それはそれは可愛がられることになった。

 ゼニス、竜のくせに顔小さくて可愛いからな。

 ゼニス自身も可愛がられるのは嫌じゃないらしく、むしろ自分から人に甘えに行くくらいの甘えん坊だ。


「クワァ!」


「「「「可愛い~!」」」」


 ゼニスがひと鳴きすればこの通りである。

 ゼニスブームが到来しているな。




 後、〈青空と女神〉ギルドでは〈心〉系アイテムの販売が始まった。

 テスト期間なのにいいのかとヒヤヒヤしたが、ソフィ先輩から「上級生産職に就いた自分にはテストの心配は欠片もいりません。ご心配なさらなくても大丈夫です」との言葉をいただいた。

 そういえばハンナも上級職になってテストの実技が満点から動かなくなったとかなんとか言っていた気がするので多分大丈夫なのだろう。


〈心〉系の売上げはとても順調なようで、上級の素材がダブつき気味になりつつある〈ハンター委員会〉と〈救護委員会〉からそれなりに素材の仕入れも出来ているらしい。

 順調に動き出している様子だ。


 後、とうとう〈拠点落とし〉の日程が発表された。

 年末年始は帰省する者も多いため、テスト期間が終わって4日後に行なうとの事だ。

 つまり12月24日からだな。ついでに学園中でパーティも開催するらしい。

〈ダン活〉にはクリスマスは無いが、擬似的なクリパだなこれ。


〈拠点落とし〉では予定通り、Sランクが二つ増えるためにまず昇格する2枠を決める。

 ここで学園から決定があったのだが、生産ギルドである〈青空と女神〉から上級職に就いた者が多数現れたためSランクギルドへの資格を得たとのことで、Sランクの1枠は生産ギルドに与えられることになった。Sランクになるには上級職が必須ということで今まで生産ギルドは見送られてきていたのだが、今後を見越して生産ギルドにも力を入れていこうという試みの一環だろう。


 というわけで枠は残り一つ。現Aランクの四つの戦闘ギルドが〈拠点落とし〉で争い、勝者がその席に付くことになる。


 続いて新たに四つの枠が増え、三つの空席が出来たAランクギルドの計7席は、これまた1席が生産ギルド、残り6席が戦闘ギルドが付くことに決まる。

 6席を勝ち取るため、Bランク18のギルド全てでAランク戦〈拠点落とし〉だ。


 ちなみにBランク戦とCランク戦は数が多いので予選をするとのこと。


 ふむ、あまり時間は無いな。

〈上級転職チケット〉の枚数は現在4枚。後一個足りない……。

 テストが終われば速攻で集めなければいけない。


 Aランク〈拠点落とし〉も、〈エデン〉のメンバーは全員上級職で行くぜ。




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