第879話 〈エデン〉ブリーフィング。メンバー説得中




 様々な意見が出る中、俺は現在生産職のギルドが立たされている状況と、生産職トップギルドを味方に付けた時の大きなメリットを説明していく。


「生産職は自力では〈上級転職チケット〉を入手出来ない。そして現在の情勢では〈上級転職チケット〉を他に回すとき、生産職より支援職が優先されている。支援職さえいればドロップで装備も整うし、すでにエリアボスの撃破実績がある。ここは質を上げるより〈上級転職チケット〉入手の確率を増やす、つまり質より量を優先している段階だな。ただ、これはエリアボスは倒せるが攻略は進まない。生産職を早い段階で増やすにはやはり戦闘職からの援助、深い繋がりが重要だと考えている」


 支援職を増やせば安全にダンジョンへ潜れる可能性が高まる。

〈救護委員会〉ではカイリという圧倒的な実績が存在するので、学園は現在は支援職への投資、育成などを進めているところだ。

 そもそも上級生産職がいなくても現状困っていないのだ。ということで生産職に〈上級転職チケット〉が届くのは最後になる。


 十分戦闘職と支援職を育ててから生産職に〈上級転職チケット〉を回すという方法も悪くはない。ただ時間が掛かる。


 そんな背景があり、このままだと生産職の育成がさらに遅れ、学生の質が上がらず、上級ダンジョン攻略が中々進まないだろう。

 ここは誰かがテコ入れをしなければならない部分だ。早い段階で生産職を増やすには、誰かが生産職へ援助する必要がある。


 それが〈エデン〉、そして協力を申し出てきた〈キングアブソリュート〉だ。

〈キングアブソリュート〉まで生産職に援助を協力する。これはとても素晴らしいことで、今、とても良い流れが来ていると言っていいだろう。


 だからこそ俺はギルドメンバーを説得し、生産職を援助し、学園全体の質の向上を図りたいのだ。それが俺たち自身のステップアップにも繋がっていく。リアルブーストだ。


「生産職の質が上がればそれだけ様々な武器、防具、アイテムが生産できるようになる。みんなも知っているとおり、上級生産職が作ってくれる装備は今後の上級ダンジョン攻略の要になる。上を目指すのであれば絶対確保すべきだ」


 俺の言葉にハンナ、アルル、マリー先輩から恩恵を受けているメンバーたちが揃って頷く。


「これから〈エデン〉も大所帯になっていくに当たって、どうしても生産の手が足りなくなるだろう。そういうとき〈エデン〉を最優先にして動いてくれる腕の良い生産ギルドが味方にいれば、俺たちは立ち止まること無く躍進できる。さらに学園に上級生産職が作った装備が広まれば、巡り巡って俺たちに益が回ってくることもあるだろう。今は1枚でいい。〈青空と女神〉へ〈上級転職チケット〉を援助しないか?」


 サポートを増やす。

 ダンジョン攻略においてサポート職人がどれほど重要かを知っている〈エデン〉のメンバーたちは揃ってこれに同意してくれた。

 上級生産職を増やせば他のギルドも恩恵を得られ、ダンジョン攻略ができるようになる。攻略すればボスドロップが落ちる。レアドロップがもし落ちれば、それが巡り巡って〈エデン〉がゲット出来る機会があるかもしれない。

 これはリアルブーストへの投資だ。


 さらに、今は多くの企業を相手にしている〈青空と女神〉だが、今後は学生向けにした商品開発や販売をメインにしてもらう方針だ。これにより学生全体の質が向上し、上級ダンジョンの攻略がさらに進む。


〈青空と女神〉にはしっかり学生の質を向上させるために働いてもらわなければならない。そうじゃないと援助した意味がないしな。これは絶対条件だ。

 企業からすればたまったものではないだろうが、こればっかりは譲れない。

 もし、コネを使って〈青空と女神〉に断れない状況を作ろうとしても無駄だ。その辺はユーリ先輩が許さないだろう。後ろ盾がいるって素晴らしい!


 ユーリ先輩も今は企業より学園全体の質の向上が自分の功績、成果に繋がるのだからこれは当然手を抜かないだろう。


「生産職が全面的に味方になるんだね~」


「今まで作製時間がネックでマリー先輩に言えなかったやつとかも注文出来るんだね」


「小物類の作製もしてもらえるのもありがたいよ。アクセサリーとか」


「忙しそうにしているハンナさんたちに頼むのは気が引けていた物も、気にせず注文を出せるようになるのは嬉しいですね」


「上級料理なんかも食べてみたいよね」


 サチ、エミ、ユウカ、ロゼッタ、トモヨが利点を挙げて頷く。好意的なコメントだ。

 そう、今までは生産職が3人しかおらず、しかも常に忙しそうにしているため気軽に注文が出来ず困っていた案件がいくつかあったのだ。

 新しく手に入れた上級レシピだって積んであるものが増えてきていた。


 ハンナやアルルになど、身内だからこそ気を遣って注文出来なかったのだが、しかし外注ならその辺気にしなくてもいい。

 気軽に注文できるというのはリアルでは予想以上に大きいメリットを持っていたようだ。相手は生産職のトップギルドだけど。


 そんな話を通じ、やっぱり〈エデン〉からの供与も必要だという話に進んでいった。そして話し合いが終わったところで決を取る。


「じゃあ、〈青空と女神〉に〈上級転職チケット〉を供与することに賛成の人、挙手してくれ」


 俺の言葉に全員が手を挙げた。

 そのことに俺は安堵の息を吐く。


 少し脱線はしたものの、〈青空と女神〉の〈エデン〉からの供与はこれで決定した。


「ありがとう。みんなの理解に感謝だ。だが安心してくれ、俺は近いうちちゃんとここにいるメンバー全員を上級職にするからな!」


 これだけは約束しておく。絶対だ。

 俺の宣言にまだ下級職の幾人かが安堵の表情を浮かべた。約束は大事だ。


「渡す数だけど、最初は1枚でいいのよね?」


 そこでシエラがみんなに分かりやすいよう最後の質問をしてきた。

 俺もそれに便乗して答える。


「ああ。もちろん〈エデン〉〈アークアルカディア〉のメンバーの方を優先したいからな。それが終わりチケットが余ったら、〈青空と女神〉を援助していく予定だ」


「チケットが余ったらとか、すごい言葉ですわね。そしてそれが出来てしまう〈エデン〉もとんでもないですわ」


「ということで。ニーコ、協力を頼む」


「え? 周回回数が上がるのだがそれは……?」


 ニーコはそろそろ上級ダンジョンに連れて行こうかな。その方が集まる速度は大幅に上がるし。全集装備欲しいし。ああ、でも〈イブキ〉が完成してからになるか。その時が楽しみだな!


 話はある程度纏まったので次の議題へと進む。


「じゃあ次の議題へ進むぞ。――みんなが頑張ってくれたおかげで、〈エデン〉は無事上級ダンジョンを攻略した。有言実行、俺たちはやり遂げた。次は君たちの番だ。中級上位チュウジョウの攻略者の証が五つ揃ったというメンバーが増えてきた。よって、そろそろ上級職になったみんなにも上級ダンジョンに随時進出して行ってほしいと考えている」


 ざわざわ。

 またざわめきがギルドハウスを包む。

 要は2陣以降の上級ダンジョンへの進出だ。

 すでに中級上位チュウジョウの攻略者の証を五つ以上獲得したメンバーは結構いる。これもアイギスがキャリーを頑張ってくれたおかげだ。もちろんロゼッタもだ。

 そして中級のレベル上限である上級職LV15になった人も増えてきた。


 そろそろ1陣メンバーを解体し、ギルドメンバーたちを上級ダンジョンに進出させ、さらなる育成と攻略の手伝いを進めていこうと考えている。

 あ、でも放課後は1陣メンバーで上級〈クジャ〉狩りは続ける予定だ。チケット欲しいからな。


「それを機にどんどん〈エデン〉から上級ダンジョンに進出するメンバーを増やしたい所存だ。もちろん〈上級転職ランクアップ〉も続けるぞ。先ほど言ったBランク戦に伴い、〈エデン〉メンバーであるシェリア、レグラム、アイギス、シャロンにはこれから〈上級転職ランクアップ〉してもらう」


「これから? もう、すぐに始めるのですか!?」


 俺の急な〈上級転職ランクアップ〉する宣言にシェリアがビックリという声を上げた。


「おう。そしてある程度慣れてレベルが上がったところでBランクギルドへランダムマッチング申請で挑みたいと考えている」


「ランダムマッチング申請ですか。強いギルドと当たるために勝つのが目的であれば本来避けるべきなのですが、〈エデン〉ならどこと当たっても勝ててしまいますわね」


 リーナの言うとおり、どこと当たろうが〈エデン〉が負ける気はしない。いや負けない。だって全員上級職の予定だし。


 こうしてギルド〈エデン〉は本格的に上級ダンジョンへと進出する準備をすることに決め。同時にBランク戦の準備のために〈上級転職ランクアップ〉をすることになった。

 シェリアとレグラム、そして先日カンストに届いたシャロンには早速上級職へとなってもらおうか。


 それと、〈嵐ダン〉でゲットした救済アイテム、〈鎮火の秘薬〉も数が揃った。これでようやくアイギスが【竜騎姫】になるための条件を取りに行くことが出来る。忙しくなるぜ。



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