第852話 〈上下ダン〉でばったり。情報交換でわっくわく
初の防衛戦、そして祝勝会が終わって翌日土曜日。
「今日は〈嵐ダン〉の55層を目指すぞー!」
「「「「おおー」」」」
〈上下ダン〉で俺が右手を挙げるポーズでメンバーに宣言すると良い返事が返ってきた。
俺たちは本格的に上級ダンジョンの攻略を目指し、今日は一気に10層進んで55層まで行ってしまおうという心算だった。
そして明日、ダンジョン週間最終日に60層の最奥のボスを倒して帰還する。
素晴らしい計画だ。
「10層進むということは、採集はそこそこに抑えて階層を進むのを優先するということよね?」
「おう、採集は残り時間によって優先度を決めていきたい。とにかく採取と発掘だけはしっかりやろう。伐採は時間があるときだけで良い」
「エリアボスはどうするの?」
「エリアボスはこれまで通り出会ったら撃破だ。だが41層からは徘徊型が出る可能性があるからボスとのエンカウントには十分注意していこう。頼むぞカルア」
「ん! 任せて」
「了解よ」
シエラの質問に答えつつ、今日の活動内容を伝えていく。
そのやり取りを少し離れた所でケルばあさんがお茶を飲みながら、まるで孫を見守る縁側のお祖母ちゃんの雰囲気で見ているのが少し気になるところ。
「他に質問はあるか? よし、無いようだな」
打ち合わせは終了だ。
準備も出来たのでさあ出発、というところで団体さんがやってきた。
あれは、〈サンハンター〉と〈救護委員会〉だな。
「お、ゼフィルスじゃないか」
「ゼフィルス君!」
「アーロン先輩、カイリ、おはよう~」
俺に気が付いてやってきたのは〈サンハンター〉を率いるギルドマスターアーロン先輩と、〈アークアルカディア〉所属で現在〈救護委員会〉にも〈助っ人〉で所属し、多くの人を導いているカイリ。そして〈救護委員会〉の第一上級救護部隊のメンバーたちだった。
彼ら彼女らは学園から依頼を受け、毎日エリアボスの撃破を行なっている。
このダンジョン週間でなんと〈上級転職チケット〉が2枚も落ちたと昨日カイリが自慢していたんだ。
その〈上級転職チケット〉は今の所二つのギルドの戦力を上げるために使われているらしい。上級職が増えればそれだけエリアボスを楽に狩れるようになるし、数を狩れるようにもなる。狩れる数が増えれば〈上級転職チケット〉のドロップ数が増える。まさに好循環だな。どんどん狩って欲しい。
また、〈救護委員会〉の役目はそれだけではなく、今後上級ダンジョンで何かトラブルがあった際の救助も仕事に入っているため、強くなることが必須だ。
最近は【ダンジョンインストラクター】のカイリが加わって安全性が格段に上昇し、カイリも攻略者の証が揃ってついに上級ダンジョンに進出。探知とインビジブルを併用してエリアボスのみを狩れる理想的な部隊になりつつあるらしいと聞いた。
カイリも最初の頃はあわあわしていたが、最近はスポーツ少女らしい自信に加え堂々とした貫禄のようなものが出始めている。
カイリも順調に成長しているようだ。
もう少ししたら〈エデン〉の他のメンバーも上級ダンジョンに進出させようと考えているので、カイリには〈エデン〉でも頑張ってもらいたいと考えている。
カルアやラナと楽しそうに談笑するカイリを尻目に、俺はアーロン先輩と情報交換を行なう。
「やっぱり10層を越えるとボスがやたら強くなるな。後ランク4以上のダンジョンが相手だとダンジョンギミックのせいで本気で戦えもしない。どうにか宝箱から対抗できる物が出ないかと思っているんだがな」
「ああ、ランク4は水溜りが、ランク5は〈睡眠〉がキツいからな。だが〈睡眠〉対策ならなんとかなるだろ? ランク2の〈霧ダン〉からはそれなりに『睡眠耐性』の付いた装備がドロップするはずだ」
「あ~〈霧ダン〉か。あそこは今学園が管理してるから中々行けなくてよ」
「なら、中級産のやつでとりあえず誤魔化すしかないな」
「それが誰かのせいで『睡眠耐性』系の装備が軒並み高くなってるんだよ。高レベルの装備なんか売る気あるのかって値段になってるぜ?」
「おっとやぶ蛇だったか」
『睡眠耐性』の需要。以前のDランク戦でエリサが〈睡眠〉をばらまいたおかげで〈睡眠〉という状態異常が見直され始めているんだよな。ブームってやつだ。
そして当然のようにそれに対抗出来るように今まであまり注目もされていなかった『睡眠耐性』の需要が増えたわけだ。品薄になって値段も高騰を始めているらしい。
別に『睡眠耐性』だけが付いたアクセサリー装備ならそこまで高いわけでは無いが、防御力のある防具に付与されていると途端に値段が跳ね上がるらしい。
上級ダンジョンでも通用する防具に『睡眠耐性』が付いていると、もう手を出せない値段なんだとか。
確かに、
「とりあえず俺たちは〈嵐ダン〉の20層までと、〈山ダン〉の10層までをメインフィールドにして毎日〈救護委員会〉と合わせてエリアボスを20体くらい狩ってるな。目標は30層だ」
さすがアーロン先輩だ。〈救護委員会〉と協力してだが、このダンジョン週間中は毎日20体も倒しているらしい。そりゃ〈上級転職チケット〉も出るだろう。
さらにはもっともっと深い階層のボス撃破も目指しているようだ。順調そうで何より。
この調子で
「そういえば例の〈霧ダン〉の〈霧払い玉〉なんだが。〈キングアブソリュート〉にも卸しているのか?」
「おう。それで攻略が進み、今は39層にいるらしいぜ」
「マジ切り札じゃねぇか。とんでもないものをドロップしたなおい」
そう。実はすでに〈キングアブソリュート〉には〈霧払い玉〉を卸している。
〈霧払い玉〉の販売については学園が管理し、他のギルドには売っていないが、〈キングアブソリュート〉だけは別だ。お高ーい値段で〈エデン〉から直接卸させてもらっております。
そして〈キングアブソリュート〉が攻略を再開したのが今週の水曜日のことだ。
ユーリ先輩も〈霧ダン〉は攻略したそうにしていたし、〈霧払い玉〉はそれはそれは高値で買い取ってくれたよ。
実際〈キングアブソリュート〉はこの3日間で30層から39層まで進んだらしいので〈霧払い玉〉の効力が絶大だと分かるだろう。
量産は〈嵐ダン〉の素材を使えばハンナが簡単に作製してくれるので数百個単位で作ってもらっている。
〈霧ダン〉はしばらく上級ダンジョンの登竜門的な立ち位置になるため、学園に作れば作っただけ売れる。笑いが止まらん。ふはははは!
さらにアーロン先輩からは耳寄りな話を聞いた。
どうやら同じAランクギルドの〈千剣フラカル〉や〈ミーティア〉、〈獣王ガルタイガ〉、〈カオスアビス〉そしてSランクの〈百鬼夜行〉と〈ギルバドヨッシャー〉のメンバーが最近上級ダンジョンに来ているらしい。学園が主催する〈霧ダン〉のダンジョン進出に必ず参加しているそうだ。
エリアボスを倒せれば中級とは比べものにならない確率で〈上級転職チケット〉を落とすという話を聞いたようで、気合いが違うらしい。
おかげで〈霧ダン〉の上層、1層~10層まではボスの取り合いになるかもしれないとのこと。すでに競争が始まっているな。
「誰かさんのおかげで奴らの意欲はすっげぇぞ~。今はまだボス慣れしていないが、慣れたら一気に〈エデン〉に追いつくかもな」
「はっはっは、そう簡単には抜かさせないぞ」
「はっそうだろうな。だが後続は思ったより活発だぜ? 後はBランクの上位3位、〈サクセスブレーン〉〈筋肉は最強だ〉〈カッターオブパイレーツ〉も上級進出に向けて動き始めてる。これから上級ダンジョンはどんどん騒がしくなるだろうぜ」
「楽しみだな!」
「これが楽しみなんて言えるのはゼフィルスだけだぜ」
他のギルドが進出してくるのは目に見えていたが、Aランクが積極的にボスへ挑んだり、Bランクが上級ダンジョンに現れたりと、予想よりもずいぶん活動的な様子だ。
いいね。俺の予想だと〈上級転職チケット〉や上級の装備が出回ってからの話だと思っていた。もっと言えば俺たちが上級ボスを周回しまくって〈銀箱〉の中身を販売してばらまいてからの話だと思っていたので、嬉しい報告だ。
これは〈嵐ダン〉の情報や、〈ブモル〉などからドロップしたバラの上級装備などは、近々〈エデン〉店で売り始めたほうが良いかもしれないな。どんどん上級に進出してきてくれ。
「情報サンキューなアーロン先輩」
「こっちこそだ。そっちも〈嵐ダン〉の攻略頑張れよ!」
「おう!」
はっはっはと笑いあってアーロン先輩と別れ、俺たちは〈嵐ダン〉に潜ったのだった。
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