第777話 ソードマンの超自己紹介。トモヨVSソードマン!




「アイアムソードマンキター!」


「ファイト! ソードマン! イケイケ! ソードマン!」


「あんたが真のソードマンだー!」


「アイアムソードマン! アイアムソードマン!」


「俺たちにあんたの華麗なソード捌きを見せてくれ!」


 右手の大剣を高らかに上げた〈ファイトオブソードマン〉のギルドマスターが大声で名乗りを上げると、呼応して観客席まで歓声があがった。


「うお、ビックリした、何事だ!?」


「アイアムソードマン。〈ファイトオブソードマン〉のギルドマスターにしてソードマンの中のソードマンとして名高い相手だ」


「え? 何その説明? 有名人なのか?」


 メルトの訳知りのようなよく分からない説明に俺は目を丸くした。

 ソードマンの中のソードマンってなんだろう? しかも【アイ・アム・ソードマン】の職業ジョブ名が名前や通り名のようになっているし。

 一応言っておくと、【アイ・アム・ソードマン】は上級職、中の上だぞ? 中位職だ。【ソードマン】の正規ルートである【剣匠】から外れたネタ職業ジョブ。とはいえ総合評価は【剣匠】より高かったけどな。


 これほどの人気。まさか、実力者か?

 そんなにプレイヤースキルが高いのだろうか? あれはプレイヤースキルが高いほど活かせる類の職業ジョブだからな。俺はとてもソードマン君に興味が湧いた。後、名乗りがよろしい。


「なあなあメルトメルト、あの人そんなに強いのか?」


「……実際見たことはないからどれほどの強さなのかは分からないが、噂ではかなりの実力者だと言われている。話に聞くかぎりでは、たった1人ソロ中級上位チュウジョウのモンスターを100体抜きしたり、クラス対抗戦では1人で二つの拠点を落としたとか。もしかすれば、サチたち数人がかりでも危ういかもしれないぞ?」


「マジで?」


【アイ・アム・ソードマン】の特性を考えると、無双が強いというのも分かる。

 しかし、1人でか~。ロマンだ。そして俄然ワクワクしてきた!


「性格も熱く、正面からのぶつかり合いが好きで戦闘も派手。負けるときも豪快で、見ている者からすれば面白くて人気があるとのことだ」


「おおお、観客を魅せるプレイヤーか。これはしっかり見届けなくちゃな」


 ゲーム〈ダン活〉でも魅せるプレイヤーという人たちはいた。動画をガンガン流す人たちで自分の腕に自信を持っている人が多く、有名人が多い。

 勝ち負けよりも面白さ、楽しさ、そして魅力を追求していた人たちだ。

 もちろん勝ちに拘る人もいたが、そういうのは自分で出来るのであまり人気ではなかったんだ。時には負けてでも観客を沸かせる魅せるプレイヤーが〈ダン活〉では特に人気があった。


 そういえばこの世界に来てからはそう言う人とはあまり会ったことが、――脳裏に高笑いする大魔道士が過ぎった――。まあいいか。

 さすがにゲーム時代のような魅せるプレイヤーではないと思うが、この世界の魅せるプレイヤーとは何をしてくれるのか、彼はいったいどんな姿を見せてくれるのか。

 俺は片時も見逃さないため、彼らの試合に集中した。



 ◇ ◇ ◇



 一方現場。ソードマンの名乗りは観客席を巻き込んで続いていた。


「俺の名前を言ってみろーー!!」


「ソードマン! ソードマン!」


「俺は何だーー!!」


「ソードマン! ソードマン!」


「そう! 俺こそが! ソードマンなのさーー!!!! ――よろしく」


「す、すごい自己紹介。仲間と観客を味方に付けてこんな自己紹介する人、初めて見たよ!?」


 トモヨはよく分からないが圧倒された。


「えっと、私はトモヨ。【堅固盾士】、です。よろしく? えっと、ソードマンさん?」


「シャハハハ! トモヨ、良い名前だな。俺の事はソードマンと呼べ」


「あ、はい(2回目だよー)」


 並々ならぬソードマンへの熱を感じ取ったトモヨは、とりあえず逆らわずソードマンさんと呼ぶことに決めた。


「シャッハー!! 行くぜトモヨ! 俺のソードを受けてみろ! 『スマッシュソード』!」


「タンク相手に正面から!? 『ストライクガード』!」


「良いぜ良いぜ! これ受けられるってのは貴重だぞ!」


 先に仕掛けたのはソードマン。

 タンクのトモヨ相手に正面から突っ込み、強力な大剣の二剣流で横から二撃を盾に見舞う。

 実はこれはかなり強力な一撃で、普通の下級職のタンクならたたらを踏むか、ノックバックしていてもおかしくない威力の一撃だった。それが二撃。


 しかし、トモヨは防御力特化、しかもブースト系スキルでVITとRESを1.6倍に強化し、パッシブスキル『二枚盾流LV10』と盾のスキル『ダメージ減少LV5』が二つで『ダメージ減少LV10』になっているおかげで、素受けでもとんでもなく硬いタンクとなっている。さらには防御スキルを間に合わせ、二枚の盾で完全に防いだことにより、トモヨのダメージは微々たるものだ。

 上級職のスキル攻撃に対してまったく堪えていない。


 それを見てニヤけたソードマンが一度下がってスキルを発動した。


「こりゃあ久々に楽しめそうだぜ、シャハ! ブースト、上げて行くぜ! 『ワンブースト・ソードマン』!」


「! バフ!?」


「これに付いて来いトモヨー!」


「そんなの、余裕だから!」


 それは攻撃力と素早さを上昇させ、代わりに防御力を低下させる自己バフだ。

 再び大剣を振り回し、通常攻撃で攻めてきたソードマンだが、先ほどより明らかに速度が上がっていた。


 しかし、トモヨのプレイヤースキルならまだ問題無く捌けるレベルの速度である。




 その頃、他3人の〈ファイトオブソードマン〉は、タンクが残り少ないHPの状態からなんとか起き上がり〈ハイポーション〉で回復して復帰し、さらにはソードマンの横を通る形で残りの2人のメンバーと共にサチを無視する形で後衛のエリサとフィナリナへと走っていた。


「あれが例の悪魔っ娘か! あの子は危険だ! 眠らされないうちに落とすぞ!」


「応! 『スペシャルボム』!」


「エリサっち!?」


 走る2人のうち魔砲使いの男子が放った爆弾撃ちが放物線を描き、立ちはだかる3人娘を越えて後ろにいたエリサに迫った。しかし、


「大丈夫です。姉さまは私が守ります。『エルカバーガード』!」


 そこへカバーでエリサの前に割り込んできた者がいた。

 エリサの双子の妹、フィナリナである。

 ドーンと爆発する衝撃が2人を襲うがエリサもまったくもってなんの問題も無い。


「フィナ先輩!」


「後ろは気にしないでください。――姉さま」


「まっかせてよフィナちゃん! 行けーーー! 『ナイトメア・大睡吸』!」


「ぐっ!? ―――Zzz」


「く、2人眠った!」


 そこへ炸裂したのは先ほどエリサが使った強力な〈睡眠〉付与特化ユニークスキル。

 これにより同じマスにいた〈ファイトオブソードマン〉4人へ直撃し、タンクとソードマンを除く2人が〈睡眠〉に掛かってしまう。


 エリサのコンボは続く。すぐに眠った状態を維持するスキルを発動する。


「続いて『睡魔の砂時計』! ってああ!?」


「うそ」


 エリサとフィナリナの驚愕の声が漏れる。

 エリサの頭上に巨大な砂時計が現れたところで片手剣が飛んできて破壊されたのだ。

 当然破壊したのはこの男。ソードマンだ。


「シャッハー! さっきはうちのメンバーが世話になったな。そいつはちょっといけないぜ!」


 ソードマンが自身に着いている剣を投げてきたのだ。

 スキル『投剣』により、エリサのコンボは完成すること無く砂時計が破壊されてしまう。

 エリサの砂時計が物理的に破壊可能だと、ソードマンは勘で見抜いてきたのだ。

 フィナリナもエリサを守ることに集中していたため、出てきたばかりの砂時計への攻撃を止めることはできなかった。


「くっ、もう弱点を見抜いてきたの!? 早すぎじゃない!?」


 エリサが苦くも驚愕の表情で叫ぶと、律儀にも答えが返ってくる。


「なんかやばそうな気がしたら斬る! ソードマンの定石だぞ!」


 それは定石なのかという疑問は置いておく。


「余所見なんて、余裕じゃない! 『ダブルシールドバッシュ』! くっ速い!? このタイミングで避けられた!?」


「シャッハー! トモヨーまだまだ上げるぞ! 付いて来い! ――『ツーブースト・ソードマン』!」


「!! 速さが、増した!?」


「トモヨちゃん、援護するよ!」


「ダメだサチ! トモヨがギルドマスターを抑えてくれているうちに、私たちはあっちを相手にしないと!」


 バフが上乗りした。

 先ほどよりさらにスピードの増したソードマンにトモヨが斬られると、思わずサチが飛び込もうとする。それを掴まえてユウカが指示を出した。

 睡眠コンボが失敗したことにより、〈睡眠〉状態だった2人はタンク男子に起こされ、すでに戦線に復帰している。


 ここでソードマンに飛び込めば後ろを取られて隙を晒すだろう、ここはこの3人を倒してソードマンへ向かうのが最善だとユウカは判断した。

 トモヨが1人で上級職を相手にしているうちに数で相手を倒す。


「うん、ユウカちゃんごめん! こっちに集中するよ!」


「ドンマイだよサチっち!」


「エリサ先輩、フィナ先輩、援護を頼みます!」


「任せてよね! フィナちゃんも守りは良いから行って来なさい」


「そうですね、私が入る事で勝利を確実なものとしましょう」


〈アークアルカディア〉と〈ファイトオブソードマン〉の対人戦は、まだ始まったばかり。




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