第776話 激突対人戦、サチ、エミ、ユウカの最強コンボ!




「ごめん! こっちは失敗しちゃった!」


「ドンマイよサチ、あなたたちはよく頑張ったわ」


「エリサ先輩~」


 中央にある観客席のやや東寄りのマスで、サチが目に涙を浮かべて合流したエリサに泣きついていた。

 いや、サチだけではなく、その後ろにいるエミとユウカも、その表情は悲しげに歪んでいる。


 試合開始直前、あんなにエリサから発破を掛けてもらったのに結果が出せなかったことに悲しがっていたのだ。エリサはそんな3人娘に強気の笑みを浮かべて励ます。


「もう、3人とも大丈夫よ。まだ試合は始まったばかりでしょ。それにまだほとんど同点よ、いくらでも巻き返せるわ。この後は対人戦なんだから、私たちの中で一番LVの高いあなたたちが頼りなのよ」


「でもエリサっち~」


「デモもストライキも無いわ。もししくじってもヒーラーの私がいるかぎり全部フォローしてあげるから安心して成果を掴みなさい!」


「う、ありがとうエリサ先輩! ……そういえばエリサ先輩ってヒーラーだったっけ」


「まあ、姉さまはどう見てもヒーラーには見えませんよね。教官が言うにはデバフヒーラーらしいですが」


 ユウカとフィナリナが不思議そうに胸を張るエリサへと注がれる。

 上級生を見事な足止めで〈中央東巨城〉の先取に大きく貢献したエリサ。普通ヒーラーにはできないのではないかとその視線が語っていたがエリサは気にしない。


「ほらそこの5人、特にユウカは索敵を密にして! そろそろ来るわよ!」


 と、そこへ声を掛けるのはトモヨだ。

 トモヨの視線はアリーナの上空に浮かぶスクリーンに注がれている。

 ゼフィルス流の座学で、小城Pの動きが少なくなれば対人戦を警戒するべしというのはすでに全員が叩き込まれていた。


 中盤戦は小城Pの獲得をメインにするのがゼフィルス流の定石。

 しかし、これはDランク昇格試験だ。


 Dランク昇格試験の試験内容には必ず対人戦が含まれている。本来試験内容は相手には知らされないのだが、Eランクでは試験官からの本拠地への攻撃が禁止されていたのに解禁されていたり、ローカルルール〈敗者復活〉が適用されていたりと、明らかに対人戦の経験を積ませに来ている。勘の良い者ならどこかしらのタイミングで試験官が対人戦を仕掛けてくるだろうと予測できるのだ。


 まあ、実際には勘では無くゼフィルスの情報によるものだがそれは置いておく。


 そうして警戒していると中盤戦に突入して少し経ったとき、明らかに相手の小城獲得の勢いが落ちた。

 これは空き地の小城が無くなったりしてそもそも小城Pを伸ばせなくなった、ということもあり得るのだが、それにしたって早い。まだ空き地マスは多いはずだ。

 試験官だから、小城Pを獲得しつつ集まって相手を騙しつつ、なんて真似はしない。これから対人を仕掛けるぞと言っているようなものだった。


 だからこそ〈アークアルカディア〉のメンバーもこうして中央観客席の東西に集まって待機し、対人戦を仕掛けてくるのを待ち構えていた。


 そして、その時が来る。


「『警戒』に反応あり! 『敵探知』! 来てるよ! 数5人! 2-3で来る!」


 ユウカの索敵系スキルに反応あり。

 どうやら西側は5人の〈ファイトオブソードマン〉が仕掛けてきたようだ。

 2-3とは前2、後3の陣形で迫ってきているという意味となる。

〈アークアルカディア〉は西にサチ、エミ、ユウカ、エリサ、フィナリナ、トモヨの6人で迎え撃つ構えだ。


 西が本命であり戦力を集めている。先ほど上級職のギルドマスターが出現したのも西側だ。

 これをもし撃破出来ればかなり有利になるだろう。


 目標は角。

 観客席を側面にして死角を作り、相手が現れたところで奇襲する。

 以前ゼフィルスたちがやっていたのと同じ作戦だった。


 しかし、それは相手側に索敵スキル持ちがいたことで看破されることになる。


「『索敵』! そこの角に敵影あり!」


「! 読まれていた! 行くよサチ、エミ!」


「うん!」


「わかった!」


「「「『魔装全開放』!」」」


 奇襲失敗、それを悟るやいなや、3人娘が飛び出し、一気に角を曲がって相手と同じマスへと進入する。『魔装全開放』で次の一撃に全ての魔装エネルギーを込めて叩き付ける狙いだ。


 相手は敵がいることに警戒度を上げたタイミング。少し驚くが、出てきた敵影に対しすぐさま行動を起こす。


「来たぞ! 『ブーストソード』!」


「ふうん! 『盾突撃』なり!」


 それにすぐに反応したのは先頭にいた【ソルジャー】の男子。

 隣にいた【シールドウォリアー】のタンクな男子が盾突撃で前に出て、その後ろから隠れるように攻める。

 相手は3人だがタンクが防げば耐えることは可能と踏んで、一気に敵の懐に飛び込もうという判断だった。

 その判断は半分正解で、後衛のエミとユウカを【ソルジャー】が相手にし、タンクでサチを抑えれば数が少なくても有利に状況を進められ、その隙に追いついてきた後3人によって各個撃破するという割とポピュラーな戦法を上級生たちは頭に描いていた。


 だが、それは並の相手ならだ。

 相手は魔装3人娘、しかもその仲良し度は非常に高く、比例して連携度も高かった。


 サチが前、エミがその右後ろ、ユウカが左後ろという陣形をダッシュ中に整えると、『魔装全開放』中の一撃を叩き込んだ。タイミング完璧の連携で。


「『魔弓・シャワーアロー』!」


「『魔本・冷凍吹雪』!」


 まずユウカとエミが遠距離攻撃を放つ。

 ユウカの攻撃は上に矢を放つと何十何百という矢がシャワーのように降る範囲攻撃の『シャワーアロー』。

 エミの攻撃は前方から猛烈な吹雪をぶつける事で足を止める範囲攻撃『冷凍吹雪』。

 上と前からの二方攻撃だ。


 これによって盾突撃中のタンクは足を止められ、そこへ上から矢のシャワーが降り注いだ、完全に後方の倒しやすい【ソルジャー】狙いの攻撃だった。


「なっ!? なんだこの大ダメージは!」


「我が盾の下に隠れよ!」


 しかも『魔装全開放』中で威力が爆上がりしている攻撃だ。範囲攻撃のハズなのにHPがガンガン消えていく光景に【ソルジャー】男子は青ざめ、タンク男子が盾を上へ掲げる事でその下に入り込み庇ってもらう。


 タンク男子は前方の吹雪を肉壁で防ぎ、上からの矢を盾で防ぐ構えだ。

 見事に足を封じられ、2人とも完全に足が止まってしまう。

 当然そこへ来るのは特大の攻撃。止めの一撃。

 左から側面に回り込んだサチが、その剣をエフェクトで光らせ、フレンドリーファイアをものともせずに接近していた。そして、


「『魔剣・光剣』ーー!」


「ば、ばかなぁぁぁぁ!?」


「ぐおおお!?」


 サチの『光剣』の横薙ぎによってまとめて斬られて光に飲まれてしまった2人は大ダメージを受け、【ソルジャー】男子は退場。タンク男子もHPを七割以上もダメージを負い、孤立してしまう。


 これぞ3人のコンビネーション攻撃。

 吹雪とシャワーで動きを止め、他の敵からの援護を抑制しつつダメージを稼ぎ、最後の特大攻撃で仕留める。


 なお、失敗すると『魔装武装』を再発動しないとスキルが使えなくなってしまうので注意だ。クールタイムに気をつけるべし。


「このタンク、思ったより硬い!」


 3人娘の必殺コンボを食らってもHPがまだかなり残っていたタンクを見てサチが叫んだ。

 すでにサチ、エミ、ユウカの纏っていた魔装は消えており、追撃はできない状態。

 吹雪とシャワーも消えた事で、相手も動きだす。


 来るのは、タンク以外の3人。

 そのうちの1人がサチへもの凄い速度で飛び込んで来たのだ。


「シャッハーー!! 『ソードマン・オブ・ソードバスター』!」


「させないよ! 『ガードポジション』!」


 全身に抜き身の剣を装着しまくり、大剣を両手に一つずつ持った男子がスキルを使う。『ソードマン・オブ・ソードバスター』、範囲攻撃でもあり、単体攻撃でもある斬った方向へ斬撃波を放つそれがサチへ届く直前、スキルを発動したトモヨが二枚盾で割って入った。


 ガガキンッという金属音の後ズドーンという爆発音にも似た衝撃が響く、しかし斬撃波はトモヨが防ぎきった。サチは無傷だ。


「トモヨちゃん!?」


「サチ下がって! 一旦態勢を立て直すよ!」


「うん!」


「くあ~~! マジか!? かったいなおめぇ~!」


 トモヨの援護のおかげでサチは無事に下がり、3人とも『魔装武装』をかけ直す事に成功する。


 そうして異様な雰囲気のあるソードマンからバックステップで距離を取ったトモヨが二つの盾を構え直した。


「来たね。上級職のギルドマスター」


「ハ! 俺を知ったうえで単騎で残るかよ! いい女だな!」


「それはどうも」


 トモヨの前にいるのはレザーとアーマーで身体を覆う軽鎧を装備し、しかし、なぜか様々な抜き身の剣を腰、肩、背中、胸、足などに着けまくった奇抜なスタイルをした上級生。


 彼こそが〈ファイトオブソードマン〉のギルドマスターであり、唯一の上級職である人物。


「いい女には名乗るのが俺のポリシーだ! 一度しか言わないから良く聞けぃ! 俺は【アイ・アム・ソードマン】! ――【アイ・アム・ソードマン】だーーー!!」


「一度って言ったのに二回言ったよ!? しかもそれ職業ジョブ名だよ!?」


 ソードマンが真のソードマンに覚醒した姿。自己主張が激しく自分こそが真のソードマンなのだと高らかに叫ぶソードマンの中のソードマン。

〈ファイトオブソードマン〉のギルドマスター、ザンハ。

 しかし、その名乗りにトモヨは混乱した。


「俺を呼ぶときはソードマンと呼べぇ!!」


「そうなの!?」


 彼が名乗った瞬間、会場で歓声が上がった。




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