第769話 Dランク昇格試験の出場者決め。〈10人戦〉!
「悪い、遅くなっちまった」
もう日がだいぶ傾いた夕方の時間。
講師の仕事からようやく解放され、俺は遅れてギルドハウスの大部屋へ入室していた。
見渡せば、〈エデン〉のメンバーは数人不在だったが、〈アークアルカディア〉は全員が揃っている様子だ。いや、アルルだけいない?
そこで、メルトが俺に応えてくれる。
「問題無い。つい先ほどまでセレスタンが現在の〈エデン〉の状況説明をしていたからな。おかげで〈アークアルカディア〉がDランク試験を行なう意図が見えてきたところだ」
どうやら先行してくれたセレスタンが前もってみんなに説明してくれていたらしい。
さすが頼りになる執事!
とそこで仲良し3人娘のサチ、エミ、ユウカが手を挙げる。
「ゼフィルス君に聞きたいことがあります!」
「前回のEランク試験にやったあれ、もしかして今回もやるのかなって!」
「〈エデン〉もBランクになれば10人枠が増える。なら、やはり親ギルドへの昇格試験も含んでいるのだろうか?」
その話を聞いて〈アークアルカディア〉の新メンバーたちがざわめく。
彼女たちはEランク昇格試験の時はいなかったからな。初耳だったのだろう。
前回〈アークアルカディア〉Eランク昇格試験の時は、親ギルドへの昇格試験でもあった。
その時にアイギス、ノエル、ラクリッテ、レグラムの4人が〈エデン〉に昇格している。
逆にサチ、エミ、ユウカは残念ながら下部
故に、仲良し3人娘は真剣味が増しているように見えるな。
そして、俺の答えは決まっている。
「3人の言うとおり、このDランク昇格試験と同時に成績優秀者は〈エデン〉へ昇格させる予定だから、そのつもりでいてほしい」
俺が宣言すると〈アークアルカディア〉のざわめきがいっそう強くなる。
みんな、いよいよだ、と言わんばかりの真剣な表情だ。
「先に言っておくが、親ギルドへの昇格は〈エデン〉がBランクギルドになったらの話だぞ? そして〈エデン〉のBランク昇格はもう少し後になることを覚悟しておいてほしい」
「ええ? どうして?」
「〈エデン〉なら今の実力でも十分Bランク戦でも勝てるでしょ?」
「むしろゼフィルス君を倒せる人が学園にいるのかも分からないと個人的には思ってる」
サチ、エミ、ユウカがそれぞれ言う。
まあ、その認識は当然かもしれないな。俺、負けたこと無いし。今後も負けないつもりだしな!
しかし、それとは別にBランク戦からは慎重を期すべきだ。これは〈ダン活〉プレイヤーの考え方だな。
「そう思ってくれるのは嬉しいが、Bランクからは負けるとデメリットが非常に高いことを忘れてはいけないぞ」
俺の真剣な言葉が響いたのか、先ほどまでざわめいていたギルドハウス内が静かになり、全員が耳を傾けたのを感じた。
「知っての通りBランクからは人数の上限が一気に膨れ上がり30人まで加入が可能だ。それは人材を豊富に揃えられ、低位ランクギルドより遥かにできる事が多くなる。だが、リスクは当然ある。ランク戦で敗北すれば10人が路頭に迷うんだ」
俺の言葉に〈アークアルカディア〉組に近い位置に座るタバサ先輩が深くうなずいていたのが見えた。
〈テンプルセイバー〉とタバサ先輩のいざこざは記憶に新しい。
あの時はギルドに加入していなかったメンバーもすでに話を聞いていたのだろう。
みんなが神妙な顔をする。
「一応、下部
「「「…………」」」
「ランクアップは確かに素晴らしいことだが、ランクダウンすることも常に念頭に置いておかなければならない。ギルドバトルは不意を突かれただけで簡単に敗北する事があるからだ」
俺はリスクを強く主張する。
ギルドバトルは人数が多くなるほど難易度が高くなる。全てのキャラを効率的に操るのは難しく、参加するキャラが多くなる後半は加速度的に難易度が上がっていく。
そしてギルドバトルには一発逆転の手段、本拠地の陥落があるため、大きく有利を取っていても決して気が抜けないのだ。
タイムアップ直前に不意を突かれ、本拠地を落とされて敗北したなんてことは本当にあるのだ。だってみんな逆転狙ってくるんだもん。
だからこそ、本拠地をアタックさせない戦法が多く開発されたのだが、それでも絶対と言えないのがギルドバトルだ。本当にギルドバトルは面白い。
常にリスクが付きまとうからこそドキドキするし、ワクワクする。飽きが来ず、ずっと集中出来るのだ。
今では常に勝利を勝ち取る俺だが、だからこそリスクは絶対に無視しない。
リスクは常にあるから集中力を増すことができるし、ギルドバトルを楽しむことができると俺は考えている。そして、絶対に降格者を出さないという思いこそが腕を上げる原動力になるのだと思っている。
そして、俺は入念に準備をする派だ。
しっかり準備をし、ランク落ちの危険を極力排除してからBランクへと昇格する。
Bランクからはランク戦に敗北すると降格者が出る。敗北は許されない。故にBランクからは慎重に期すべき。これが大原則だ。これをギルドメンバーの共通認識にする。
「今はまだBランクへの昇格の準備が整っていない。昇格するだろう〈アークアルカディア〉組のレベルも足りなければ、上級職も足りていない。まあBランク〈ランク戦〉の条件である〈防衛戦で勝ち星一つ〉という条件が満たせていないためそもそも挑めない、というのも理由だけどな。だからこの昇格試験で合格したとしてもしばらくは〈アークアルカディア〉に在籍してもらう予定だが、大丈夫か?」
「うん! ゼフィルス君が私たちのことを本気で考えているって分かったもん!」
「うんうん! なんだか嬉しくなっちゃうよね」
「そうだね。ギルドマスターに大事にされていると分かるよ。もちろん、私たちはギルドマスターの意見に従うよ」
サチ、エミ、ユウカがキャッキャしながら賛同を示すと、他のメンバーからも支持が上がる。
とりあえずは不満が上がらなくて良かったよ。
「纏めると、Bランク戦はせめて〈20人戦〉で
そう煽ると〈アークアルカディア〉のメンバーが奮起する。
防衛戦メンバーは相手のギルドによって変更出来るのがBランクの強みだ。
その強みを活かすため、せめて25人以上のカンスト者は必要だ。
ここは焦って昇格しちゃいけない部分だ。
「さて、話が長くなったが本題だ。今回のDランク昇格試験の出場者を決めるぞ。今回〈10人戦〉の出場枠は文字通り10人だ」
俺がそう宣言すると、またもや空気がピリッとする。
しかし、その直後に2人のメンバーが手を挙げた。
セレスタンとニーコだ。
「僕はギルドマスターの仕事がありますので、辞退させていただきます」
「ぼくも辞退するよ。別にサブマスターの地位が惜しいとかではなく、むしろ誰かに譲りたいくらいなのだがそれは別として、純粋に〈エデン〉に入れずとも問題が無いのでね。ギルドバトルはやる必要が無いのだよ」
セレスタンはともかくニーコはなぁ。
ニーコはすでにいくつかの研究所からスカウトが舞い込んでいるらしい。
【トレジャーハンター】という上級職に加え、ギルド〈エデン〉で活動していた研究者という肩書きが垂涎のようだ。
というわけで、就活などに多大な影響力を持つギルドバトルをしなくても就職は安泰となったわけで、ニーコは永久に下部
「それと、アルル様からも辞退の旨を預かっております」
「了解だ。アルルの辞退は、まあ順当だな」
アルルはこの会議に不参加。ハンナもいないので上級装備がらみかな?
ハンナには昨日ユーリ先輩たちと話し合った結果を言っておかなくてはいけないため、後で生産工房に顔を出そうと思う。
〈アークアルカディア〉のメンバーは全部で14人、3人が辞退したため、残りは11人だ。
辞退する人がこれ以上増えないのなら、別の方法で選定する必要があるな。
と思ったところで奥の方に座っていたカイリが手を挙げた。意外な人物だった。
「せっかくの機会だが、私も辞退させてもらうとするよ」
「ん? どうしたんだカイリ? 前回はかなり意気込んでいなかったか?」
「そうなのだが、実は学園からオファーを貰ってね。さらにいくつかの企業からスカウトの話が出ているんだ」
「マジか!?」
「なんと!」
俺とニーコの声と共に多くのビックリとした声が響く。
「うん、実を言うと――」
どうも話を聞くとカイリの手腕と、俺が約束した〈上級転職チケット〉の使用が関わっているらしい。
以前カイリは学園の依頼を受け、キャリーをした事があったが、その結果がとても良く、学園の覚えが良かったらしい。これはカイリが〈エデン〉の下部
そして以前、俺はカイリを上級職にして上級ダンジョンへ連れて行く所存だというのを宣言したのだが、学園は上級職になったらうちに来ないかい? とカイリに持ちかけたようだ。しかもそれが今日の話だという。
これ、もしかして昨日のあれが関係してないか?
後は俺が約束を守ってカイリを上級職へと〈
まあ問題無い。就職のスカウトは喜ばしいことだ。俺はカイリを応援する!
「まさかそんなことになっていたとは」
「ははは、私もついさっき話を貰ってね。この機会に報告させてもらったというわけさ」
「まあ何にしてもめでたい! カイリ、おめでとう!」
「「「おめでとうカイリ!」」」
「え、ええ!? でもまだ本決まりじゃないよ!? 上級職にもなってないし」
「そんなもの、俺に任せとけ! 絶対に最高の
「うっ。ちょっとグッと来た」
「「「わかる~」」」
「こら、ゼフィルス!」
「ええ?」
そんなこんなでこれにてDランク昇格試験のメンバー10人が決まったのだった。
しかし、ニーコがカイリのことを微妙な目で見ているのが妙に気になった。
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