第764話 転移アイテムレシピゲットー! 素材確保だー!




 ―――〈転移水晶てんいすいしょう〉。

 使えばたちまち転移リングのあるダンジョン門と行き来できる転移アイテムだ!

〈上下ダン〉にあったあの転移リング、あれはこの〈転移水晶〉のためにあったアーティファクトである。同じ〈ダンジョン門〉のダンジョンであればどこからでもダンジョン門に帰還出来るし、次に転移リングの前で使えばセーブポイントへ転移することが出来る。

 もうそれだけでこれの価値が分かるな。


 ちなみに一度使用すれば〈転移水晶〉はなくなる仕様で、一つで1パーティが対象となる(ゲストも含む)。行き来するには最低でも二つの〈転移水晶〉が必要ということだな。


 また、個別で個人認識しているため、〈転移水晶〉を使っていない人は転移リングの前で〈転移水晶〉を使っても置いてきぼりを食らうので注意だ。

 まあ、正確には個人ではなく同じアーティファクトである〈学生手帳〉を認識していると〈ダン活〉の設定資料集に書いてあったので本当は違うが、似たようなものだな。〈学生手帳〉は校則で他人のものを使うのを不可とされているから。


〈転移水晶〉は広大で自由度が高く、〈馬車〉も使えない上級ダンジョンでは必須のアイテムだった。

 上級ダンジョンは広い。もう、もの凄く広い。なのに〈馬車〉は使えない。

 行き帰りの移動時間だけで相当な時間を食ってしまう。


 しかしランク3の〈山岳の狂樹ダンジョン〉の2層、その隠し扉にある〈転移水晶〉のレシピさえ手に入ればそんな心配も無い。

 さらには、これまで帰るための移動時間を考えながらそのギリギリを見極めて活動しなくちゃいけなかったが、片道が一瞬で帰れるために文字通りギリギリまで探索できるのだ。

 これは大きい。


 故に、〈ダン活〉では上級ダンジョンに進出したら、まずランク3の〈山岳の狂樹ダンジョン〉で〈転移水晶〉のレシピを先に採ることが推奨されていた。

 ゲーム内NPCもやたらと転移リングと〈山ダン〉について触れてくるからな。


 また、〈転移水晶〉と同じような効果でゲーム時代は〈救難報告〉という手もあったが、これは最終手段だ。

 何しろ〈救難報告〉とは全滅判定と同義だからだ。つまり、名声値が落ちる。

 カテゴリー持ちをスカウトするのに必要な名声値が落ちるのだ。大変。とても大変である。

〈救難報告〉は本当に最後の手段だった。

 まあ、リアルでは名声値なんて無いのだが。


 それはさておき、この〈転移水晶〉はこのリアルではおそらく違った意味を持つ。

 リアルでは〈救護委員会〉が上級ダンジョンへの救助ができないために、上級ダンジョンに潜るリスクが高すぎる。

〈キングアブソリュート〉のように、どんな状況に陥ってもリカバリーできるよう、基本は特大のレイドを組んで上級ダンジョンに挑むのが定石になっていたほどだ。


 石橋を叩いて渡るしかなかったために時間と費用がとんでもなく、攻略できる人がとても限られていた。

 だが、〈転移水晶〉があれば話は別だ。

 消耗品ではあるが、使えば一瞬で帰還、行き来ができるこのアイテム。これが普及すれば、今まで上級ダンジョンに行きたくても行けずに燻っていた人たちが上級ダンジョンに進出できるようになるだろう。


 俺はこのレシピを〈大図書館〉に登録し、世界中に大公開するつもりだ。


 独占しなくて大丈夫かと心配になる声もあるだろうが、多分これ、一ギルドが持っていていい物じゃないという話になるんじゃないかと考えている。


 それに〈転移水晶〉を作製するには上級職の【アイテム職人】系か【錬金術師】系が必要だ。

 今のところ該当するのはハンナだけだし、ハンナは大量生産に特化したビルド構成だ。

 利益は十分に確保できるだろう。問題は無い。ふははははは!!


 また上級ダンジョンでは、ボスは〈上級転職チケット〉を3%という高い確率でドロップする。

 それはエリアボスでも変わらない。

 エリアボスが倒され始めたら上級進出できる人材が爆発的に増えるだろうな。


 革命になっちゃうかもしれない!?

 よし、早速ハンナに作ってもらおう!


 ということで、目的を達した俺たちはさっさと引き上げることにした。


「今日はここまでにしておこうか。撤収!」


「ええ!? もう帰るの!?」


「元々今日は下見だって言ってただろ? モンスターとも戦ったし、次の階層の下見も出来た。帰りの時間も考えると良い頃合だろ。採集しながら帰ろうぜ」


「むぅ。なんだかあっさりしているわね」


「ま、ラナたちの装備が揃ったら目一杯攻略するさ」


「絶対よ? 約束よ?」


「おう」


 さすがに2層に入ったばかりで引き返すのは抵抗があったみたいだが、帰り道で探索しながら帰ろうと言うとラナたちも納得してくれた。

 今回ここに来たのは装備の素材集めだったからな。

〈転移水晶〉の素材確保もある。たくさん採集して帰ろう。


 帰り道。


「わっぷ、わっぷ! み、みじゅが!」


「あはははは、カルアったら大丈夫?」


「びしょびしょになっちゃったわね」


「この罠は天然だった」


 採取しようとしたら反撃にあって、バケツをひっくり返したような水をぶっ掛けられたカルア。

 うむ、この上級ダンジョンでは採集も上級だ。

 下手に採集しようとすると反撃を食らうのだ。今みたいに。


「カルア、この〈スッキリン〉を使え。脱水機能もあるからこれを使えば乾かせるぞ」


「ゼフィルス、ありがと」


 ちなみにこの水はHPにも微ダメージがあったのだがそれはすでにラナによって回復されている。

 カルアに〈スッキリン〉を渡してあげてすっきり脱水。これで探索に戻れるぜ。

 ただ、濡れたカルアがプルプル首を振って水気を飛ばそうとしている姿がちょっと可愛かったので、少し勿体無く感じたのは内緒。


 だが安心せよ、採集の旅はまだまだ終わらないのだ。

 

 この〈山ダン〉でも〈ミスリル鉱石〉は手に入るし、〈エリクシール〉の素材である〈霊草〉や〈エリクサー〉の素材である〈魔霊草〉も採集できる。


 さらには真素材用の素材も確保しなければいけないし、〈転移水晶〉の素材だって必要だ。

 採集しなくちゃいけないものがありすぎる!! さすがは上級だぜ。


 次の採集はエステルの番。


「周囲良し、モンスター無し、罠の類無し。大丈夫なはずです。いざ」


 もちろん全ての採集場所で反撃を食らうわけではない。たまに反撃を食らってHPやMPが持っていかれるが、それは周りの地形を見れば罠っぽい何かが発見できるので回避が可能だ。「あ、あの採取ポイント、真上にウツボカズラのような植物がある。あれ絶対採取したら水浸しになるやつだ」って分かるわけだな。


 それもみんなに伝授して、ちょっとチャレンジしてもらう。

 エステルは周りを見て上を見て、罠の類は無いことを確認し、〈優しいスコップ〉で採取をしようとした。


 しかし、エステルが採取ポイントでザクッとスコップを入れたとたん、地面の中からモンスターが飛び出してきた。


「バァァァ!」


「きゃあああ!?」


 むっちゃ驚くエステル。

 うむ、こういう採取しようとしたらエンカウントしちゃった、なんて事もある。

 さて、戦闘準備だな。そう思っていたら。


「モグラは出てこないでください! 『プレシャススラスト』!」


「アアアアア!?」


 両手で槍を持ってモンスター目掛け振り下ろしたエステル。そのままスキルを使いモンスターが穴から出てこようとしたところに槍を突っ込んでリリースした。

 モンスターは穴ん中に埋められてしまった。


「ハァ、ハァ。ビックリしました」


「マジか……南無」


 ちなみに今のモンスターは〈モグキ〉というモグラのような木だったのだが、地面から出てきたところを戻された気持ちがちょっと気になった。今どんな気持ちだろう?


 エステルが恐る恐る穴から槍を引っこ抜くと、


「バアアア!」


「『閃光一閃突き』! 出てきちゃダメです! 帰ってください!」


「バアアアア!?」


 再び出てきた〈モグキ〉。しかし直後にエステルの『閃光一閃突き』が炸裂。

 その後ももぐら叩きのように叩かれ、叩かれ、ついに何も出来ず光に還ってしまったのだった。

 おかしいな、ゲームの時は普通のエンカウントだったんだけどなぁ。


「ふう。いっぱい採れましたよ」


「良かったなぁ」


 一度反撃や罠が発生した採集ポイントでは二度目は無いので安心して採取できる。エステルはいい笑顔で採取していたよ。

 そんな感じで誰も上級ダンジョンに挑まなかったからだろう、大量にそこら中にある採取ポイントや発掘ポイントを回って上級素材を集めまくり、俺たちは帰還したのだった。


「上級ダンジョンってスリルがあって楽しかったわ!」


「だな! 俺も楽しかった!」


 とりあえず、初の上級ダンジョン入ダンはとても大成功に終わったのだった。



 みんながシャワーに向かうので俺は1人〈スッキリン〉で体を清めてギルドハウスへと向かう。ハンナは相変わらず〈錬金工房〉でスラリポマラソンをしていたようだ。


「ハンナ! ただいま!」


「ゼフィルス君? お帰りなさい。早かったね。ご飯にする?」


 それなんだか新婚さんみたいだぞハンナ。

 ハンナのご飯を想像したところで腹が空腹を訴えたが、それを我慢してなんとか用件を済ます。


「ご飯は惹かれるけどちょっと後回しだ。上級素材をたくさんゲットしたから持ってきた」


「わぁ! すごいいっぱいある!?」


 空いている作業台の上に〈空間収納鞄アイテムバッグ〉を逆さにして素材を山積みする。ふっふっふ、いっぱい採ってきたのだよ。


 ハンナが目をキラキラさせて作業台へと飛びついた。


「ね、ね、ゼフィルス君ゼフィルス君、これ全部使っちゃっていいの!?」


「おっと待て待て、まずはカルアとラナとエステルの装備用の真素材作製が先だ。あと回復薬な。そしたら自由に使っちゃって良いぞ。あと鉱石系はアルルに渡しといてくれ」


「やったぁ! 任せてよ!」


「後ハンナにはこれを作ってほしい。というか量産してほしい。なるべくたくさんだ」


 俺はそう言ってハンナの前に〈転移水晶〉のレシピを置いたのだった。




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