第757話 上級ダンジョン攻略始動。動き出す〈エデン〉




 上級ダンジョン攻略宣言をした後、俺たちは早速行動を起こした。


 まずリカとリーナが俺の下へやってくる。


「では、我々は〈祭ダン〉へ向かうとする。こちらのことは任せてくれ」


「頼む。――それと〈笛〉は全部預けるから、管理を頼むぜリーナ」


「承りましたわ。これは、ゼフィルスさん個人の物もあわせていただいてしまってよろしいんですの?」


「おう。どうせ俺たちはまだ上級の最奥まで行けないしな。俺が持っているよりそっちで使ってもらった方がいい」


〈笛〉はギルドの物と、俺個人の物がある。

 ちなみに俺個人の物は全部で5本とギルド全体でもかなりの割合に匹敵するためリーナは確認してきたわけだ。


「これで〈笛〉の数は合計で13本ですわね。全部で52回の挑戦が可能というのは大きいですわ」


「あそこのダンジョンは最下層に赴くのに時間が掛かるからな。〈笛〉はなるべく多く所持して行きたかった。ゼフィルス、助かる」


「気にするな」


〈笛〉の価値は高い。

 もう非常に高い。そしてレアボスドロップなので全然手に入らない。

 学園でおそらく一番レアボスに挑みまくっているであろう〈エデン〉でも未だ13本しか持っていないことからもその価値が分かるだろう。

 いや、普通はもっと手に入らないはずなんだが、なぜかとんでもなく〈笛〉をドロップする奴がいるからな。ボーナスタイムでこうなった。


 後は学園長の依頼をこなしてゲットしたり、〈テンプルセイバー〉からゲットしたりで3本、〈エデン〉でドロップしたのは僅か5本である。

 どれだけドロップ率が辛いかわかるだろう。手に入る機会があれば積極的に手を伸ばさなければならないアイテムの代表である!


 おっと、思考が脱線した。


 とりあえず、そんな〈エデン〉の全〈笛〉をリーナに渡しておいた。

 リーナなら回数を使い切って壊しちゃいましたなんてことには絶対にならないので安心だ。〈妖精ダン〉へ向かうメンバーとの割合もリーナに一任しておく。


「では、行ってくる」


「行ってきますわ!」


「頼んだぞー!」


 こうして俺はみんなを見送る。

 リカとリーナを筆頭にし、現在中級上位ダンジョンに進出出来ているメンバーのほとんどを連れて行く様子だ。

 それに触発され、新メンバーたち、まだ低レベルのメンバーも力が入っていた。


「私たちも負けてはいられないわ。周回よ! ボスを周回しに行くのよ!」


「シャロンさんの意見に賛成です。アタッカーの募集をしないといけませんね」


 シャロンが燃えていた。オリヒメさんも頷き早速〈新学年〉組がパーティメンバーのスカウトに走る。

 まだ〈新学年〉組はLV50を越えたばかりなためレベル上げが急がれる訳だ。


 先日〈エデン〉メンバーの中でもタバサ先輩を含めた新規加入組に〈公式裏技戦術ボス周回〉を伝授してあげたところ、ちょっとした騒ぎになったりもした。

 みんなの驚いた顔がマジプライスレス。タバサ先輩なんて気が動転しまくってなぜか式神と鬼を召喚して門をポコポコ叩き始めたときは、ちょっと笑ってしまった。


 一撃で決めるんだ、こうズドンと!

 そうやって実演するとみんな目をキラキラさせていたっけ。

〈道場〉が現在使えないので、新しいレベルアップ法にみんな期待を寄せている。


「聞いて聞いて! アイギスさんとサチさん、エミさん、ユウカさんが加わってくれるって!」


「ありがたいです。〈攻略者の証〉も持ってない方には取ってきてもらいましょう」


「それなら、次はダンジョンを決めましょう。ロゼとアイギスさん、2人の〈馬車〉が使えるので二つのパーティに分かれて行きましょう。その方が周回が捗ります」


 早速フラーミナがメンバーを確保。

 ロゼッタとカタリナがパーティ分けを考える。

 トモヨを除いた新メンバー組7人にアイギスたち4人が加わり、中級下位ダンジョンをメインに攻略する計画を立てる。


「あ、エリサちゃん調べによると〈丘陵の恐竜ダンジョン〉と〈暗森の魑魅ちみダンジョン〉なんて人気が無くてお勧めよ!」


「ボス周回するのでしたら人が来ない方がいいですからね。でも姉さま、そこは恐竜とオバケが出るダンジョンですよ。大丈夫ですか?」


 エリサがさすが〈新3学年〉という情報網で人気の無いダンジョンを提案するが、フィナに半目を向けられていた。人が来ないということは中々難易度の高いダンジョンなのだ。とはいえ高位職のメンバーで行くなら問題は無いだろう。


 それぞれのメンバーがそれぞれの目的によって動く光景は、なんだか感動にも似た感情が胸に来るな。

 なんだかとても良いと感じるんだ。ギルド全体が生き生きとしている。


「ゼフィルス、私たちも」


「おう。みんな、準備はいいか?」


「もう、分かっているでしょ。いつでもいいわよ」


「はい。こちらの準備は万端です」


「いつでも、おーけー」


「よし、それじゃ、上級ダンジョンへ行くぞ! まず行くのはすでに決めてある。上級下位ジョーカーのランク3、〈山岳の狂樹ダンジョン〉だ!」


「!」


 まずは素材集め。プラスあるものをゲットしたい。

 上級ダンジョン攻略の準備段階において、このダンジョンは外せない。

 ゲーム〈ダン活〉の攻略サイトにも「上級ダンジョンに突入したらまずアレをゲットせよ、最優先だ」と書かれているほどだ。


 上級ダンジョンは正式に攻略を開始するのなら当然ランク1から進めるのが順当ではあるのだが、攻略の前にとっておくと便利なアイテムというのは実はいくつかあったりする。その代表がランク3のダンジョンに眠っている。

 ランク3はモンスターのステータスがとても高いためタンクの強化は必須。

 シエラを優先して装備を強化した理由だ。


「ら、ランク3? 大丈夫なのゼフィルス!?」


 俺の発言に驚いて聞き返してくるラナに、俺は鷹揚おうように頷いた。


「当然だ。別に攻略するわけじゃないしな。このためにシエラの装備を先にパワーアップさせたんだ。タンクがモンスターを止められるのなら、とりあえずランク3でも耐えることはできる。だからこそタンクのパワーアップは最優先で仕上げなければならなかった」


 俺はシエラを見ると、シエラも俺を見ていた。

 その表情は上級という未知のダンジョンで前に出ることを微塵も恐れてはいない。

 頼もしい!

 シエラなら絶対にパーティを守ってくれるだろう。


「そしてカルア。上級ダンジョンは警戒しすぎてしすぎることは無い。斥候、マジ頼む」


「任せて」


 短い一言。だがカルアらしい。

 俺たちはギルドメンバーに見送られながら、上級下位ダンジョンのダンジョン門、〈ダンジョン門・上級下伝〉通称:〈上下じょかダン〉へと向かうのだった。




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