第十五章 上級ダンジョン進出と下部ギルド昇格試験!
第749話 ハンナとの約束とクラス間コミュニケーション。
清々しい朝の日差しに脳が覚醒するのを感じる。
俺はいつも通り自分の部屋で着替えていると、部屋のドアがノックされた。
もうノックの仕方で誰か分かるレベルになってきたな。俺は軽く身だしなみをチェックするとドアを開ける。
そこにはいつも通りハンナがバスケットを持って立っていた。
「おはようハンナ」
「ゼフィルス君おはよう~」
もう恒例のやり取りになった挨拶を交わして部屋へと招き入れる。
ハンナが持って来たバスケットの中には、朝からややボリューミーなハンバーガーがいくつか入っていた。
「それじゃあ食べようゼフィルス君」
「おう、いつもありがとなハンナ」
俺のいつもの日常だ。
朝の食事にいただきます。
俺がボリューミーなチキンカツハンバーガーを食べている正面でハンナはツナのサンドイッチを食べている。
ダンジョンを終えた翌日の朝はこれくらいのボリュームを食べても俺の身体はなんら問題無いが、ハンナはさすがに厳しいのだろう。用意されたものは別のものだった。
つまりは俺の分と自分の分で分けて作ってきてくれているというわけだ。
毎度頭が下がる思いである。
一応、以前それとなく「ハンナと同じメニューで良いよ」と言ったのだが、「ゼフィルス君はギルドのマスターとしてしっかり食べないとダメだよ。力でないよ」と押し切られ、こうして俺の腹と好みに合わせた朝食を毎度作ってきてくれるのだ。
食べ終わると、お茶を飲んでごちそうさま。
俺はまずハンナに問いかけた。
「ハンナ、何か欲しい物はないか?」
「どうしたの突然?」
「いや、いつもこうして朝食を作ってきて貰っているからさ、お礼がしたくてな」
「もう~お礼なんていいのに、私がしたくてしてるんだから」
「そう言うなって。俺だってハンナに何かしたいんだ」
「そう? え、えへへ~。うん、そうだね。上級素材がやっぱり足りないかな? 色々作ってみたい物が多いんだぁ」
「それもそれでギルドのためのことなんだが、まあ、なるほどなぁ」
できればハンナ自身のプレゼントにと思ったのだが、今はそれよりも上級素材の方が嬉しいようだ。
つい先日、とうとう念願だった俺が求めるスペックを満たした上級装備が完成した。
生産職3人の合作で、つまりは最高傑作。
本来ならやりきった満足感で一息入れるところだろう。
しかしハンナたち上級生産職たちの向上心は止まらず、むしろこの大成功によって上級装備作製の意欲がさらに高まってしまったらしいのだ。
というのも、現在、作製を待っている上級装備シリーズのレシピがまだまだあるからだ。
〈慈愛聖衣シリーズ全集〉。
〈聖盾光鎧シリーズ全集〉。
〈貴装蒼鎧シリーズ全集〉。
〈精霊衣装シリーズ全集〉。
〈女武士道シリーズ全集〉。
これが現在作製を待っている〈金箱〉産の上級レシピシリーズ全集である。
しかも、他にも単品でのレシピはまだまだあるのだ。
今まで前人未踏に近い装備の作製だけあって、3人は生産職の血が騒いでいるらしい。しかし、いかんせん上級素材が足りてないとのこと。仕方ない、だって〈エデン〉はまだ上級に入ダンしていないのだから。
俺の〈勇銀装備シリーズ〉を作製してもらった後、マリー先輩からも、
「上級素材が全然足らへんわ! 兄さん、ちょっと取ってきてや。これ着てけば行けるやろ」
なんてセリフをいただいてしまったよ。危うくクエストが発生するところだった。
いつも上級素材を卸している〈サンハンター〉はどうしたのか聞いてみたところ、どうやら11月から解禁されるギルドバトルや、その後の学園行事の準備で忙しいらしく、供給がとても少なくなってしまったんだそうだ。
誰だ〈サンハンター〉にギルドバトルを仕掛けようとしているのは!
〈サンハンター〉は実績豊富ではあるものの、とある理由でギルドマスターがギルドバトルに参加出来ないため、Bランクギルドからよく狙われるのだそうだ。
同じクラスのミューやリャアナが言ってた。
そんな訳で、ハンナたち生産職は上級素材を欲しがっているのだ。
「よし、了解した。とりあえずは今ある素材でシエラの〈聖盾光鎧シリーズ全集〉だけでも先に仕上げてくれ」
「うん。マリー先輩たちに言っておくね」
「最低タンクさえ上級装備になれば上級ダンジョン入ダンもできるだろう。そうすれば上級素材は何とかなるはずだ」
上級ダンジョンは非常に手強い。だって上級だから。
しかし最低でもタンクさえ上級装備でフル装備していけば上層の採取活動くらいは可能だ。
俺はハンナたちの要望に頷き、早々に上級素材を確保しようと頷いたのだった。
そのままハンナと寮を出て登校する。
昨日で長かったようで短かったダンジョン週間も終わり、今日からはまた登校日だ。
10月28日月曜日。
今日の授業はクラス合同授業だ。
〈2組〉〈3組〉とクラスの交流を図りつつ、合同で授業する。
ちょっと楽しみである。
ハンナと途中で別れ、自分の教室に着くと、クラスメイトたちと挨拶を交わして、今日の話題になる。
「今日はクラス間交流の日だからな。少し楽しみだ」
「ゼフィルスはいつも楽しそうだな。〈2組〉や〈3組〉の学生なんて〈1組〉の席を虎視眈々と狙っている者たちだぞ?」
「まあ、渡す気は無いけどね」
俺の言葉に返してくれたのは【大拳闘士】のセーダンと【ソウルイーター】のキールだ。
俺のクラスメイトだな。
しかし、セーダンの言葉には重みと実感を含んでいるように感じるな。さすがは元〈2組〉だ。
キールはグルグルめがねをクイッと上げながらも、しかしその目は油断出来ない鋭さを持っている。
2人とはクラスメイトとしてそれなりに話す仲となっている。今は合同授業の話題で情報を共有しているところだ。
「〈2組〉や〈3組〉にはクラス対抗戦で活躍した者も多い。実は俺も少し楽しみにしている」
「セーダンもか」
「俺の場合、〈2組〉にはレミとアディという元クラスメイトもいるしな」
「知り合いがいるのか。ああ、あの熊人の子とアーチャーの子だな?」
「そういえばゼフィルスはクラス対抗戦の時2人と戦ったのだったか?」
「強かったぞ。特に連携がとても良かった」
「そうだろとも。ゼフィルスも後で話してみるといい。紹介する」
「お、それは助かるな」
「それなら僕からも1人紹介していいかい? ジェイっていう〈2組〉の学生なんだけど」
「確か、元〈10組〉のリーダーだっけ? 【超能力者】の?」
「あ、覚えていてくれたんだね。ジェイはクラス対抗戦の決勝戦では最初の方で〈8組〉にやられてしまったから、てっきりゼフィルスは知らないと思ってたんだ」
「決勝のリーダーくらいは記憶しているさ。だけど紹介したいって?」
「これも人脈を広げる一つ、くらいに思ってくれればいいよ。今は〈2組〉に在籍しているんだけどね、ジェイは中々強いんだよ。〈2組〉に選ばれるくらいには」
「なるほどなぁ~」
こうして聞いていると人脈の広さがヒシヒシ伝わってくるな。
俺の場合、ギルドメンバーとクラスメイト以外の交流が少ない。
俺は効率面からダンジョンばっかり行っているし、同級生とは差が開きすぎて他のギルド同士の交流などもあまりしてこなかった。
しかも俺の知り合いには色々吹き込んだせいで、そのほとんどが〈1組〉に在籍しているため他のクラスの情報は全然ないのだ。他のクラスの人材も気になるところ。
今回のクラス間交流を楽しみにしていた理由である。
こうして人脈を紹介してくれるのはとてもありがたいことだった。
将来的に新しいメンバーのスカウトにかかわる可能性もあるからな。
そうして話しているとチャイムが鳴り、フィリス先生が入室して俺たちは席に着いた。
挨拶を終えてホームルームを始める。
「みなさんおはようございます。ホームルームを始めるわね。――今日は一時間目の授業から〈1組〉〈2組〉〈3組〉の合同授業があるので、装備に着替えて練習場3-A-1エリアに集合してね。遅れちゃダメよ?」
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