第737話 料理アイテムの事情。リアルならではの危険。




「ということで、ミリアス先輩のギルドから料理アイテム購入の太いパイプを持つことが出来そうだ! これでさらにダンションでの活動がしやすくなるだろう」


「……ちょっと待ってゼフィルス、その料理アイテムなのだけど、あのバフが付くタイプの料理、という認識であっているかしら?」


「もちろんそうだが、どうかしたか?」


 ミリアス先輩が「絶対ギルメンを頷かせるから!」と言って口約束した内容をシエラたちに伝えると、なんだか微妙な反応が返ってきた。

 どうしたんだ?


「ふう、そうね。ゼフィルスはこういうよく分からないところで常識が抜けているんだったわね」


 なんだかシエラから常識知らずと言われた気がしたが、きっと気のせいだろう。

 俺以上に〈ダン活〉を知り尽くしているやつはいない!(断言)


 そんな俺にシエラが一つため息を吐き、説明してくれた。


「あのねゼフィルス。料理アイテムは確かに強力よ。食べれば最長で1日バフが続く物もあるし、その効果も本職のバッファーに負けず劣らず、むしろ効果時間の面で上回っているわ」


 シエラの言葉に俺は頷く。


 料理アイテムとは普通の料理とは違い、食べると一定時間バフが付く。

 その効果は食材によって変わるが、食材を使う分、バッファーより強力というのが特徴だ。

 ただそのバフが切れるまでは次の料理アイテムを食べようがバフが掛からず、上書きもされないという制約があるため、バッファーのようにたくさんのバフを掛けることができないのがネック。その代わり効果時間は長く、最短で30分から最長で1日持つ物まで存在する。


 また、バッファーのバフと料理アイテムは重複・・する特徴があるのも見逃せない部分だ。

 例えば料理アイテムで攻撃力が30%アップするものを食べたとしよう。そこにバッファーが攻撃力20%アップするバフを掛けると、普通なら上書きされて攻撃力20%アップになるところ、なんと料理アイテムの効果と重複し攻撃力50%アップになってしまうのだ。

 これはヤバイ。戦術の幅が広がりまくる!


 とはいえ欠点が無いというわけではない。それがシエラが言いたいことなのだろう。


「でもね、料理アイテムはまず高価よ。特に中級素材を使っている料理は1食で万を軽く超すわ。とっても贅沢な代物よ」


「ふむ」


 そう、値段が欠点なんだ。

 素材を集めなくちゃ料理は作れない。常識だ。

 そしてその素材を安定して供給するなら金を掛ける必要があるが、これを毎日全員分用意するとなると……。


 俺は今一度考えを巡らせる。ゲーム時代の常識ではなく、リアルならではの弊害についてだ。


 ゲーム時代は自分が操る1パーティ分の素材だけを用意すればよかったが、ここはリアル。つまり全員分の食事を用意しなくてはならないということだろう。

 えっと? ダンジョン週間で9日挑むと考えて計算してみると?


 ――1日1食×34人×1万ミール×9日間=306万ミール。

 最低金額でこれである。

 これが1食10万ミールもする料理アイテムだった場合、費用も10倍。ひえっ。


 ヤバい、一瞬で破産の二文字が見えた気がした。いや、きっと気のせいだろう。


 とはいえ大丈夫だ。そのくらいの値段では〈エデン〉はびくともしないぞ! キリッ!

 俺がキリッとしていると、俺の心を読んだシエラが語りかけてくる。


「想像できたみたいね? 要は料理アイテムとは贅沢品なのよ」


 シエラはそう言って締める。


 ――贅沢品。

 それが料理アイテムへ気軽に手を出せない理由であり、料理専門ギルド〈味とバフの深みを求めて〉が土日しか活動していない理由でもある。

 この世界では料理アイテムなんてここぞというボス戦でしか使われないらしい。


 しかし安心してほしい。対策を思いついた。

 新しい〈金箱〉産料理レシピを使うのだ。

 今後上級ダンジョンでゲットした料理レシピは提供するだけで料理アイテムが山のように手に入るという寸法よ。完璧だ! ふははは!


 しかし、その次にシエラから語られたのは予想外の視点だった。


「あと、純粋に朝食べるのが辛いわ。そう何度も食べられないのよ。毎日同じ料理だと飽きるし栄養も偏ってしまうもの、でも毎回料理アイテムを替えると当然ながらバフの効果が毎回ぶれてしまうし」


「へ?」


「それと、食べすぎは女子には天敵よ。料理アイテムはその多くがガッツリ系。朝からそんなに食べられないし、毎日食べるのは絶対に嫌だと拒否する子も出てくるでしょうね」


「なん……だと……? そんな理由が?」


「やっぱり、ゼフィルスは知らなかったのね……。料理アイテムが強いというのは誰でも知っているわ。でも手を出さないのはそういった理由があるのよ。昔、とある高貴で才気溢れ、周りにも期待されていた少年が、期待に応えるために毎日料理アイテムを常食してダンジョンに挑んだ事例があったの。有名な話なんだけど」


 もちろん俺はそんな話知らないので首を振る。


「その少年は、どうなったんだ?」


「学園の3年間が終わったとき、彼は丸々と肥え、そこに高貴な雰囲気は欠片も無かったそうよ。ついでに料理アイテムはとても美味しい。それを常食にしてしまったことで食が止まらず、その後も体重は増えていき、ついにダンジョンの攻略も出来なくなって破産したらしいわ」


「破産しちゃったの!?」


 とんでもない話を聞いちゃった。


「だからこそ、料理アイテムは贅沢であり、勝負アイテムであり、常食は絶対にしないことというのが常識なのよ。料理アイテムの常食は身を滅ぼすわ。だからゼフィルス、少し妥協点を探りましょう? あと、朝からガッツリ系はさすがに無理だわ」


「ああ、そうだな……。ここぞというときだけにしようか……」


 朝からガッツリはキツイと再三言われた俺は頷くしかなかった。

 朝からダンジョンに挑むのだからその前、つまり朝食に料理アイテムを食べるのは決定。

 しかしそうか、この世界の料理アイテムって太るんだ。あと確かに朝からステーキとかキツイだろう。女子には酷だというのがありありと予想できてしまった。


 そうだよな。朝からガッツリは辛いよな。あと体重に響くというのも。

 ダンジョンで動き回るし別に体重は気にしなくていいとも思ってしまったが、毎日ガッツリはさすがに厳しいか。特に後衛。

 それに栄養が偏るという指摘がマジリアル。


 料理アイテムにこんな欠点があっただなんて、俺は知らないぞ!


 そんな女子のたちの視線に晒されて押し通すことなんて出来るはずもなく、〈エデン〉の女子の圧倒的多数の主張もあり、〈エデン〉が料理アイテムを使うのは上級ダンジョンのボス戦の時など、本当に極一部の直前のみということで全員が同意したのだった。


 まあ、食べたい人は食べて良いとも付け加えておくが〈エデン〉では出ないだろうな……。




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