第736話 猫はいつも人気者。俺は〈幸猫様〉一筋だ!
「ほ、ほらリカ、元気出してくれよ」
「わ、私は元気を失ってなどいない……」
「いや、なんだ。悪かったって」
今俺はリカをとても慰めていた。
リカが愛用していた〈匠の猫じゃらし〉が光になって消えたからだ。
あの時のリカの絶叫、あんな声を出したリカなんて初めて見たぜ。
そしてリカはどんよりとした雰囲気で膝を抱え森にいる猫を眺める姿になってしまった。
いや、うん。あれは猫モンスターをテイムするために必要なアイテムで有り、その用途を正しく守って今後大きな戦力になるだろう〈チャミセン〉をテイム出来たのだ。
ゲーム的に見れば上々の成果と言えるだろう。
しかしここはリアル。アイテムが無くなれば当然それに愛着を持っていたメンバーが悲しむということでもあって、まさかリカがここまで落ち込むことは予想外だった。
ルルの〈天魔のぬいぐるみ〉の時も大変だったからな。
あの時は学園長に頼み込んで、〈天魔のぬいぐるみ〉を使わずギルドに飾るだけ愛でるだけ、という条件を付けてまで手に入れてルルを慰めたからな。
今では〈幸猫様〉の隣は〈天魔のぬいぐるみ〉の特等席だったりする。
いや、〈天魔のぬいぐるみ〉は分かるけど、猫じゃらしが消えたくらいでこれほどリカがどんよりするとは思わなかったんだって。
ちなみに普通のペット用猫の玩具は用意していたので現在ラナに貸してある。
テイムされた〈チャミセン〉には多くの女子が詰めかけていた。
まさか〈匠の猫じゃらし〉じゃないとダメな事態になるとは……。
そう思って聞いてみたんだ。そしたらな、隣のカルアがこう言った。
「ん、あの猫じゃらしは、なんだか自分を見失う魅力がある」
「そんな魔性の能力が!?」
まさかのアイテムだったらしい。
カルアも超誘惑されてんじゃん!
もしカルアにテイムが使えたらどうなっていたか。成功していたかもしれない?
「うむ、あの〈匠の猫じゃらし〉を使ったときのカルアの反応はとても素晴らしいものなのだ。他の猫用のおもちゃも何度も使ってみたのだがな。あれほどカルアが食いつき、自分を見失う姿をさらすのは〈匠の猫じゃらし〉だけだった」
※〈ダン活〉は年齢制限B(12歳以上)のゲームです。
過度な期待はしてはいけません。
「もうあの姿を見られないと思うと私は悲しい」
「〈匠の猫じゃらし〉ではなくカルアの乱れた姿が見たかったのか?」
「ん?」
「いや違うぞ!? カルアの可愛らしい姿が見られないのが悲しいのだ! 一度ゼフィルスも見てみるが良いあの姿を、きっとゼフィルスも取り憑かれて――いややっぱり見なくて良い! 女の子のあんな姿を男子であるゼフィルスは見てはいけない!」
「どっちだよ」
リカがショックで錯乱中だった。
実は以前に見たことがあるんだけどな。あの時もリカが大変錯乱していたっけ。
俺的にはカルアも可愛かったが、リカの方が面白かった記憶が強いとだけコメントを残しておく。
とはいえさすがに可哀相になってきたので〈匠の猫じゃらし〉は今後狙ってみるか。
あれは〈猫ダン〉のフィールドボスなら誰でも落とすし、気軽にショートカット転移陣でおはボス倒すだけでいつかは出るだろう。
ニーコに〈上級転職チケット〉を確保する任務を与えるついでに〈匠の猫じゃらし〉を狙ってみてくれと言って〈猫ダン〉を周回させるのはありだよな。
そんな事を考えていると、俺の後方でテイムした〈チャミセン〉を毛が毟れる勢いで撫で回す女性陣を見ていたニーコが腕を抱いて震えていた。
「うう!? なんだ、急に寒気が来たのだよ?」
「ニコちゃん寒いの?」
「こっちで一緒に撫でようよ!」
「猫のお腹はどうしてこう温かいのだろうか」
仲良し3人娘のサチ、エミ、ユウカに誘われて、それまで傍観に徹していたニーコも〈チャミセン〉を撫でる組に加わっていった。
〈チャミセン〉、モテモテだな。
「ミャーーー!!」
鳴き声が悲鳴に聞こえる気がするのは、きっと気のせいだろう。
テイムされた〈チャミセン〉に幸あれ。
瞬間、俺にも寒気が襲う。
「う!? これは、〈幸猫様〉の気配!? 違いますよ〈幸猫様〉! 俺は〈幸猫様〉一筋です!」
そう言い訳すると、俺の寒気は引っ込んだ。ふう。危ないところだった。
帰ったらいっぱいお供え物しないと!
あと特別にラナにも〈幸猫様〉を愛でる権利を与えるとしよう。
くっ、これは〈幸猫様〉が寂しがらないようにするための苦肉の手段である!! 今回だけなんだからな!?
そんな一幕を終え、新たな仲間と馬車が仲間に加わった俺たちは、〈猫ダン〉を後にし、大勢でギルドに帰還したのだった。
ちなみにアイギスは〈馬車〉の指導は任せてくださいと、ロゼッタの〈馬車〉の指導役を請け負ってくれ、そのままロゼッタたちのパーティと〈猫ダン〉に残った。
ちなみにリカも残った。
成果を期待するぜ。
俺はギルドハウスに帰って早速〈幸猫様〉にお供え物を捧げ、〈幸猫様〉は永遠に俺の一番ですと表明しておいた。〈幸猫様〉は満足そうな顔をしておられた気がする。
ただ、その過程で例の〈光の中精霊〉からドロップした中級料理レシピをハンナのパーティメンバーであるミリアス先輩に公開したのは少しマズかったかもしれない。
あの手この手でこのレシピをゲットしようと交渉してきたのだ。
「お願い、ハンナちゃんの勇者君! お金は今は無いけれど、このレシピで儲けたらその三割をお納めしますから!」
「ちょっとまってくださいミーア先輩! わ、私の勇者君ってなんですか!? 普通にゼフィルス君で良いと思います!」
俺の目の前には両手を合わせて必死にお願いするミリアス先輩と、目を丸くしてミリアス先輩の制服を引っ張るハンナがいた。あとちょっと頬が赤いハンナが可愛い。
ミリアス先輩、さては確信犯だな?
中々に上級テクニックの交渉(?)をしてくる。
「さすがにそれは飲めないなミリアス先輩。料理専門ギルド〈味とバフの深みを求めて〉は週末のみの活動だろ? あまり利益が望めないし、払うもの払えないというのはちょっと」
「待って待って、なら分割で! ちゃんとお金はご用意しますからレシピください! お願いしますゼフィルス君!」
「ミーア先輩!? 確かまだ装備の分割払いが残ってますよ!?」
そう、実はハンナの言うとおり、ミリアス先輩と交渉するのは実は初めてというわけではなく、以前に〈金箱〉産装備、〈コック帽子〉と〈純白のエプロン〉という【調理師】系装備を売っていたりする。
その時もお金が足らず分割払いでOKしたのだが、まだそれは支払い切れていない。
さすがにさらに上乗せはできないだろう。
ということで、俺は別のもので払ってもらうことにした。
「ならミリアス先輩。今後は質の高い料理アイテムをたくさん〈エデン〉に売ってくれ。活動日も土日だけじゃなくもっと増やして、俺たちが用意して欲しい質と数の料理アイテムをその都度用意するということであれば、お近づきの印にこれをタダで進呈しようじゃないか」
今後俺たちは上級ダンジョンへと挑む。
その過程で、料理アイテムというスキル外バフは非常に有効だ。
しかし、意外に料理系のギルドというのは少なく、また料理には時間も掛かるため、1人2人で〈エデン〉のギルド全体を支えられるほどの量を用意する事も難しい。
故に【調理師】系は自分のギルドに囲むより外注した方が良い。〈助っ人〉を頼むというのも有りだけどな。
しかしミリアス先輩は〈生徒会〉のメンバーであり忙しい身だ。
ならばギルドごと巻き込んでしまおうというのが俺の構想だ。
もちろん土日のみ活動とかでは話にならないので出来るだけ多く活動してもらうことも条件のうちである。
「今後、新しいレシピが手に入ったら真っ先に提供しよう。だからギルド〈エデン〉にたくさんの料理アイテムを作ってくれ」
さて、この話、〈生徒会〉役員でもあるミリアス先輩はどう返すのか。
「え、ほんとに!? タダで!? 絶対ギルメン説得する!」
思いのほか食いつきが良かった。
―――――――――――
後書き失礼いたします。作者からお知らせです。
16日~17日夜までの間、また出張に行ってきますのでパソコンに触れられなくなります!
予約投稿はしてありますのでご安心ください!
ただ感想の返事や修正等が出来なくなりますのでご了承ください!
では、行ってきます!
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