第721話 上級ダンジョンへの準備、探索特化ジョブが重要




 ギルドメンバー達とダンジョン週間の活動予定を話し合い、【ハードワーカー】のサトルにスケジュールをまとめてもらった後、いざ行動開始。


 それぞれがそれぞれのやりたい事を行ないつつ、俺の指示とギルドの行動方針に沿った形で自身の成長も頑張る。

 上級ダンジョンを攻略、周回出来るようになれば〈上級転職チケット〉は爆発的に手に入る予定だ。


 しかし、LVがカンストしていないと使えない。

 そのためLVがカンストに届いていない人はLV上げとダンジョン攻略階層更新を。

 LVがカンストしている人は攻略階層更新と新メンバー育成などに協力してもらう方針だ。


 さらに、俺は上級下位ダンジョンの周回という面において重要なポジションにいるメンバーに声を掛ける。


「カイリ、ちょっといいか?」


「な、なんだいゼフィルス君?」


 探索系特化職業ジョブ、【シーカー】に就くカイリだ。

 しかし、俺から声を掛けられたカイリはビックリしたように急に慌て出していた。


「なんで挙動不審なんだ?」


「いや、仕方が無いだろう、これまでずっと接点が薄かったんだから。急にゼフィルス君から話しかけられてビックリしたのさ」


「それは、少し悪いと思っている」


 カイリは探索特化の【シーカー】。

 本来ならばダンジョンの攻略難易度の上がる中級ダンジョンからその真価が発揮され、ダンジョンの探索に大きく貢献してくれる、はずだった。


 しかし蓋を開けてみるとカイリは中級ダンジョンでほとんど活躍が出来ず、端的に言えばくすぶってしまったのだ。


 これは、俺が〈ダン活〉知識を遺憾なく発揮してしまったのも一つの原因だ。俺が知っているからカイリの役目を奪ってしまったのだ。

 とはいえそれは分かっていた事。カイリの役目は俺と組んでいないパーティ、つまり第二陣などのパーティがダンジョンを攻略するときにサポートしてほしいと期待していたからだ。


 だが、実際にはあまり活躍ができなかった。カイリは居ても居なくても同じとは言わないが、思ったような活躍ができなかったのだ。

 これはリアルの弊害にある。


 まず一つ目に、ギルド〈エデン〉がゲーム〈ダン活〉時代より非常に強いメンバーで構成されている事。つまり「人種」カテゴリーをゲームではあり得ないくらい囲っていることが上げられる。


 ゲーム〈ダン活〉時代は「人種」カテゴリー、特に〈姫職〉をスカウト出来るのは早くて中級ダンジョンの後半になってからだった。

 しかしリアルだと最初っからむちゃくちゃ強い〈姫職〉がメンバーにいる。しかもたくさん。

 つまり中級ダンジョン程度、ごり押し出来てしまうのだ。

 低い戦力で苦労しながら探索し、ダンジョンを攻略する、そんなときに活躍する【シーカー】のお株を完全に潰す事になってしまった。


 二つ目は、リアルだと人の目があるため〈公式裏技戦術ボス周回〉ができるダンジョンが限られている事。

 後続が同じダンジョンばかり攻略しているため、道順は【シーカー】で無くとも覚えられる。

 つまり〈エデン〉は人気の無いダンジョンばかりしか攻略しないので、新規のダンジョンでこそ真価を発揮する【シーカー】が活躍出来ないのだ。


 大きな点は以上だろう。そのためにカイリは中級ダンジョンでほとんど活躍することができなかった。俺もスカウトする時期を誤ったと、少し失敗を感じていた。いや、育成自体は順調なので一概には言えないが。


「まあ、気にしなくて良いよ。〈エデン〉や〈アークアルカディア〉のみんなは良い人たちだし、ここ居心地は良いし楽しいしさ」


「そう言ってくれると助かる」


 最初こそ驚いていたカイリだったが、話していくうちに落ち着いたのか余裕が出てきた様子だ。中級ダンジョンの攻略で放置気味になってしまったことに関しても、ギルドが楽しいので移籍して良かったと返してくれる。とりあえずは安心した。


「それで、いったいどんな用なんだい?」


「ああ、カイリのダンジョン週間の活動について少しな」


「予定では5日ほど学園クエストを受ける予定だけど?」


 カイリはそう自分の予定を明かす。つまりダンジョン週間9日間のうち5日間は学園のクエストを受けると言う事だ。カイリには学園から直接指名依頼が出ているほど学園からの覚えが良い。例のキャリー依頼だな。


 新しい〈転職者〉、つまり〈新学年〉の学生はLVがリセットされた後、学園から〈道場〉を使用する許可を得てLV40までは無償で鍛えてもらえる。

 それをサポートし、〈道場〉に通えるよう攻略者の証を獲得させるためにダンジョンの最下層までキャリーしているのがカイリだ。

 おかげで〈エデン〉、〈アークアルカディア〉の〈新学年〉組も一昨日で全員がLV40へ、そして三段階目ツリー獲得まで完了していた。


 それは受けてもらって問題無い。指名依頼を受ける事は学園の評価に直結するからな。


「残りの4日間についてだが、カイリはなるべくLV上げを行なってほしいんだ」


「それは、別に良いけれど、なんでだい?」


 カイリが首を傾げる。

 まるでLVを上げることに必要性を感じていないみたいに感じるが、その認識で間違っていない。

 カイリの【シーカー】は探索特化、つまりスキルに頼って探索することが前提になっている。

 そして俺の育成論でスキルを効率的に振ってもらっているために、正直なところスキルはすでに足りていると言っても過言では無い。


 つまりLVを上げる必要を感じていないのだ。

 しかし、それでは困る。だってカイリには上級ダンジョンで活躍してもらわなければならないのだから。


「それはもちろん、カイリには上級ダンジョン進出、その第二陣パーティ以降の同行を頼みたいからさ。俺はカイリを上級職へ〈上級転職ランクアップ〉させる気でいる」


 俺たち第一陣が上級ダンジョンに進出したら、俺は程なく第二陣も進出させる気だ。

 その時、俺が居なかったため全滅しましたでは目も当てられない。

 カイリには、パーティの命運を担う重要な役割を任せるつもりだ。


 そして、行く行くは――〈救護委員会〉へテコ入れを行ないたい。



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