第693話 新メンバー二段階目ツリー開放!試し撃ちへゴー




 イベント目白押しの〈転職制度〉もだいぶ落ち着いてきた今日この頃。

〈エデン〉で新メンバーの歓迎会をした4日後、土曜日。

 10月も12日となって少し肌寒くなり、今週はチラホラ冬服の学生が増えてきていた。


 この〈ダン活〉の世界では6月と10月に一応衣替えみたいなものがある。

 とはいえ月が替わったら即変更というほどでもなく、暑ければ夏服のままでも可という緩い校風だ。というより学園指定の服であれば何を着ていてもよいという感じに近い。

 冬でも着たければ夏服を着ていいのだ。寒ければ夏でも冬服を着てもいい。


 ゲーム〈ダン活〉時代の話だが、ゲームの時は6月と10月で衣替えと決まっていた。日によって冬服だったり夏服だったりはしなかった。

 リアルだとそこら辺も多少変わるということだろう、大体の目安として6月や10月に衣替えをする学生が多くなるみたいだな。


 クラス替えをしてからあっという間の1週間だった。

 この期間、俺は新しいクラスメイトたちと交流を深めたり、新しい〈新学年〉の様子を見に行ったり、学園長やミストン所長から〈転職制度〉の報告書のまとめを見せられながら色々相談に乗ったりした。

 あわただしくも有意義な1週間だったぜ。


 他のメンバーはというと、やはり気になるのは新メンバーだ。

 特にLVがリセットされた7人はレベル上げから始めなくてはならない。

 しかし、これは学園側である程度面倒を見てくれることになっている。


〈エクストラダンジョン〉の一つ、〈試練の門塔もんとうダンジョン〉。


 エクストラダンジョンの狩場で〈エクスー〉とか〈道場〉とか呼ばれているあのレベル上げ特化型のでっかい塔ダンジョンだが、なんとそのレベル上げを学園負担で行なってくれるのだ。それも授業の一環で、である。

 おおう、QPも時間も超お得だ! 学園には感謝しかない。


〈新学年〉の学生たちは〈転職者〉。

 つまり今まで攻略したダンジョンの〈攻略者の証〉は持っているため、レベルさえ上げてしまえば高ランクダンジョンへ返り咲くことが可能で、もしかすればそのままの勢いで上級ダンジョン攻略の手助けになるのではないかと期待されていたりする。(学園長談)


 元々この世界で〈転職〉が忌避されていた理由がレベルのリセットだったため、レベル上げをフォローする制度があるのはありがたいことだった。

 とはいえ〈道場〉は自由に入ってはいけない。

 学園がなぜこの〈道場〉を管理しているかというと、簡単に言えば狩り過ぎ注意と、パワーレベリングの弊害の危険視のためだ。


 ゲーム時代には無かったが、実は〈道場〉にはリポップ限界があるのだという。

 MMOなんかでもリポップのリソースは有限で狩場の取り合いが発生することがあるが、この世界でもそれは当てはまるらしい。フィールドボスも一度倒すとリポップに時間が掛かるからな。


 それと同じで〈道場〉のモンスターも狩り過ぎるとリポップが強制的にストップしてしまうシステムのようで、しっかりレベル上げの狩場として利用できるよう、学園が管理しているのだという。(学園長談)


 ということで〈新学年〉のレベル上げ期間中はそれ以外の学生は利用が不可になってしまった。

 それ自体は9月からお知らせが浸透していたため混乱は無い。

〈新学年〉はこうしてクラスごとに〈道場〉へ連れて行かれ、この1週間で1組~90組の学生がすでにLV20まで上げてもらっている。素晴らしい。


 オリヒメさんやエリサのいる〈1組〉~〈3組〉は来週にはLV40に届く予定で、学園からのフォローはここまでになる。

 あまりパワーレベリングしすぎると職業ジョブの力を上手く操れなくなると思われているため、ここからは自力でレベル上げしてもらう方針らしい。

 思ったより早く新メンバーたちと一緒にダンジョンに行けそうである。楽しみだ。


 そうしてやってきた週末の土日。

 本日新メンバー、特に〈転職〉したばかりの7人には〈育成論〉の個人指導をするためギルドハウスに全員召喚させてもらっていた。


「みんなLV6の頃からスキルは変わってないな?」


「もちろん。ゼフィルス君に言われたとおりちゃんとSP貯めてたからね~」


「何度かポイントを振る衝動に襲われて大変でした」


 俺の問いにシャロンがやや前傾姿勢で、オリヒメさんが頬に片手を添えて困ったわのポーズで答えてくれる。


 そう、俺は彼女たちにステータスの方針だけは伝授していたが、スキルと魔法、ユニークスキルだけは週末、二段階目ツリーが開放されたときに振ろうと打ち合わせしていた。

 みんなスラリポマラソンでLV6までは上げてもらっていたので一段階目ツリーも少しだけ取得してもらったが、そこからLV20までの最低14SP分はこの日のために貯めてあったのだ。


 SPを振る衝動を堪えるのは大変だっただろう。分かるぜ。

 しかし、〈道場〉はSPが急激に増える分、軽い気持ちでSPを振ってしまうことが多い。一度我慢し、しっかりスケジュール通り振ることが正解だ。


 多分学園は、パワーレベリングの弊害ってこれのことを言っているんだろうなぁ。

 普通にモンスターを狩るレベル上げをしていればSPは1ずつ上がるため熟考し、よく考えてから振るが、〈道場〉でいきなり10SPも取得すれば「あ、これ取っとこー」みたいな軽い気持ちでSPを振りかねない。恐ろしいことだ。


 まあ、俺がそんなことはさせないけどな。


「私、今日がとても楽しみだったんだ」


「私もよ。勇者君に手取り足取りなんて、昨日はなかなか眠れませんでしたわ」


「いやいやSP振りの話だし、いや、そっちも楽しみだったけどね!?」


 ロゼッタとカタリナが話に花を開かせ、しかしちょっとズレていたようでフラーミナがツッコミをしていた。

 いずれにせよ三人共今日を楽しみにしてくれていたみたいだ。


「フィナちゃん、私たちも負けてられないわ! 精一杯ご主人様に甘えてとても強い感じのステータスを考えてもらうのよ!」


「…………姉さま、多分教官はすでに私たちの育成方針は決めていると思いますよ?」


「フィナちゃんは固い! それを口実にご主人様にべったり甘えにいくのが目的なんでしょうが――あ痛っ!?」


「一応私たちが一番年上だということを忘れないでください姉さま? 節度って大切なものですよ?」


「あい……」


 何か小さな声で言い合いをしていた双子姉妹たちだがフィナの良いチョップがエリサの脳天にヒットしておとなしくなった。

 フィナはいつも暴走気味のエリサのブレーキ役だな。ブレーキは必要なのかと言われればハテナと回答するしかないが。俺もよくテンション高くなるし。


 そんなわけで今日は1日掛けて、練習場で新しい二段階目ツリーの練習です。


「んじゃ、出発するぞ!」


「「「「「おおー!」」」」」




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