第694話 SP振って練習だ! まずはシャロンから!
――〈戦闘3号館〉〈戦闘4号館〉の〈共同大練習場〉。
例の1年生校舎と新学年の校舎が渡り廊下で繋がっているのと関係して、戦闘課の練習場もでっかく生まれ変わっていた。
まあ広くなっただけで性能は変わっていないのだが、周りでは1年生と新学年の学生たちが交流しつつ切磋琢磨していた。
こうして1年生と新学年の距離を縮めていこうという試みで作られたのだろう。
いいことだ。
ちなみにだが、新学年の学生は襟に付いている色の刺繍が二重線になっているので見た目で判別出来たりする。
これはゲーム〈ダン活〉時代には無かったリアルオリジナル刺繍で、普通なら現1年生なら青、2年生なら緑、3年生なら赤の刺繍が施されて一つの線が入っているが、新学年には共通してプラス青の刺繍が施され二重線になっているのだ。
つまり、元3年生で今新学年になった学生は、赤+青の二重線。
元2年生で新学年になった学生は、緑+青の二重線。
元1年生から新学年になった学生は、青+青の二重線となっている。
来年になれば俺たち青の刺繍組の学年に合流するため、青の刺繍が施されているという訳だ。
はて、元1年生は二重線にする必要はあるのか? と思うかもしれないが、二重線は新学年になったことのある学生という意味を持つためちゃんと意味がある。
何しろ〈転職制度〉は一度しか受けられない制度だからだ。
もし来年も〈転職制度〉があるとして、襟に二重線の帯が付いている学生はもう〈転職制度〉を利用できない、ということである。
また、元3年生、赤+青の刺繍を持つ学生を〈新3学生〉。
元2年生、緑+青の刺繍を持つ学生を〈新2学生〉。
元1年生、青+青の刺繍を持つ学生を〈新1学生〉。
と呼称する言葉なんかも生まれたりした。
〈新学年〉は1年生から3年生を混ぜたことで結構ややこしくなっているらしいな。
話は脱線したが、要は〈戦闘3号館〉と〈戦闘4号館〉の学生が共同で使える練習場なので俺や新メンバーたちが一緒に使っても何も問題無い、というわけだな。
そんな場所に俺と新メンバー、そしてアシスタントメンバーが足を運んでいた。
「今日はアシスタントにルル、シェリア、ノエル、ラクリッテ、に来てもらいました!」
「あい、今日はよろしくなのです! ビシビシ鍛えちゃうのです!」
「――私も微力ながらアシストさせていただきます。よろしくお願いしますね」
「私はサポート役だよ! バフを込めた感覚を養うために呼ばれたから、みんな頑張って覚えよう~」
「え、えっと、う、うちは盾をお教えします。――あのゼフィルスさん、うちよりシエラさんの方が良かったんじゃ?」
今回呼んだ新メンバーはトモヨを除いて7人。
さすがに一人一人に教えるにはちょっと多い人数なためアシスタントに〈エデン〉メンバー4名を呼んでいた。本当はもう1人呼んでいたのだが、忙しく少し遅れるとのことだ。
ルルは気合いを入れて精一杯背伸びをしている。なんだこの可愛い生き物は? スクショどこ!? ちなみにエリサとフィナがぬいぐるみではないとルルにはすでにバレている。
その時のルルの反応は筆舌に尽くし難いまん丸お目目を向けていたが、今はちゃんと受け入れている。(セーフ)
シェリアは至ってすまし顔で、新人に薫陶を授けるお姉さん的かっこよさを演出しているが、ルルの可愛さに気を持ってかれているのに俺は気づいているぞ。目が口よりも物を言っておられる。
ノエルはバフ担当。バフを受けると体の感覚が変わる。その感覚を養うのと立ち回り方を学んでほしいため来てもらった。
タンク担当が多いためラクリッテは盾の見本として呼んだのだが、相変わらず自信が無い様子だ。クラス対抗戦の時はあんなにかっこよかったのにな。
シエラの盾は確かにすごいが、ラクリッテだって盾は強いぞ? 特に変幻自在なスキルと盾の組み合わせは良い刺激になるだろう。
「ラクリッテ、そんなことないぞ。ラクリッテの盾だって十分強い。もっと自信を持っていい」
「そう、ですか?」
「もちろんだ」
ラクリッテが恐る恐ると言わんばかりに下から上目遣いで見上げてくるので、俺は自信満々に頷いてあげるのだ。ここで詰まるとラクリッテは自信を無くしてしまうだろう、故に俺は自分の言葉に偽りは無いと自信を持って答えるのだ。
「今回の大面接、新メンバーとなって採用された者たちはほとんどがタンクかヒーラーがメインだ。まずはSPを振り、二段階目ツリーのスキルや魔法を身に付けた上でアシスタントの人たちに協力してもらい、自分の身に着けた能力を練習していこう」
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」
良い返事だ。
みんな〈転職〉してでも高位職となり強くなりたいと願った人たちだ。
やる気と気合いが段違いだぜ。
「まずはポジション毎に分けるぞ。タンクはシャロン、カタリナ、ロゼッタ、そしてフィナだ」
「「「「はい!」」」」
「そしてヒーラーはエリサ、そしてオリヒメさんだな。だがカタリナとフィナは兼ヒーラーでもあるので時々こっちに混ざってくれ」
「「はい!」」
「「わかりました!」」
「あの、私はどこに?」
ポジション分けするときょとんと一つの手が挙がる。
犬人であり【
彼女だけはタンクでもヒーラーポジでも無い。
「フラーミナは遊撃、俺と同じくオールマイティポジションだな」
フラーミナの能力はテイマーだ。
主にモンスターをテイムし、モンスターを使役して戦わせる。
モンスターによって攻撃寄り、防御寄り、妨害寄り、援護寄り、とオールマイティにポジションを変更する事が可能なので、彼女は遊撃が向いている。
「フラーミナはSP振りをして慣らした後テイムをしてもらう。アシスタントはシェリアだ」
「任されました。――フラーミナさんよろしくお願いしますね」
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
「……タレ耳、可愛いですね」
「えっと、ありがとうございます?」
うむ、シェリアも精霊術師、半分サモナーみたいなものなので気が合ってくれたら嬉しい。
あとシェリア、フラーミナが可愛いからってルルみたいに可愛がらないでくれよ?
「じゃあ、まずはSP振りからだな。1人ずつ行なっていくから、その間にアシスタントのメンバーと練習していてくれ。最初はシャロン」
「はい!」
呼ばれるとシャロンがまっすぐ、でも固い歩きになって出てきた。
結構緊張している様子だ。
ちなみに他の人たちはすでに振ってあるSUP、ステータスの影響をアシスタントメンバーたちと確認しにいった。
一気にステ振りしたのでステータスを体に馴染ませるため、ある程度の練習が必要だ。所謂慣らしだな。
これは授業でもやっているらしいが、今回はLVゼロからLV40までの急激なレベルアップなため、体の強さが大きく変わってしまう。ちょうど半分であるLV20の今のうちに慣らしておいたほうが後々体に馴染みやすくなるらしい。
改めてシャロンを見る。
今回、新メンバー達は自分が持つフル装備で練習場に来てもらっていた。
シャロンの以前の
「伯爵」カテゴリーの標準職であり、ポジションはタンクだった。
実家から装備一式を送ってもらったのだろう。
中級中位ダンジョンでも活躍出来る優秀な装備を身に着けていた。
シエラのようなおしゃれ鎧装備だな。
服のような装備をベースにいくつかのパーツを装着し、あまり鎧に見えない構造となっている。見た目はリーナに近く、どこか指揮官のような装いだ。黒の指揮官ハットが雰囲気を盛り上げている。
そして特徴的なのが腕、足、肩にある城の屋根のような瓦鎧。これがあるだけで城主という感じがするのだから素晴らしい装備だ。
武器は左手が杖。どこか錫杖のような見た目の片手杖だ。
右手にはシエラと同じカイトシールド。しかし、こちらは色と模様が違うな。
シエラにはマルグリット家の紋章が刻まれていたので、シャロンの盾にも家の紋章が刻まれているのだろう。
「えっと、なんだか照れるね。ゼフィルス君、改めてお願い。私を強くしてください」
「おう、任せろ!」
【姫城主】の育成は特殊だ。
何しろ【城主】系はギルドバトルでこそ、その真価を発揮する。
故にギルドバトルで活躍出来るように育成を組まなくてはいけない。
しかし、ダンジョンも疎かにはできない。
ギルドバトルでも活躍しつつ、ダンジョンでも使えるスキルを習得させていくのだ。
しかし、タンクはパーティの要。タンクが崩れればパーティ全体が崩れてしまう。
故にタンクの育成は全力で行ない、気が抜けないものとなるのが普通だ。装備なんか一番金の掛かるポジションだしな。
だから【姫城主】をタンクで仕上げるのなら、それ相応に力を入れる事が求められる。
ここでポイントなのが【姫城主】の能力だ。【姫城主】は普通のタンクの仕上げ方ではまずい。
前に出て盾使いのタンクとして育てる、それだとせっかくのギルドバトルの持ち味を失ってしまうのだ。
「伯爵」カテゴリーが通称〈守りの伯爵〉と呼ばれているように、【姫城主】の役割は城の死守だ。
つまりギルドバトルでの【姫城主】のポジションは後衛だ。後衛からあらゆる防衛戦を指揮し、城を守る。
城から放つ遠距離攻撃、城を守るための壁召喚、吹き飛ばし効果のある衝撃波、そして城のHP回復。防衛モンスターの強化などなど。
それが【姫城主】の戦い方だ。
それをダンジョンに当てはめつつ、タンクとしてもパーティを崩れさせないほど強力なツリーを伝授する。
ダンジョンでは前衛タンク、ギルドバトルでは後衛タンク。
それを絶妙な案配で育成するのが【姫城主】の肝である。
ここが腕の見せ所だぜ!
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