第689話 ウェルカム・イン・ザ・クラス替え!




 クラス替えの表はテスト掲示板の隣にある。

〈戦闘課〉の〈1組〉から〈119組〉までのクラス分けの表が張り出されているわけだ。


 え? 少なくなっていないかって?

 うむ、以前まで〈戦闘課1年生〉は〈127組〉まであった。少なくなっているのはその分〈戦闘課新学年〉や他の課に転課したらしい。

 おかげで今年度の後半の〈戦闘課〉は〈119組〉までになってしまった。来年になったら多分大量に増えるだろうけどな。


 おっと話が脱線した。

 クラス替えの表だが、119クラスもあるせいで掲示板の端から奥の方までデカイ紙が張り出されている。横断幕かな?


 俺の用がある〈1組〉の名前が書いてある場所は一番端だ。ここから一番遠い位置だ。ちなみに一番近い位置に〈119組〉のメンバーが張り出されていて、その前で数人の男子たちがorzをキメているが、そっとしておく。


 一度人波から出てトモヨとセレスタンを連れ、そのまま〈1組〉のクラス替え表まで向かう。

 先ほどからこの横断幕みたいな紙にへばり付いていた学生たちがみんなこっちを向いて見送ってくるのがちょっと楽しい。


「まっすぐ〈1組〉へ向かうんだ……」


「俺とセレスタンは〈1組〉以外ありえないしな。テストの順位が1位と2位だぜ? トモヨはどの辺と予想してるんだ?」


「えっと、クラス対抗戦では良い成績残せたと思うし、職業ジョブも結構自信あるし、テストは……それなり? でも一桁クラスにはなれたと思うよ」


 さっきから少しずつ話しかけた影響か、トモヨも少しずつちゃんと話せるようになってきたな。

 トモヨの以前のクラスは〈12組〉。それよりかは上がっているはずだとトモヨは言う。


「じゃ、〈1組〉から順に見て行こうぜ」


「え? いいの?」


「え? 何が?」


「ここでお別れとばかり思ってたから」


「ええ? 同じギルドなんだし仲間だろ? トモヨのクラス、一緒に探すぞ」


「な、仲間! ぜ、ゼフィルス君~素敵! きゃ、言っちゃった!」


「おお?」


 どうしたんだろう? トモヨのテンションがいきなり上がった。いや、こっちが素なのか、俺の授業の休み時間では女の子グループで集まってしゃべっていたときこんなしゃべり方だったような気がする。


「は~、幸せ。――マリアちゃん、私、今喜びを噛み締めてるよ~!」


「ん? トモヨはマリアと知り合いなのか?」


「は! 心の声がガン聞こえ!? やっぱ今の無しにして!?」


「その話し方でいいぞ? そっちの方が気安い感じがして良い感じだ」


「ほ、本当!? やだ、さすがゼフィルス君、心と器が広いわ!」


 うむうむ、良い感じにトモヨもテンションが上げ上げになってきているようだ。

 緊張も解けた様子だな。それにさっきから何かを我慢したようなしゃべり方が気になっていたんだ。クラス替えこそテンション上げていかなければな!


「ありましたね。ゼフィルス様、こちらです」


「おう!」


 トモヨと話し込んでいたら危うく通り過ぎてしまいそうになった。セレスタンの言葉に我に返る。ふ~危ない!

 モーゼのように道を開ける学生たちの間に入り〈1組〉の名簿を確認する。


・ゼフィルス ・シエラ  ・ラナ

・エステル  ・カルア  ・リカ

・セレスタン ・ルル   ・ケイシェリア

・シズ    ・パメラ  ・ヘカテリーナ

・メルト   ・ミサト  ・ノエル

・ラクリッテ ・レグラム ・サチ

・エミ    ・ユウカ  ・トモヨ

・ミュー   ・アラン  ・アイシャ

・ラムダ   ・キール  ・ハク

・リャアナ  ・ナギ   ・セーダン


「おお~、というか戦闘課のギルドメンバー21人が全員いる!? ってトモヨの名前もあるじゃん」


「ええほんとに!? やったわ! あとで掲示板で自慢しないと!」


 名簿を見てまず驚いたのがその構成。

 なんと〈エデン〉と〈アークアルカディア〉の戦闘職メンバーが全員〈1組〉に集結していた。

 マジか。すげぇ。え? これっていいのか?


〈戦闘課〉のクラス替えは、クラス対抗戦の成績、テストの成績、職業ジョブの質、生活態度、学園からの賞罰の有無、実績、攻略階層などで決まるという話だが、確かに〈エデン〉、〈アークアルカディア〉はその辺、他の1年生より有利だろう。


 LVはほとんどのメンバーがカンスト、さらに上級職に就いている人もいるし、職業ジョブの質とかむしろトップレベルしかいない。〈姫職〉だぜ?

 攻略階層なんて1年生で間違いなくトップだ。

 学生の模範となるべき生活態度も、うちのメンバーは一度も〈救護委員会〉や〈秩序風紀委員会〉のお世話になったことは無い。1年生の模範となるべき姿だろう。

 クラス対抗戦ではみんな決勝戦に残ったし、上位の成績だったしな。


 テストだけが心配だったが、みんな赤点回避。それなりの成績を収められたようだ。

 特に心配だったルル、カルア、パメラも無事〈1組〉に入れてよかったよ。


 いやしかし、誰かしら違うクラスに行っちゃうかなと懸念していたが、全員一緒とはマジですげぇぜ。しかも新しいメンバーであるトモヨまで同じクラスだ。隣でトモヨが喜びまくって俺の肩をさっきからグラグラ揺すってくる。その気持ちも分からんでもないので俺は好きにやらせてあげるのだ。はははは!


「ですが〈1組〉は半分近く変動しているようですね」


「うちのメンバーではメルト、レグラム、リーナ、ノエル、ラクリッテ、トモヨが新しく〈1組〉に入ってるな。他の元〈1組〉メンバーで残っているのは、ミューとアラン、あとアイシャもか」


「そして6名の男女が新しく〈1組〉入りしたようですね」


「お~、ラムダも同じクラスか。あと〈2組〉のセーダンもか!」


 あのクラス対抗戦の授賞式で脚光を浴びた選手はみんな〈1組〉入りのようだ。

 そりゃ、アレは学園の顔みたいな授賞式だったからな。学園の顔である〈1組〉入りはあのときから決まっていたことなのかもしれない。

 いや待て? 1人足りなくないか? あのドワーフだけがいないぞ?


「あ~、アケミちゃんたちは〈2組〉に行っちゃったみたいね」


「ああ、そういえばトモヨはアケミたちと同じクラスだったんだっけ?」


 トモヨの視線をたどると〈2組〉の表にあの元〈12組〉のリーダーアケミとその取り巻きの名前が書いてあった。どうやらあの3人は仲良く〈2組〉に入ったようだ。

 トモヨも元〈12組〉メンバーなので別のクラスになってしまい少し残念そうだ。


 他〈2組〉にはクラス対抗戦で知り合った名前がチラホラある。無い名前もあるが。


 そういえば元〈1組〉のあいつらの名前も近くに無い。どこいったんだろう?


 そんなことを考えていたときだった。探していた人物の高笑いが聞こえてきたのは。


「見ろ、やはり我は〈1組〉だ! ふははははは」


「あ、いた」


 発見。〈天下一大星〉のギルドメンバー、最近は「あげて美味しい〈天プラ〉さん」などと呼ばれている4人組がそこにいた。

 ギルマスのサターンが紙を指差し、高笑いをキメている。しかし、そこは〈1組〉の表ではない。


「ふ、ふふ、いやサターン、よ、よく見るのです」


「ん?」


 そこでジーロンに言われてサターンは初めて気が付いたようだ。

 1と組の間に0の数字が入っていることに。



・サターン 10組



 そう書かれていた。


 サターンが自分の目をコシコシ擦る。


「おかしいな。我の目がおかしくなったようだ。余計なものまで見える」


 サターンは自分が見たものが信じられないようだ。


「いや、事実だサターン」


「認めろ。サターンは俺様たちと同じ〈10組〉だ。俺様が保証してやる」


 隣にいたトマとヘルクにも言われようやくサターンは現実を直視する。


「ば、バカなぁぁぁ!? 我が、我が〈10組〉だと!?」


 サターンが叫ぶ、あまりの結果に現実を受け入れられないようだ。


「そ、そうだ、この0だ、この0を教員がミスって入れてしまったのだな。きっとそうだ、そうに違いない。職員室に行かなければ」


 現実を受け入れられないサターンが錯乱する。しかしそこに迫る影があった。


 あ、あれは確かクラス対抗戦の初戦でセーダンを差し置いてサターンと言い合いしていた元〈2組〉のモブっぽい男子!

 彼は幽鬼のようにゆらりとサターンの背後から近づくと、その目をギョロリと見開き、サターンの肩に手を置き、振り向いたサターンに至近距離から低い声でこう言った。


「ウェルカムゥ」


「うあああぁぁぁぁぁぁぁ!? 出たあああぁぁぁぁ!?」


 後でセーダンに聞いたところ、あのモブっぽい男子も〈10組〉なのだそうだ。

 サターンはモブっぽい男子に連れて行かれてしまった。

 友達になれるといいねサターン。




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