第677話 来てしまった。Bランクギルド〈筋肉は最強だ〉




「地図によると、こちらですね」


「こ、ここか」


 セレスタンと俺の2人は、とあるギルドハウスの前にいた。


 場所はBランクギルドのギルドハウスが立ち並ぶ〈B街〉の一角。

 Bランクギルドとはほんの一握りのエリートたちだ。その用意されたギルドハウスはたったの20しかない。


 そんな超優秀な人材が集まるギルドハウスは結構豪華である。

 Bランクのギルドハウスはそこそこ大きな建物だ、宿屋と言われても納得しそうな立派な作りをしており、前の通りは整えられて清潔さに満ちて明るい印象を抱く。

 C道も活気があったが、ここはさらに雰囲気に高級感がある気がするな。


 さらにはBランクギルドのギルドハウスとなると外装もしっかりしていて、それぞれのギルドが自分のギルドの特色を出した改造を行なっていたりする。

 そこら辺もCランクギルドとは違うな。Cランクギルドは入れ替わりが激しいため改装をしないギルドが多いからだ。


 では通称マッスラーズと呼ばれているギルドのギルドハウスはいったいどんな魔改造がなされているのか。

 いや、そこはもはや魔改造なんてものではなかった。言うなれば、筋肉改造?


 まずは庭。何だろうあれ? アスレチック? サ◯ケか?

 自分の肉体を使ってアトラクションをクリアする類いのアスレチックが多く点在していた。あれ、ステータスがあるから俺でも出来そうなのだが……。

 とりあえず置いておこう。


 俺はギルドハウスに視線を移す。

 マッスラーズのギルドハウスの外装は、大きくガラス張りになっていた、スモークガラスでもミラーガラスでもない。

 つまり中が丸見えだった。

 思わずそこに目が行くと、中ではとても素晴らしい筋肉をひけらかした男たちが汗を流しながらトレーニングをしている光景が飛び込んできた。


 このマッスラーズ、ギルドハウスをジムに改造してやがる!!


「さ、さすがマッスラーズと呼ばれているギルドだ。筋肉を育てるのに余念がないな」


 筋肉育てるよりLV上げしたほうがいいのでは? と思う俺はこの世界では真っ当だと思う。筋肉よりステータスの方が強いぞ、うん。


「さすがは筋肉を育てる設備の充実度では右に出る箇所が無いと言われているだけありますね」


「そうなのか……」


 俺はそれしか返せなかった。

 絶対トレーニングするものを間違えている気がしてならないが、口には出さなかった。


 ダンジョン週間はダンジョンに長く入る期間であってみんなで仲良く筋トレをしよう、そんな週間では、絶対無いんだ。でも口には出さなかった。


 と、そこで中の筋肉たちが俺のことに気がついたようだ。

 ガラス張りなんだ、向こうからもこっちが見えているだろうしな。

 だが、窓に手を掛けてどうするつもりだろうか? まさかトレーニングしてテッカテカしているその肉体で出迎えるなんて、そんなマネはしないだろう。しないよな?


 あ、窓が開いた。


「おお! 君たち、いい筋肉しているじゃないか」


 それは挨拶なのか?

 第一声から筋肉が飛ばしてくる。


「おい、あれは一年生の〈マッチョーズ〉を従えていたというあの〈微笑みのセレスタン〉ではないか?」


「ほう、間違いない。あの執事服の下には引き締まった筋肉が隠れているはずだ。俺には分かる」


 そうなのか?

 俺は思わずセレスタンの腕を見てしまう。しかし、そこには長袖しか映らなかった。分からない。


「はっはっは! お前たち、そこまでだ」


「む、リーダー?」


「おうリーダー、今日もいい筋肉だな」


 そこへ玄関からとある大男が出てきた。俺はその人物を見たことがあった。

 一度見たら忘れない。あの筋肉笑顔、マッスラーズのリーダーと呼ばれていた男だ。


「お前たちもいい筋肉だな。今日もいい筋肉作りに励むといい。この人たちはお客さんだ」


「そうか、トレーニングしたければいつでも言いな」


「俺たちが効率のいい筋肉のつけ方を教えてやるぜ」


 そう、窓から声を掛けてきた筋肉たちが引っ込む。

 爽やかな笑顔だった。

 そうして俺たちはまだ一言も発していないのに手厚い歓迎を受ける。


「ようこそ、我が〈筋肉は最強だ〉ギルドへ! 話は聞いているぞ」


「あ、ああ。今日はよろしくお願いする?」


 なぜか俺の胸に飛び込んで来いとばかりに腕を広げて歓迎するリーダーに俺は若干声が詰まって疑問が漏れてしまった。

 これは、歓迎されているのか?

 もしここで腕に飛び込んだりしたらどうなると言うんだ?

 絶対やらないけどな。


 俺の疑問の声に、腕を少し下げたリーダーが満面の笑みで頷く。


「うむ。〈勇者ゼフィルス〉、クラス対抗戦であの〈マッチョーズ〉たちを引き連れた戦法、誠に見事だった。素晴らしい〈筋肉ビルドローラー〉だったぞ。俺も技の開発者として鼻が高い」


〈筋肉ビルドローラー〉作ったのあんただったのか!? 思わず飛び出しそうになった言葉をギリギリで飲み込んだ。


「それにそこの執事はあの〈微笑みのセレスタン〉であるな? アランたちのポテンシャルを遺憾なく発揮させてくれて感謝に堪えない」


「恐縮です」


 セレスタンが普通に答えた。すげぇなセレスタン。この状況で動じてないぞ。


「まあ立ち話もなんだ。入りたまえ」


「えっと?」


「ゼフィルス様、お言葉に甘えさせていただきましょう。――それと、おそらくあちらからも何か話があるのかと思われます」


 俺たちは〈天魔のぬいぐるみ〉の購入の交渉に来ただけだ。そんな長居する話でもない。

 あと、来てなんだが中に入るのは少し躊躇してしまう俺がいた。

 しかし、セレスタンに言われて気を引き締める。


「では、お邪魔します」


「おう。こっちだ」


 そう言ってリーダーが玄関から中に入るのに続く。

 しかし、改めてリーダーはすごい体格だ。あのアランよりさらに一回り以上デカイ。

 着ているタンクトップがぱつんぱつんに見える。あれ、筋肉盛り上げたら服が弾けとぶんじゃないか?


「ここだ。客間だな」


 マッスラーズのギルドハウスに客間なんてあったのか、なんて思っても言ってはいけない。

 しかし、マッスラーズのリーダーは噂どおりの人物らしい。

 たしか聞いた話では、多少暑苦しいが話せば分かる人物、という評価だったはずだ。

 思ったよりまともそうで一安心だ。


 そんな思いは、客間のドアを開いたところで吹き飛んだ。


「「「いらっしゃい!!」」」


「うお!?」


 飛び込んできたのは筋肉が三つ。

 キレッキレのポーズの上半身裸の人たちが俺たちを歓迎していた。

 しかもいい笑顔でみんな歯をキラリと輝かせているんだ。やべぇ。

 俺はもしかしたらとんでもないところに来てしまったのではなかろうか?


「よければそちらに座ってくれ」


 そして動じずにこの光景を当然のものとして振る舞うリーダー氏。

 自然にソファへ促されたのでセレスタンと座る。


「飲み物はお茶かプロテイン、どちらがいい? お勧めはプロテインだ」


「あ、お構いなく」


 飲み物でプロテインを勧められたのはこれが初めてだった。


「そうか? よし、プロテインのじょうを持ってきてくれ」


「い、いや、プロテインは大丈夫だ。お気遣いだけ貰うな。あとお茶でいい」


 何がよしなんだ? あとじょうってなんだ上って。

 やばい。俺の〈ダン活〉知識がここまで通用しない場所は初めてだ。

 次にいったい何が飛び出してくるか分からない。


「察するに、何か特別なお話でもあるのでしょうか?」


 と、そこにセレスタンが切り込んだ。

 おお! 考えてみれば確かに、売れ残りの〈天魔のぬいぐるみ〉を引き取りたいという交渉をするだけならここまで手厚く(?)迎え入れられるはずはない。

 何か理由があると考えるのが妥当だろう。


 それを聞いたリーダーが向かいのソファに座り腕を組んで頷く。

 周りでポーズしている筋肉については考えないことにした。


「まずは自己紹介しよう。俺はBランクギルド、この〈筋肉は最強だ〉ギルドのギルドマスターをしているランドルだ。どうかマッスルと呼んでほしい」


 ランドルはどこ行ったの?




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