第675話 天使と悪魔とルルがぎゅっと組めばそれは最強




「セレスタン……、相変わらず仕事が早いな!?」


「恐縮です」


 俺はちょっとビックリしていた。

 だって俺たちのDランクギルド部屋が、今はもぬけのからなのだから。

 最初は何事かと思ったよ。セレスタンがいてくれて良かった。


 そこにリーナが入ってきた。


「あ、ゼフィルスさん、ちょうど連絡しようと思っていたところだったのです。引越し作業はほとんど終わりましたわ」


「言ってくれれば俺も手伝ったのに」


 そう、なんと今日は、〈テンプルセイバー〉と〈決闘戦〉をして僅か3日目だが、どうやら〈テンプルセイバー〉の使っていたギルドハウスへ引っ越すことになっていたらしいのだ。


 なぜ「らしい」とか、俺が知らなかったのかというと、俺がギルドメンバーの面接やなんやで忙しそうにしていたからだったようだ。リーナも〈51組〉の支援をお願いしたために引越し作業には率先して協力したようだが。


「いけませんわ、ゼフィルスさんは〈エデン〉の柱。ただでさえやることが多いのです、瑣末さまつごとはわたくしたちにお任せくださいな」


 引越しは瑣末ごとなのか? 結構大事おおごとだと思うのだが気のせいだろうか?


「ゼフィルス様、後はここの部屋の鍵を〈ギルド申請受付所〉へ返却すれば終了です」


「……とりあえず、了解した。じゃあ、新しいギルドハウスに向かうか」


「はい」


 そういうことになった。

 俺たちはとうとうギルド部屋を卒業し、ギルドハウスへと移るのだ。


 ちなみに引越しのことはミサトも初耳だったらしくハンナみたいにほへっていた。

 実はこの引越しも急遽決めたことらしい。


「はい。今日の朝方に連絡がありまして、〈テンプルセイバー〉のギルドハウスの明け渡し手続きが済んだとのことでしたわ」


「期限は1週間だったはずだが、早かったんだな」


「はい。持ち出すものが無かったのと、〈ホワイトセイバー〉の方々が陣頭指揮を取ったとのことで」


「あ~」


 セレスタンの言葉に納得する。

 例の〈決闘戦〉の報酬で〈テンプルセイバー〉は今着用している装備以外の全てを〈エデン〉に受け渡すことになった。

 それほどまでに〈白の玉座〉の価値がとんでもなかったのだ。


 そのおかげというわけではないが、〈テンプルセイバー〉の所属メンバーは着の身着のままでギルドハウスを出れば良いだけとなり、各方面に書類の提出や契約の打ち切りなどを連絡するだけで即退出できる状態になったのだという。


 ギリギリまでギルドハウスを占領していても、中にある物は全て〈エデン〉の持ち物になってしまったので下手に動かすこともできず居づらいだけとなり、2日で退出したというのが真相のようだ。

 加えてここまで早い仕事になったのは〈テンプルセイバー〉と入れ替わって親ギルドになった〈ホワイトセイバー〉の意向もあったためだとセレスタンは言う。


「現在〈助っ人〉の3人が目録と比較しております。受け取った品が無かったら随時請求する予定です。またあまりが出ましたら返却もしなければいけません」


「そうだな。その辺は任せる」


 あれだけの数になると確認作業だけで大変だ。〈助っ人〉を頼んでおいて本当に良かった。

 しかし改めて言葉にされると、ほとんど〈テンプルセイバー〉を乗っ取った形になってしまった気がする。気のせいだよな?


 一応、ポーション類とか、学園からの支給品とか、最低限必要な物は〈テンプルセイバー〉に渡すことで同意しているので、〈テンプルセイバー〉がダンジョンで活動できなくなる、という最悪の事態にはならないはずだ。俺だってダンジョンを取られることがどういうことかは分かっている。


 ちなみに〈エデン〉のギルド部屋にあった物は全てギルドハウスに移動されて、すでに配置も済んでいるらしい。仕事が早いな!?

 しかし、そうなると俺はどうしても気になることがある。


「セレスタン。〈幸猫様〉は無事か?」


〈幸猫様〉、大事。超大事!!


「はい。ゼフィルス様が心配なさいませんように大部屋に設置いたしました。大部屋は打ち上げや宴会などに使えるほか、普段は休憩室兼会議室として利用する予定の部屋です」


「さすがはセレスタンだ!」


 俺の心配事を的確に見抜いてくれる執事には感謝しかない。

 しかし、自分の目でも今〈幸猫様〉がどうなっているかを確認しておきたい。

 俺は気持ち焦りながらギルドハウスへと向かうのだった。


「場所はC道のほとんど端ですね」


「良い場所じゃないか」


 着いた場所は所謂戦闘ギルドのギルドハウスが立ち並ぶ区画だった。

 元〈テンプルセイバー〉のいたギルドだったからな。


「そうだ、セレスタン、生産部屋は?」


「ご要望どおり、一つの部屋を簡易的でありますが錬金部屋に整えてあります。現在ハンナ様が点検中です。」


「相変わらず仕事が早いな」


 朝通達されてそこまで整っているのか。

 そう、俺はギルドハウスを手に入れたらハンナ専用の生産部屋を作ろうと計画していた。

 とはいえ改装するのはもう少し後だ、今は〈錬金セット〉系のアイテムを運び込み、一つの部屋を錬金部屋にしている形。折を見て錬金工房へと改装するつもりだ。

 その時は全ての部屋もまとめて改装したいので、今は簡易生産部屋だな。


「ここが俺たちのギルドハウスか」


 俺は改めてギルドハウスを見上げた。

 うむ。まあ普通のCランクギルドハウスだな。2階建ての建物で、一番ランクが低いからこれと言って特徴的なところのない量産の建築物。

 本来はこれに何かしらデコレーションをしたり、改装したりして自分のギルドハウスっぽさを出していくのだが、出て行くときは元に戻す建築費も掛かる為、戦闘ギルドは見た目に拘らないところが多いらしい。勿体ない。


 俺のギルド〈エデン〉はハンナが店を出すためそれなりの店構えに改装するつもりだ。改装するときが超楽しみだ。

 一つ頷いて中に入室する。

 ギルドハウスは奥行きがあるため見た目より広く感じる。


 一番奥にあるのが大部屋だ。まずはそこを確認する。


「おお、〈幸猫様〉!」


 そこにおられたのは間違いなく〈幸猫様〉。

 ドアを開けたところで真っ先に目に入ったよ。

 ちゃんと神棚が設置され、その中心には我らが〈幸猫様〉、その横にはちょこんと〈仔猫様〉がおられていた。

 しかし、〈幸猫様〉の周りもぬいぐるみでいっぱいだな……。


「こちらの大部屋にはDランクギルド部屋にあった物をそのままの形で移しております」


 そっくりそのまま移すか。プロの仕事ですな。

 うん。遅れて大部屋を見渡してみると、確かにDランクギルド部屋そのままだったよ。


 とりあえず、中に入ると、神棚の前で一礼する。


「〈幸猫様〉〈仔猫様〉。新しい部屋ですが、どうかおくつろぎください」


 部屋のグレードが上がったので、宝箱もグレードを上げてくださると嬉しいです、と心の中でえておく。


 なんだか〈幸猫様〉と〈仔猫様〉がニコッと笑ってくれた気がした(気のせい)。


「ねえねえゼフィルス君、さっきの用事はいいの?」


「おおっとそうだった」


 やっべ、引越しという大事おおごとにうっかり忘れていたぜ。


「セレスタン、確か〈天魔のぬいぐるみ〉が目録に入っていただろ? あれはどこにあるんだ?」


「……それでしたら」


「あ、ゼフィルスお兄様なのです!」


 とそこに明るく元気の良いロリっ子ボイスが部屋に届いた。

 見ると部屋の入口には、ギルド〈エデン〉のヒーロー、ルルがそこにいた。〈天魔のぬいぐるみ〉を抱きしめながら。


「ゼフィルス様、今はルル様が持っておられます」


「そっかぁ。いや、姿が確認できたからとりあえずは良し」


 1億ミールのぬいぐるみと遊ぶルルかぁ。なんの問題もないな。


 改めてルルを見る。

〈天魔のぬいぐるみ〉は、座って向かい合った状態の天使と悪魔のぬいぐるみが、お互いをぎゅっと掴んで離さない姿をしている。

 そこにさらにぎゅっと掴んで離さないルル登場。


 ルルはそのままぬいぐるみの集まる部屋の奥へ移動して座ると、天使と悪魔と同じ格好を取った。

 三つの癒やしがお互いをぎゅっとしている尊い光景がそこにあった。

 スクショ!! スクショ機能はどこだぁぁぁ!?


「お兄様も一緒に遊ぶです?」


「お誘いありがとうルル。だがもう少しやる事があるからまた後でな。それとそのぬいぐるみは大切なものだから外に持っていったりしないようにな」


あい!」


 元気よく片手を挙げて返事をするルルに和みながら頷く。

 俺にはこんなことしか言えない。くっ、ルルをずっと見ていたいぞ!


 落ち着こう。

 とりあえず〈天魔のぬいぐるみ〉一つは確認できたな。


 あともう一つ手に入れなくてはならない。


「セレスタンに頼みたいことがあるんだが」


「なんなりと」


「実はもう一つ〈天魔のぬいぐるみ〉が必要になったんだ。以前オークションに〈天魔のぬいぐるみ〉が出品されていただろ? 追いかけられないかと思ってな。もちろんその他にも情報があれば入手してほしい。最終的には手に入れたい」


「なるほど、それでしたら僕より適任がおります」


 なぬ? セレスタンを超える適任だと?


「三年生の調査課、ユミキ様に頼むほうが確実かと」


「なるほど~」


 言われて見れば確かに。

 ユミキ先輩には〈テンプルセイバー〉の情報を依頼したときお世話になった。

 さまざまな情報に精通し、物探しなんかも得意としているらしい。


 よし、そうと決まれば早速連絡を取ろう。

 俺はユミキ先輩のアドレスに、メッセージを送るのだった。




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